星空に咲く花畑

セイカ

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6話 父子の星座 後編

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父さんと喧嘩をして、先輩の罪を知り、落ち込んでいた俺を、辰支くんはまた優しい笑顔と言葉で救ってくれた。
話す勇気が湧いてきた俺は、辰支くんにお礼を言うと、彼は

「お役に立てたのなら良かったです。」

と優しく微笑んだ。

二人で笑いあっていると、ピンポーンとインターホンが鳴る。

出てみると祐介だった。

「お前大丈夫か?!急に切れたから心配で…て、そこまで酷い顔じゃないな…」

と初めは慌てた様子だったが、俺の顔を見て、安心したように落ち着く。
どうやら、電話が急に切れたので、おかしなことを考えているんじゃないかと思い、すぐに俺のマンションに向かったらしい。祐介も俺と同じ街に住んでいるが、かなり離れた場所に家がある。
悪いことをしたなと思った。

「誰か来てるのか?」

と祐介は玄関に置いてある見知らぬ靴を指さしながら聞いてきた。
辰支くんの靴だと言うと、

「ああ、お前が今好きなやつか。」

と小声で言う。俺は恥ずかしいながらも頷く。
実は祐介には辰支くんのことは出会ったあの日から話している。
最初は祐介に「そいつは大丈夫か?」と心配されていたが、様々な壁にぶつかるたんびに助けてくれた彼の話をすると、

「そこまでしてくれるなんて良い子だな!」

と言うようになった。そして辰支くんに会いたがったりもしていた。
なので、俺はせっかくなので、家に上げる。
上がった祐介はリビングに行き、驚いた表情をしていた。
どうしたと聞いてみると、

「めっちゃ綺麗な子だな…!」

と小声で言う。祐介はバイとかではないが、偏見は全くないので、俺の性的指向は知っている。
辰支くんがじーっと俺達の方を見た後に

「お友達ですか?それなら僕は失礼致しますね。」

と穏やかな口調で言いながら荷物を持つ。

「えっ?ゆっくりしていきなよ。」

と俺は止める。祐介も「そうですよ」と言うが、

「いえいえ、せっかくですが、僕は失礼致します。お友達とのお話の邪魔をしてはいけませんしね。」

と言い張る。邪魔どころかずっといて欲しいぐらいだが、あまり引き止めるのも良くないと思い、俺は「分かった。気をつけてね」と言って玄関まで送る。祐介も見送っていた。
ドアノブに手をつける前に辰支くんが

「そういえば、ひとつお聞きしたいことが…」

と言ってきた。「何?」と聞くと、

「お父さんはどのようなお仕事をなされてるのですか?」

と聞いてきた。俺が「何で?」と聞くと、どうやら先程の話を聞いて父親がどんな仕事をしているのか気になったらしい。

心配させてるなぁ…

と思いながら

「父は医者だよ。精神科のね。」

と答える。何か言うのかと思えば

「そうですか…」

と暗い顔で一言言ったが、すぐに明るい表情になり、「すみません、失礼致します。」と会釈をしながら言って部屋を出ていった。
一瞬暗い顔をしていたのでどうしたんだろう…と思ったが、あまり気にしないことにした。
何故かその方が良いと自分の中で思ったからだ。




「残念…もっと話してみたかったぜ。」

と祐介がリビングのソファに座りながら言った。

「何か用事があったんだろ。」

と俺が言うと、祐介が俺の顔を覗き込みながら

「なるほど、あの子のおかげか。納得した。」

と笑う。
俺の表情があまり辛そうでないことを気にしていたみたいだ。

「そうだよ。彼に励まされたからな。」

と俺はフッと笑った。
祐介に次の土曜日に父さんともう一度話すことにしたことを伝えると、

「そうだな!もう一度話して来い!」

と俺の隣に座り、ドンッと背中を叩いた。
鍛えてるため、そこまで痛くはなかったが、やっぱりヒリヒリとはする。

そして土曜日まではいつも通りに過ごした。

土曜日当日。俺は緊張しながら電車に乗り、実家の最寄り駅に降りて、家に向かう。
駅からすぐなのであっという間に家に着く。
インターホンを鳴らすと出たのは俺の兄貴だった。

「よお!護也。久しぶりだな!」

俺には兄貴が二人いてその弟の方だった。
久しぶりに会った。

弟の方の兄貴の名前は星野護彦。
父と同じ医者、ではなく、心理カウンセラーだ。周りからは何故か医者だと勘違いされている。
兄は、父さんと同じ病院で働いており、かなりのやり手。兄貴に相談した人は必ず立ち直るらしい。
父さんと兄貴の担当になれた患者は1ヶ月もしないうちに病気を治し、前を向いて生きているらしい。
二人は揃って自分たちは手伝いをしているだけという。
しかし、1年前から相談を受けている子がいるが、いるが、なかなか心を開かないらしい。
実はその患者は父さんが担当医している人だ。

二人が担当なのに未だ心を開かないなんて…

と思っていると、兄貴が俺に家に入るように促す。
緊張しながら俺は家に入る。

リビングに行くと、母さんが、

「護也!おかえり!」

と言って駆け寄ってきてくれた。
父さんは机の椅子に座りながら新聞を読んでいるだけだったが「おかえり」と俺の方は見なかったが、そう言ってくれた。俺も「ただいま」と答える。

母さんがお茶を入れてくれて、他愛ない話をしていたが、やっぱり、少し気まずい空気になる。
すると、父さんが

「先輩、捕まってしまったらしいな…」

と話し始める。

「お前には辛い現実だが、お前が何かされる前で本当に良かったよ。」

と静かに言った。
俺はその言葉で、自分の気持ちを言おうと決めた。

「父さん、ごめん!俺はもっと自分に自信をつけたくて、信頼出来ると思っていた先輩の話に乗ろうと思った。けど、それは間違いだった。先輩が逮捕されて、ショックを受けた。でも、知り合いに教えてもらった。止めてくれる人がいるなら1度は止まった方が良いと。本当に、ごめん!」

泣きそうになりながら話すが、踏ん張りながら、1番伝えたいことを言う。

「俺は今まで父さん達に助けて貰ってばかりだったけど、これからは俺も父さん達を助けたい!信じあって、繋がりたい。」

そう言いきると、俺は少し涙が出てしまった。
隣に座っていた兄貴にティッシュを渡され、それで涙を拭く。
父さんは少しの間黙ったが、すぐに話し出す。
「俺の方こそすまなかった…痛かったろう。お前達を叱りはしたが叩くなんてしなかったからな。」

父は昔から優しい人だ。叱ったりしたが、叩くことだけはしなかった。

「本当にすまなかった。ただな、ひとつお前の言葉で訂正したいことがある。」

父さんの言葉に俺は「え?」と言うと、父さんは優しい笑顔で

「お前もちゃんと俺達のことを助けてるよ。じゃないと皆ここまでやってこれてない。家族皆が助け合ったから今がある。これだけは忘れないでくれ。」

と言ってくれた。
その言葉に俺は「ああ…」と泣くのを堪えながら答える。
父さんを見ると、少し目が潤んでいた。
そのあとは皆で他愛ない話をして盛り上がった。先程の気まずさは全くなく話せた。
今海外に行っているもう1人の兄貴がいたらもっと楽しいのにと思う。

仲良かった家族、または仲間が、1度気まずくなる時もある。家族や仲間と言っても、違う人間いわゆる「他人」だ。でも、だからこそ「集まることで出来ることが増える。」、この言葉が大事になってくる。
俺は今回改めて、家族というものを知る。
辰支くんの言葉を借りるなら家族はひとつの星座、または花束だということ。
あとは父さんと俺だけの繋がりの「父子の星座」もあるということだ。

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