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第3話 目覚めと村への同行
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微かな光が瞼を透かして差し込む。雨音はもうなく、森のざわめきが代わりに耳に届いていた。目を開けると、炉の火は小さく赤を残し、木の隙間から差し込む朝日が埃の粒を金色に照らしていた。
体を起こすと、肩に掛けられていた毛布がさらりと落ちる。昨夜、あのまま眠ってしまったのだ。夢の記憶は曖昧で、ただ温かな声だけが心に残っている。
「……おはよう、セリーナ」
低く穏やかな声が扉の方から聞こえた。振り返ると、アレクが小屋に入ってきた。外套の裾は朝露で濡れているが、その表情は夜明けと同じ清らかさを帯びていた。
「アレクさん……。ずっと見張っていたのですか?」
問いかけると、彼は軽く頷いた。
「何事もなかったよ。安心して眠っていた顔を見て、俺も不思議と休まった」
からかわれているのではない。彼はただ事実を言っている。それが余計に胸を熱くさせ、私は慌てて毛布を畳んだ。
◇
簡単な朝食を取る。干した果物を分け合い、泉の水で喉を潤す。夜の疲れが和らぎ、足首の腫れも少し引いている。アレクが巻いてくれた布がまだひんやりと心地よい。
「今日こそは村まで行こう。ここから半日の道だ。足に無理をさせないように、馬に乗せる」
「……馬に?」
思わず戸惑いが声に出る。騎乗の経験などほとんどない。だがアレクは微笑み、当然のように続けた。
「心配するな。俺の前に座れば落ちることはない。君の体重など羽のようなものだ」
口調は軽いが、言葉の底に真剣さが滲んでいた。断る理由もなく、私は頷いた。
◇
森を抜けると、露に濡れた道が朝日を反射して輝いていた。二頭の馬が待っていて、アレクは迷いなく黒馬に跨がった。そして私を軽々と抱き上げ、自分の前に座らせる。
背中に彼の胸板が触れ、腕が自然と私を囲む。馬が歩き出すと、その腕がさらに強くなる。
「怖くないか?」
耳元に落ちる声が近すぎて、思わず頬が熱くなる。
「……大丈夫です。むしろ、安心します」
正直な言葉が口から漏れて、私はすぐに俯いた。けれどアレクは笑みを含ませて答える。
「それならよかった。俺も安心した」
風が頬を撫で、森の匂いが遠のいていく。馬の歩調に合わせて身体が揺れ、そのたびに彼の腕の中で支えられる。――追放された孤独が、いまはもう遠い出来事のように思えた。
◇
昼過ぎ、森を抜けると小さな村が姿を現した。赤茶色の屋根、煙を上げる暖炉、子どもたちの笑い声。
村人がアレクの姿を見ると、驚いたように立ち止まり、すぐに深く頭を下げた。
「お帰りなさいませ、殿下」
殿下――。その言葉が耳に届いた瞬間、胸が跳ねる。
振り返ると、アレクは穏やかに頷いていた。
「ただいま。皆、変わりはないか」
村人たちが次々と近づき、彼に挨拶を重ねる。私はその場に取り残されるように呆然とした。彼はただの旅人ではなく、――隣国リュミエールの王子だったのだ。
アレクはそんな私に視線を向け、柔らかく微笑んだ。
「驚かせてしまったな。改めて名乗ろう。俺はアレクシス・リュミエール。この国の第一王子だ」
その言葉は、晴れ渡る空よりも眩しくて、私は息を呑んだ。
体を起こすと、肩に掛けられていた毛布がさらりと落ちる。昨夜、あのまま眠ってしまったのだ。夢の記憶は曖昧で、ただ温かな声だけが心に残っている。
「……おはよう、セリーナ」
低く穏やかな声が扉の方から聞こえた。振り返ると、アレクが小屋に入ってきた。外套の裾は朝露で濡れているが、その表情は夜明けと同じ清らかさを帯びていた。
「アレクさん……。ずっと見張っていたのですか?」
問いかけると、彼は軽く頷いた。
「何事もなかったよ。安心して眠っていた顔を見て、俺も不思議と休まった」
からかわれているのではない。彼はただ事実を言っている。それが余計に胸を熱くさせ、私は慌てて毛布を畳んだ。
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簡単な朝食を取る。干した果物を分け合い、泉の水で喉を潤す。夜の疲れが和らぎ、足首の腫れも少し引いている。アレクが巻いてくれた布がまだひんやりと心地よい。
「今日こそは村まで行こう。ここから半日の道だ。足に無理をさせないように、馬に乗せる」
「……馬に?」
思わず戸惑いが声に出る。騎乗の経験などほとんどない。だがアレクは微笑み、当然のように続けた。
「心配するな。俺の前に座れば落ちることはない。君の体重など羽のようなものだ」
口調は軽いが、言葉の底に真剣さが滲んでいた。断る理由もなく、私は頷いた。
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森を抜けると、露に濡れた道が朝日を反射して輝いていた。二頭の馬が待っていて、アレクは迷いなく黒馬に跨がった。そして私を軽々と抱き上げ、自分の前に座らせる。
背中に彼の胸板が触れ、腕が自然と私を囲む。馬が歩き出すと、その腕がさらに強くなる。
「怖くないか?」
耳元に落ちる声が近すぎて、思わず頬が熱くなる。
「……大丈夫です。むしろ、安心します」
正直な言葉が口から漏れて、私はすぐに俯いた。けれどアレクは笑みを含ませて答える。
「それならよかった。俺も安心した」
風が頬を撫で、森の匂いが遠のいていく。馬の歩調に合わせて身体が揺れ、そのたびに彼の腕の中で支えられる。――追放された孤独が、いまはもう遠い出来事のように思えた。
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昼過ぎ、森を抜けると小さな村が姿を現した。赤茶色の屋根、煙を上げる暖炉、子どもたちの笑い声。
村人がアレクの姿を見ると、驚いたように立ち止まり、すぐに深く頭を下げた。
「お帰りなさいませ、殿下」
殿下――。その言葉が耳に届いた瞬間、胸が跳ねる。
振り返ると、アレクは穏やかに頷いていた。
「ただいま。皆、変わりはないか」
村人たちが次々と近づき、彼に挨拶を重ねる。私はその場に取り残されるように呆然とした。彼はただの旅人ではなく、――隣国リュミエールの王子だったのだ。
アレクはそんな私に視線を向け、柔らかく微笑んだ。
「驚かせてしまったな。改めて名乗ろう。俺はアレクシス・リュミエール。この国の第一王子だ」
その言葉は、晴れ渡る空よりも眩しくて、私は息を呑んだ。
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