無能扱いされ、教会から追放された聖女候補生、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。王子様とゆったりスローライフ。

さくら

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第37話「光と闇の最終決戦」

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 森を覆う闇と砦を照らす光――その境界線で、最後の戦いが始まろうとしていた。
 黒紋章と融合した司祭の影は異形の巨躯へと変貌し、背の翼を広げて夜空を覆う。目は燃えるように赤く輝き、吐き出す息は炎のような闇となって大地を焼いた。砦の石壁は崩れ、兵士たちの頬に熱風が叩きつけられる。

「これが……真の闇……!」
「こんなものに勝てるのか……!」

 恐怖が兵の胸を締め付けた。しかし、その中心でアレンが剣を掲げて叫んだ。
「聖女と共にある限り、俺たちは負けない! 光を繋げ!」

 その声に呼応し、兵士たちは剣や盾を掲げ、震える足を踏みしめた。



 リディアは砦の上に立ち、胸を押さえて呼吸を整えていた。身体はまだ衰弱しきっている。それでも彼女の瞳には強い意志が宿っていた。
「皆……どうか、私の光を受け取って」

 胸の奥の炎が脈動し、砦全体に温かな輝きが広がった。兵士たちの剣に光が宿り、心臓に再び力が漲る。

「体が……震えない……!」
「聖女様の光だ……!」

 希望が、絶望の隙間を塗り替えていく。



 闇の巨影が咆哮し、翼を振り下ろした。黒い暴風が砦を襲い、石と木を吹き飛ばす。兵士たちが押し潰されそうになったその瞬間、アレンが声を張った。
「俺が前に出る! 道を開け!」

 光を宿した剣を振りかざし、暴風に立ち向かう。刃が黒雲を裂き、風が弾け飛んだ。兵士たちがその背に続き、砦の壁を死守する。

「押し返せ!」
「まだ戦える!」



 だが巨影は怯まない。闇を纏った両腕を振り下ろし、砦の石壁を粉砕した。兵士たちが瓦礫に押し潰され、悲鳴が響く。
「ぐああっ!」
「下がれ! 後方へ!」

 砦全体が崩壊しかけた時、リディアの声が響いた。
「お願い……! まだ立って……!」

 彼女の祈りに応えるように、光が崩れた壁を包み込み、倒れた兵士たちを守った。かすかな癒しが施され、呻き声が安堵の吐息へと変わる。



 アレンは振り返り、リディアを見据えた。
「その光があれば、まだ戦える!」
「でも……このままでは……!」

 リディアの胸の光は再び暴れ、臨界の痛みを呼び覚ましていた。命を削る危うさが戻りつつある。それでも彼女は首を振り、涙を滲ませながら笑った。
「今度は……一人で背負わない。皆がいるから……!」



 森の奥から、司祭の影が嘲笑を響かせた。
「愚か者ども! 光を繋いだところで、闇は永遠に尽きぬ!」

 その声に、リディアは震える声で返した。
「尽きないのは……闇じゃない。人の祈りと絆こそ、永遠に繋がるもの!」

 胸の光が爆発するように輝き、砦全体を覆った。兵士たちが息を呑み、その力を剣に込めて叫ぶ。
「聖女様と共に!」
「闇を断つ!」



 光と闇が再び激突する。
 黒雲が渦巻き、白銀の輝きが裂け目を走る。大地は揺れ、空は引き裂かれるように震えた。

 最終決戦の幕は、ついに切って落とされた。
 砦の上空で光と闇が激突し、夜空が昼のように明滅する。雷鳴のような轟音が響き、衝撃波が大地を裂き、崩れた石壁をさらに粉砕した。兵士たちはその中でも立ち続け、剣を握り締めて闇の化身へと向かっていった。



 アレンは最前線で剣を振るい、巨影の爪を受け止めた。火花のように光と闇が散り、衝撃で足元が割れる。だが彼は一歩も退かず、全身で押し返した。
「俺たちの未来を……渡すものか!」

 背後から兵士たちが駆け寄り、光を纏った刃で巨影の脚を切り裂いた。闇が悲鳴を上げて揺らぎ、巨体がわずかに傾く。

「効いている! まだいける!」
「押せ! 押し返せ!」

 希望の声が戦場を震わせた。



 一方、リディアは砦の中央で両手を広げ、胸の光を解き放っていた。兵士一人ひとりの剣にその輝きを分け与え、倒れた者の傷を癒やし、再び立たせる。だがその度に、胸の奥の炎は痛みを伴い、体力を削り取っていった。

「はぁ……はぁ……まだ……繋がなきゃ……」
「リディア様!」マリアが叫ぶ。「もう限界です! これ以上は……!」
「いいえ……限界なんかじゃない。皆が繋いでくれる限り……私は立てる!」

 その声に呼応し、兵士たちはさらに声を張った。
「聖女様と共に!」
「俺たちが支える!」

 光は揺らぎながらも確かに強さを増していった。



 森の奥で黒紋章を背負った司祭の影が嘲笑する。
「愚かな娘よ……光を撒き散らすほどに、その身を蝕むのだ!」

 巨影が再び翼を広げ、闇の刃を雨のように降らせた。砦の屋根が崩れ、兵士が吹き飛ばされる。だがその瞬間、リディアの光が盾となって彼らを守った。

「守られている……!」
「まだ戦える!」

 安堵の声と共に、兵士たちが再び立ち上がった。



 アレンは剣を握り直し、仲間たちに叫ぶ。
「司祭を断て! あの紋章さえ壊せば、この闇は消える!」

 兵士たちが一斉に森へ突撃しようとしたが、巨影が立ちはだかった。黒い腕が大地を叩き、衝撃波で兵を吹き飛ばす。

「くそっ……!」
「まだ……倒れないのか……!」

 絶望が広がりかけたその時、リディアの声が響いた。
「皆……信じて! 私が光で道を開く!」



 リディアは胸の奥の炎を両手に集め、砦の前方へと放った。眩い光の奔流が森へと道を描き、巨影の身体を裂いた。

「今だ! 進め!」
 アレンが声を張り、兵士たちが雄叫びをあげて突撃した。光の道を駆け抜け、紋章のある森の奥を目指す。



 だが巨影も黙ってはいなかった。
 裂かれた身体を闇で補いながら、さらに巨大な腕を伸ばし、兵士たちを押し潰そうと迫る。

「うわああっ!」
「避けろ!」

 絶体絶命のその瞬間、リディアが叫んだ。
「お願い……まだ倒れないで!」

 祈りの光が砦全体を覆い、兵士たちを包み込んだ。大地を叩いた巨影の腕は光に阻まれ、弾かれて大きく揺らぐ。



 兵士たちはその隙に光の道を駆け抜け、ついに黒紋章の目前に迫った。
「見えた……!」
「これを……壊せば!」

 しかし、紋章の前に司祭が立ちはだかった。闇に呑まれた姿はもはや人の形をしていなかったが、その瞳には狂気の執念が宿っていた。
「来るがいい……この命、すべてを闇に捧げよう!」

 闇の司祭との直接対決が、いま始まろうとしていた。
 黒紋章の前に立つその姿は、もはや人ではなかった。骨と肉が闇に呑まれ、皮膚は黒い靄となって溶け落ち、両腕は異形の刃に変じていた。だが赤い瞳だけは爛々と燃え、狂気の執念に満ちていた。

「聖女よ……お前の光を呑み干して、この世を闇で満たしてやる!」
 低く響く声が森全体を揺らし、兵士たちの足をすくませた。



 アレンが一歩前に進み、剣を構える。
「やれるものならやってみろ。お前を斬り伏せ、この紋章を砕く!」

 光を纏った剣が白銀に輝き、司祭の闇の刃と激突する。火花が散り、轟音が森に木霊した。衝撃で木々が揺れ、兵士たちは必死に踏みとどまった。

「押せ! 司祭を退けろ!」
 兵士たちが剣を振るい、影の残兵を斬り払う。



 リディアは胸の痛みに耐えながら、両手を広げて光を解き放った。
「皆の力を……繋げて……!」

 その光は兵士たちの剣に流れ込み、刃がさらに強く輝く。闇に囚われた影は光に触れた瞬間、悲鳴をあげて消え去った。

「聖女様の光だ!」
「これで……勝てる!」

 希望の声が戦場を満たす。



 だが、司祭は笑っていた。
「小娘……お前の光は確かに強い。だが代償は必ずお前の身を蝕む!」

 闇の刃が大きく振り下ろされ、アレンを吹き飛ばす。地に叩きつけられた彼の周囲に砂煙が舞い、兵士たちが悲鳴をあげた。
「アレン様!」

 司祭は続けてリディアに狙いを定め、闇を凝縮した矢を放つ。
「まずは聖女からだ!」



 その瞬間、マリアが身を挺してリディアを抱きしめ、盾となった。
「リディア様ぁっ!」
 矢は光の障壁に弾かれたが、マリアは衝撃で血を吐き、地に崩れ落ちた。

「マリア!」
 リディアの悲鳴が戦場に響いた。涙が頬を伝い、胸の奥の光が激しく脈打つ。



 アレンが瓦礫から立ち上がり、叫んだ。
「リディア! 怒りで自分を焼き尽くすな! 皆で……繋げ!」

 その声にリディアは震える手を握り、涙を拭った。
「そう……私は一人じゃない。皆と共に……!」

 胸の炎が静かに整い、強大な光となって砦全体を包み込んだ。



 司祭が咆哮する。
「ならば、この身をすべて闇に捧げる!」

 彼の身体は完全に紋章と一体化し、巨大な黒き化身へと変貌した。背にはさらに大きな翼が生え、地を踏みしめるたびに大地が震える。

 兵士たちが声を失う。
「これが……最終の姿……」



 リディアは涙を拭い、剣を掲げたアレンと視線を交わした。
「アレン様……皆……これが最後よ。光を繋げて!」
「分かった。ここで決着をつける!」

 兵士たちが一斉に剣を掲げ、声を張った。
「聖女様と共に!」
「闇を断つ!」



 光と闇のすべてを賭けた最後の戦いが、今まさに始まろうとしていた。
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