悪役令嬢ですが、ヒロインより先に幸せを掴みます

さら

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第二十六話 妨害の影

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 婚約解消と新たな誓いから一週間。王都は嵐の前触れのように騒がしかった。
 ――王太子殿下はついにエミリア嬢を後継の妃候補に据える意向を示された。
 ――第二王子殿下は悪役令嬢を庇護し、公然と婚約を宣言した。
 ――社交界は二分され、今や火種ひとつで燃え広がる状況だ。

 その影響は公爵家に直撃していた。父のもとには連日、王太子派の使者が押し寄せる。
 「クラリッサ嬢が王家に仇なす存在であるなら、公爵家は断罪されねばなりません」
 「娘を第二王子に嫁がせることは、王太子に刃を向けることと同義です」

 言葉はやわらかいが、実質は脅迫だった。

 ◇

 「お嬢様……このままでは、公爵家が危うくなります」
 メアリが不安げに声を落とす。
 「ええ、分かっているわ。殿下はわたしを孤立させ、公爵家を締め付けることで檻に戻そうとしている」

 わたしは窓辺に立ち、雪を見下ろした。冷たい風がガラスを叩きつける。その音がまるで殿下の圧力のように響いた。

 ◇

 数日後、王宮で開かれた慈善会に招かれた。断れば「不義理」と噂される。受ければ「殿下に挑む」と囁かれる。逃げ道はなかった。

 会場に足を踏み入れた瞬間、ざわめきが広がった。
 ――あれが悪役令嬢。
 ――第二王子に縋る哀れな娘。

 視線が突き刺さる。わたしは深紅のドレスに身を包み、扇を持ち上げて一歩一歩を踏みしめた。

 「クラリッサ様!」
 声をかけてきたのは、無垢な瞳を輝かせたエミリアだった。彼女は純白のドレスで光に包まれている。
 「ごきげんよう。……私、まだ何も分からないことばかりで。クラリッサ様のように強くあれたら」

 その言葉は善意だった。だが周囲の視線がさらに冷たく突き刺さる。――“新しい妃候補は無垢で清らか、悪役令嬢は陰鬱”。比較は容赦なくなされていく。

 「ごきげんよう、エミリア様。……強さとは、檻に閉じ込められるのを拒むことですわ」
 そう答えたわたしの声は静かで、けれど確かに会場に響いた。

 ◇

 「クラリッサ」
 低い声が背後から響いた。振り返ればレオンハルトが立っていた。黒の外套を翻し、真っ直ぐにわたしを見つめる。

 「兄上は君を追い詰めようとしている。だが忘れるな。孤立しているように見えても、君はひとりじゃない」

 彼はその場で迷わずわたしの手を取った。ざわめきが広がり、誰もが息を呑む。
 「……ありがとう、レオン」

 その瞬間、確かにわたしは檻ではなく、共に立つ者の隣にいるのだと実感した。

 ◇

 夜、屋敷に戻って机の上に白いハンカチを置く。光を受けて輝く布は、わたしの選択を示す灯火だった。

 ――悪役令嬢クラリッサは、王太子の妨害に屈しない。

 ――自由と愛を選び、絆を深めていく。
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