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第30話 再び揺れる民意
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黒衣の男が逃げ失せた後も、街のざわめきは鎮まらなかった。夜毎に広場で囁かれる「聖女は魔女だ」という声、城下に流れる不可解な噂。誰かが意図的に不安を撒き散らしているのは明らかだった。
――敵対派閥が反撃に出たのだ。
その空気を感じ取るたび、胸に冷たいものが落ちる。だが、もう恐怖に囚われるだけの自分ではいられない。
◇
ある日の朝。城下で再び集会が開かれるとの報が届いた。煽動者たちが人々を集め、「魔女を追放せよ」と叫んでいるらしい。アレクは険しい表情で剣の柄を握った。
「俺が討つ。だが……セリーナ、君は来なくていい」
「いいえ、行きます」
即答すると、彼は驚いたように目を見開いた。
「危険だ。前にも言ったはずだ」
「逃げれば、彼らの言葉を肯定することになります。……私の存在が人々を揺らしているのなら、私自身が答えなければ」
しばしの沈黙ののち、彼は深く息を吐いた。
「……わかった。ただし絶対に俺の傍を離れるな」
◇
広場にはすでに多くの人が集まっていた。黒衣の男の姿はないが、彼の仲間と思しき者が群衆を煽っていた。
「魔女を追い出せ! 国を守れ!」
怒号が飛び交い、空気は荒れていた。だが、その中に確かに私を知る人々の姿もあった。医務室で癒やした兵士、厨房の侍女、孤児院の子どもを見守る修道女――皆が不安げに私を見ている。
私はアレクに支えられながら一歩前に出た。喧噪が一瞬静まり、視線が集まる。
「皆さま……私は魔女ではありません」
声が震える。けれど逃げない。
「私は追放され、この国に来ました。最初は疑われ、恐れられました。それでも、人を救いたいと願い、兵士や侍女、子どもたちのために力を使いました」
群衆にざわめきが広がる。私は胸に手を当て、続けた。
「どうか、私の行いを見てください。噂ではなく、目の前の真実を。私を魔女だと呼ぶのなら――救われた人々の声を否定することになります」
その言葉に応えるように、兵士が声を上げた。
「俺の命を救ってくれたのはセリーナ様だ!」
侍女も叫ぶ。
「怪我を癒していただきました!」
やがて群衆の中から拍手が起こり、それは広がっていった。
◇
煽動者たちは狼狽し、慌てて立ち去った。アレクは兵に命じ、彼らの後を追わせる。広場に残ったのは、まだざわめきの余韻を抱えながらも、私を見つめる人々のまなざしだった。恐れよりも、確かな信頼の光がそこにあった。
私は深く頭を下げた。
「ありがとうございます……私を信じてくださって」
涙が滲み、視界が揺れる。
◇
城に戻る道すがら、アレクが静かに言った。
「君は今日、自分の力で人々を動かした。……俺は誇りに思う」
胸に熱いものが込み上げる。守られるだけではなく、共に戦える。そう実感できた瞬間だった。
◇
夜。窓から見下ろす街の灯は、揺らめきながらも温かい。噂はまだ消えないだろう。敵の影もなお蠢いている。
それでも、私はもう逃げない。
――アレクと共に未来を掴む。
その誓いは、星空の下で静かに、確かな炎となって胸に刻まれた。
――敵対派閥が反撃に出たのだ。
その空気を感じ取るたび、胸に冷たいものが落ちる。だが、もう恐怖に囚われるだけの自分ではいられない。
◇
ある日の朝。城下で再び集会が開かれるとの報が届いた。煽動者たちが人々を集め、「魔女を追放せよ」と叫んでいるらしい。アレクは険しい表情で剣の柄を握った。
「俺が討つ。だが……セリーナ、君は来なくていい」
「いいえ、行きます」
即答すると、彼は驚いたように目を見開いた。
「危険だ。前にも言ったはずだ」
「逃げれば、彼らの言葉を肯定することになります。……私の存在が人々を揺らしているのなら、私自身が答えなければ」
しばしの沈黙ののち、彼は深く息を吐いた。
「……わかった。ただし絶対に俺の傍を離れるな」
◇
広場にはすでに多くの人が集まっていた。黒衣の男の姿はないが、彼の仲間と思しき者が群衆を煽っていた。
「魔女を追い出せ! 国を守れ!」
怒号が飛び交い、空気は荒れていた。だが、その中に確かに私を知る人々の姿もあった。医務室で癒やした兵士、厨房の侍女、孤児院の子どもを見守る修道女――皆が不安げに私を見ている。
私はアレクに支えられながら一歩前に出た。喧噪が一瞬静まり、視線が集まる。
「皆さま……私は魔女ではありません」
声が震える。けれど逃げない。
「私は追放され、この国に来ました。最初は疑われ、恐れられました。それでも、人を救いたいと願い、兵士や侍女、子どもたちのために力を使いました」
群衆にざわめきが広がる。私は胸に手を当て、続けた。
「どうか、私の行いを見てください。噂ではなく、目の前の真実を。私を魔女だと呼ぶのなら――救われた人々の声を否定することになります」
その言葉に応えるように、兵士が声を上げた。
「俺の命を救ってくれたのはセリーナ様だ!」
侍女も叫ぶ。
「怪我を癒していただきました!」
やがて群衆の中から拍手が起こり、それは広がっていった。
◇
煽動者たちは狼狽し、慌てて立ち去った。アレクは兵に命じ、彼らの後を追わせる。広場に残ったのは、まだざわめきの余韻を抱えながらも、私を見つめる人々のまなざしだった。恐れよりも、確かな信頼の光がそこにあった。
私は深く頭を下げた。
「ありがとうございます……私を信じてくださって」
涙が滲み、視界が揺れる。
◇
城に戻る道すがら、アレクが静かに言った。
「君は今日、自分の力で人々を動かした。……俺は誇りに思う」
胸に熱いものが込み上げる。守られるだけではなく、共に戦える。そう実感できた瞬間だった。
◇
夜。窓から見下ろす街の灯は、揺らめきながらも温かい。噂はまだ消えないだろう。敵の影もなお蠢いている。
それでも、私はもう逃げない。
――アレクと共に未来を掴む。
その誓いは、星空の下で静かに、確かな炎となって胸に刻まれた。
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