悪役令嬢ですが、ヒロインより先に幸せを掴みます

さら

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第二十二話 揺さぶられる家

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 学院での式典を終えた翌日、公爵家の屋敷には重苦しい空気が漂っていた。
 「王太子殿下からの正式な書簡です」
 執事が差し出した封書を開いた父の表情は、読み進めるごとに険しさを増す。

 「……クラリッサ」
 「はい、お父様」
 「殿下は、我が家が王家に背を向けたと断じている。兄弟の対立を公爵家が煽っている、と」

 母の顔色が蒼白になった。家そのものが槍玉に挙げられようとしている。わたしが檻を拒んだことで、家族に直接的な圧力がかかり始めたのだ。

 「お前の意思は理解している。だが、家を守らねばならぬ」
 父の声は苦渋に満ちていた。

 ◇

 その日の夕刻、レオンハルトが屋敷を訪れた。重い空気の中に立つ彼は、いつも以上に真剣な顔をしていた。
 「公爵閣下、殿下からの圧力は承知しております。だが、どうか屈しないでいただきたい」
 「レオンハルト殿下……」父は眉をひそめる。「王家の兄弟の争いに巻き込まれるのは望まぬことだ」
 「わかっています。しかし、これは争いではなく選択です。クラリッサ嬢は檻を拒んだ。それを守るのが、わたしの役目です」

 わたしは横に立ち、静かに告げた。
 「お父様。わたしの選択が重荷であるなら、どうか叱ってください。それでも……戻ることはいたしません」

 父はしばし沈黙し、やがて深いため息を吐いた。
 「……頑なだな。だが、その覚悟に免じて、我らも腹を括るしかあるまい」

 母が目を潤ませながら頷いた。家族が揺らぎながらも、確かに支えてくれている。

 ◇

 その夜、わたしとレオンハルトは庭園を歩いた。冬の月が雪を照らし、静けさが広がっている。
 「兄上は今後、より強硬な手段に出るでしょう」
 「……そうね」
 「だが恐れることはない。あなたが檻を拒み続ける限り、わたしは必ず隣にいる」

 彼はそう言って、わたしの手を取った。その温かさが胸を満たす。
 「レオン……もし家が犠牲になってしまったら」
 「犠牲にはさせません。あなたも、あなたの家も」
 「どうしてそこまで……」
 「あなたが檻に戻らないと選んだから。その選択に、わたしは心を動かされた。……だから守りたい」

 胸が熱くなる。わたしは彼の瞳を見返し、静かに頷いた。
 「ありがとう。……わたしも強くなります」

 ◇

 寝室に戻り、机に白いハンカチと写しの地図を並べる。政略の影が濃く覆い始めている。けれど、恐怖よりも心に残るのは彼の手の温かさだった。

 ――悪役令嬢クラリッサは、家族を巻き込みながらも。

 ――確かに、自分の未来を選ぼうとしている。
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