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第三十四話 裂け目
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王太子殿下が仕掛けた「不正取引の嫌疑」は、王都全体をさらに揺らした。
――公爵家は反逆を企てている。
――いや、殿下の策謀に違いない。
――第二王子派と王太子派、どちらに与すべきか。
社交界の輪は完全に裂け、人々はそれぞれの立場を選ばざるを得なくなっていた。
◇
ある日、学院の講義室で。
わたしが姿を見せると、令嬢たちは二つの陣営に分かれた。
「ごきげんよう、クラリッサ様。……殿下を裏切った方と同じ教室にいるのは心苦しいですわ」
「まあ、何を仰いますの。クラリッサ様こそ勇敢なお方。檻を拒んだことを、わたしは誇りに思います」
教室の空気は鋭く張り詰め、わたしはその中心に立たされていた。
「……大丈夫ですか」
背後から声をかけてきたのはエミリアだった。無垢な瞳で、心底心配そうに見つめている。
「人々は誤解しているだけなんです。きっと殿下はお優しい方ですから……」
彼女の言葉は善意に満ちていた。だが、それこそが残酷な刃だった。殿下の優しさを信じる彼女の姿は、わたしを悪役に際立たせる。
「ごきげんよう、エミリア様。……わたしは誤解などしておりません。檻を拒んだだけです」
そう返すと、彼女は悲しげに瞬きをした。周囲の囁きがさらに広がる。
◇
その夜、公爵家の執務室にレオンハルトが訪れた。父と向き合い、真剣な声で言う。
「兄上の強硬策は続くでしょう。しかし、もはや重臣たちの中にも疑念を抱く者が増えている。裂け目は広がりつつあるのです」
父は腕を組み、低く唸った。
「だが、公爵家はすでに孤立している。取引も減り、家臣の中には恐れを抱く者もいる。……娘を守れるのか」
「守ります」
レオンハルトの声は迷いがなく、強く響いた。わたしはその瞳を見つめ、胸に熱を覚えた。
「わたしも共に立ちます。檻には戻りません」
「クラリッサ……」
父はしばし沈黙し、やがて頷いた。
「ならば我らも腹を括るしかあるまい」
◇
王宮では、王太子派と第二王子派の重臣たちが対立を深めていた。会議の場は罵声と怒号に包まれ、王国は真っ二つに割れる寸前だった。
「王太子殿下を支持せねば国は乱れる!」
「いや、第二王子殿下こそ真の未来を示しておられる!」
殿下は硝子の微笑を保ちながらも、瞳に焦りを宿していた。彼の策謀は思うように進んでいない。
◇
夜、机に白いハンカチを置く。裂け目は広がっている。王家の内部も、社交界も、国そのものも。
「……檻には戻らない。たとえ裂けた国の中心に立たされても」
囁いた言葉は、冬の月光に照らされ、誓いとして輝いた。
――悪役令嬢クラリッサは、裂けゆく国のただ中で。
――自由を選び続ける炎を胸に抱いていた。
――公爵家は反逆を企てている。
――いや、殿下の策謀に違いない。
――第二王子派と王太子派、どちらに与すべきか。
社交界の輪は完全に裂け、人々はそれぞれの立場を選ばざるを得なくなっていた。
◇
ある日、学院の講義室で。
わたしが姿を見せると、令嬢たちは二つの陣営に分かれた。
「ごきげんよう、クラリッサ様。……殿下を裏切った方と同じ教室にいるのは心苦しいですわ」
「まあ、何を仰いますの。クラリッサ様こそ勇敢なお方。檻を拒んだことを、わたしは誇りに思います」
教室の空気は鋭く張り詰め、わたしはその中心に立たされていた。
「……大丈夫ですか」
背後から声をかけてきたのはエミリアだった。無垢な瞳で、心底心配そうに見つめている。
「人々は誤解しているだけなんです。きっと殿下はお優しい方ですから……」
彼女の言葉は善意に満ちていた。だが、それこそが残酷な刃だった。殿下の優しさを信じる彼女の姿は、わたしを悪役に際立たせる。
「ごきげんよう、エミリア様。……わたしは誤解などしておりません。檻を拒んだだけです」
そう返すと、彼女は悲しげに瞬きをした。周囲の囁きがさらに広がる。
◇
その夜、公爵家の執務室にレオンハルトが訪れた。父と向き合い、真剣な声で言う。
「兄上の強硬策は続くでしょう。しかし、もはや重臣たちの中にも疑念を抱く者が増えている。裂け目は広がりつつあるのです」
父は腕を組み、低く唸った。
「だが、公爵家はすでに孤立している。取引も減り、家臣の中には恐れを抱く者もいる。……娘を守れるのか」
「守ります」
レオンハルトの声は迷いがなく、強く響いた。わたしはその瞳を見つめ、胸に熱を覚えた。
「わたしも共に立ちます。檻には戻りません」
「クラリッサ……」
父はしばし沈黙し、やがて頷いた。
「ならば我らも腹を括るしかあるまい」
◇
王宮では、王太子派と第二王子派の重臣たちが対立を深めていた。会議の場は罵声と怒号に包まれ、王国は真っ二つに割れる寸前だった。
「王太子殿下を支持せねば国は乱れる!」
「いや、第二王子殿下こそ真の未来を示しておられる!」
殿下は硝子の微笑を保ちながらも、瞳に焦りを宿していた。彼の策謀は思うように進んでいない。
◇
夜、机に白いハンカチを置く。裂け目は広がっている。王家の内部も、社交界も、国そのものも。
「……檻には戻らない。たとえ裂けた国の中心に立たされても」
囁いた言葉は、冬の月光に照らされ、誓いとして輝いた。
――悪役令嬢クラリッサは、裂けゆく国のただ中で。
――自由を選び続ける炎を胸に抱いていた。
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