魔女扱いされて国を追われた聖女は、隣国の王子に溺愛される~いまさら戻ってきてくれなんて言われてももう遅いです~

さら

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第6話 王都への道と城門の先で

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 草原を渡る風は澄み、遠くの山並みを青く霞ませていた。馬の背で揺られながら、私は昨夜の言葉を反芻する。――「都へ来てほしい」。軽い誘いではなかった。あの眼差しに宿っていたものは、確かに未来を見据えた意志だった。

 馬の手綱を握るアレクの横顔は迷いなく、額にかかる髪が風で揺れる。真っ直ぐに前を見据える姿を目にすると、不安も同時に膨らんでいく。都は彼の国の中心、王家と貴族の集う場所。追放された聖女の私が足を踏み入れてよい場所なのだろうか。

 けれど――馬の歩みに合わせて彼の腕がそっと背を支えている。その温かさに、否定の言葉は喉で溶けた。

     ◇

 途中、小さな村を越え、道沿いの泉で休憩した。アレクは水袋を満たし、私に差し出す。冷たい水が喉を潤し、身体に染み込んでいく。

「顔色がよくなった。足首もずいぶん腫れが引いたな」

「はい。……アレクさんのおかげです」

「俺の名を呼んでくれると、安心する」

 ふとした一言に胸が跳ねる。彼は本気でそう思っているようで、目を逸らすことができなかった。

 木陰で休んでいると、鳥の声に混じって車輪の軋む音が近づいてきた。旅商人の一行だ。アレクが軽く手を上げると、彼らは驚きの声を上げて馬車を止めた。

「殿下……!」

 慌てて跪こうとする商人に、アレクは制した。

「顔を上げろ。通りを借りるだけだ」

 そのやり取りを見て、改めて思い知らされる。彼は本当に、この国の王子なのだと。昨夜まで「ただの旅人」だと思い込んでいた自分が、夢を見ていたように思えてしまう。

     ◇

 数日の旅を経て、王都が見えてきた。白い城壁が太陽を反射して輝き、遠くからでもその壮麗さが伝わる。尖塔の屋根は赤く、街の中からは商人の呼び声が風に乗って聞こえた。

「ここが……リュミエール王国の都」

 呟くと、アレクが誇らしげに頷いた。

「そうだ。俺が守るべき場所、そして君に見てほしい場所でもある」

 城門前には多くの人々が行き交っていた。商人、旅人、兵士。門番が私たちに気づくと、すぐに敬礼し、門を開いた。

「殿下、ご無事のお戻り、安堵いたしました!」

 人々の視線が集中する。私は外套の裾を握り、居心地の悪さに俯いた。だが、アレクが小さく囁く。

「気にするな。君は俺と共にいる。それで十分だ」

 その言葉に勇気をもらい、顔を上げた。

     ◇

 城内に入ると、石畳の広場で一人の少女が駆け寄ってきた。銀に近い金髪を揺らし、淡い紫のドレスを纏っている。彼女は息を切らしながらも嬉しそうにアレクへ飛びついた。

「お兄様!」

 その呼び方に驚く。彼女は王子の妹、つまりこの国の王女に違いない。

「マリアンヌ、落ち着け。人前だ」

「だって、ずっと戻らないんですもの! 心配しましたわ」

 愛らしい笑顔にアレクは苦笑し、視線を私へ向ける。

「紹介しよう。この方はセリーナ。旅の途中で助けを必要としていた。しばらくは城に滞在してもらう」

 マリアンヌ王女の瞳が興味深そうに輝いた。

「まあ……お兄様が自ら連れて来られるなんて珍しいですわ。ようこそ、城へ」

 彼女の笑顔に救われた気がした。追放され、居場所を失った私に、新しい扉が開かれようとしている。

     ◇

 石造りの城の廊下は長く続き、窓から差し込む光が床に模様を描いていた。案内された部屋は広く、花を飾った机や暖炉があり、まるで夢のようだった。

「ここを自由に使うといい。誰も君を追い出したりはしない」

 アレクの声が部屋に響く。胸の奥が熱くなり、私は深く頭を下げた。

「……ありがとうございます」

 新しい生活が始まる。その予感と共に、鼓動が高鳴った。
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