魔女扱いされて国を追われた聖女は、隣国の王子に溺愛される~いまさら戻ってきてくれなんて言われてももう遅いです~

さら

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第7話 王城での始まりと小さなすれ違い

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 朝の鐘が高く響き、王城の石壁を震わせた。窓から差し込む光は清らかで、部屋に置かれた花瓶の水面を揺らしている。目を覚ました私は、豪奢な天蓋つきのベッドから身を起こし、深呼吸をした。まだ夢の中にいるようで、指先でシーツをつまむたびに現実味が増していく。つい数日前まで、国を追われて森を彷徨っていたのだ。それがいまは王子の庇護のもと、王城に滞在している。

 外套を羽織り部屋を出ると、侍女が待っていた。茶色の髪をきっちりまとめ、礼儀正しい微笑みを浮かべる。

「おはようございます、セリーナ様。王女殿下がお呼びです」

 胸が跳ねる。昨日出会ったばかりのマリアンヌ王女が、わざわざ私を呼んでくださるなんて。緊張しながら彼女の居室へ向かう。

     ◇

 マリアンヌの部屋は鮮やかな布で飾られ、窓辺には小さな鳥籠が置かれていた。白い小鳥がさえずり、花の香りと混じり合って空気を甘くしている。

「セリーナ!」

 王女は両手を広げるようにして迎えてくれた。年は私より少し下だろうか。無邪気な笑顔に、胸の緊張がすっと解ける。

「昨日はゆっくり休めた? お兄様が直接お部屋を整えるように指示していたのよ」

「えっ……殿下が?」

「そうよ。あの人ったら、普段は冷静なくせに、あなたのことになると目に見えて落ち着かなくなるんだから」

 軽い冗談めかして笑うマリアンヌ。私は頬を赤らめて俯いた。まだ出会って間もないのに、彼が私のためにそこまで――。胸の奥が甘く疼く。

「でも安心して。お兄様は誠実な人よ。だから、あなたが怯える必要なんてないわ」

 マリアンヌの言葉は柔らかく、妹らしい優しさに満ちていた。

     ◇

 昼前、庭園でアレクと再会した。噴水の水が陽光に輝き、白い薔薇が風に揺れる。その中で彼は書類を抱え、数人の家臣に指示を出していた。普段の旅人の顔ではなく、王子としての厳しい眼差し。私を見つけると少し表情を和らげ、歩み寄ってきた。

「体調はどうだ?」

「ええ。おかげさまで、すっかり良くなりました」

「よかった。だが無理はするな。城の中でも慣れぬことばかりだろう」

 彼の気遣いが嬉しい。けれど、その背後で控える家臣たちの視線が突き刺さる。追放された聖女が王子と親しげに話している。その事実が噂になるのは容易に想像できた。

「……私がここにいることで、殿下にご迷惑をかけてしまうのでは」

 思わずこぼした言葉に、アレクの眉がわずかに寄る。

「誰がそんなことを言った?」

「いえ……ただ、皆の視線が」

 彼は一瞬だけ周囲を見回し、家臣たちに短く指示して立ち去らせた。そして静かな庭園に二人きりになると、真剣な声で告げた。

「気にするな。俺がここに置くと決めたのだ。君を非難する者がいれば、俺が止める」

 その言葉は力強かった。けれど同時に、胸の奥に小さな棘が残る。――彼に庇われるだけでいいのだろうか。私はただ守られる存在で、本当に彼の隣に立てるのだろうか。

     ◇

 夕暮れ、再びマリアンヌと会った。彼女は城下町で買ってきた小物を机に並べながら、私に言った。

「お兄様の隣にいるのは、強い人であってほしいの。力ではなくて、心が強い人。だから、セリーナも自分の価値を信じて」

 その言葉は胸に深く刺さった。私がこの先、どんな存在でありたいのか――答えはまだ出ない。だが一つだけ確かに思う。

 ――彼に庇われるだけの存在では終わりたくない。

 夜が訪れ、窓から星々がきらめいていた。私はベッドに横たわりながら、心に小さな約束を立てた。いつか彼の隣で、胸を張って立てる自分になろうと。
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