10 / 12
1章
10話
しおりを挟む「やぁ……ずいぶんと寝ていたね。……少年」
そう言ってカヴァリエは僕に話しかけてくる。
「はい……あなたはカヴァリエで……いいんですよね?」
カヴァリエに僕は尋ねる。
「まさしく、私こそカヴァリエだが……君は何故私の名を知っている?」
(……そうか! 僕はカヴァリエを使役した事を知っているけど、カヴァリエ本人は知らないんだ!)
「えーっと……僕は僕の持つ特殊な力であなたを使役したというか……まぁはっきり言ってしまうと支配下に置いたというか……その力であなたの名前を知ったというか……」
カヴァリエは怪訝そうな表情で僕の話を聞き、やがて口を開く。
「何を言っているんだ少年……っと言いたいところだが、狂精霊に成り果てたはずの自分がこうして精霊に戻っている事とこの胸に宿る君を守らねばという強烈な思いからしてあながち嘘とは言えんか……」
カヴァリエからのキツいお言葉を予想していた僕は、カヴァリエの様子を見て肩を下ろす。
「信じてくれて良かったです! どうやって信じてもらおうか不安だったので……」
カヴァリエは見た目は凛としていて、身につけているその甲冑と相まって厳格そうだが、意外と柔軟な思考なのかもしれない。
「時に少年……君の話によると君は私の主となったのであろう。さすれば、その名をお聞きしたい」
「えーっと……僕の名はグレイと言います」
カヴァリエは僕の名を聞くと、腰に差していた剣を抜き、真っ直ぐに地面に刺した後、片膝を立て、騎士の礼を取る。
「ならば私も答えよう。私の名はカヴァリエ! 雷属性の上級精霊である。何故このような事になっているかは分からぬが、私には今やらなければならない事がある! それさえ叶うならば今生において、私の全力をもって貴方に仕えよう。 返答はいかに!」
惚れ惚れするような口上に僕はしばし見惚れ、ハッとなって慌てて口を開く。
「……あなたが何を望んでいるのかは分からない。だけど、僕はあなたの望みを全力で叶えると約束するよ」
僕は何とか言葉を振り絞る。カヴァリエは返答を聞くと、勢いよく立ち上がりその剣を鞘にしまう。
「約束は成った!」
勢いよく宣言し、カヴァリエは僕に仕える事を了承したことを告げた。
(狂精霊の時からそうだけど、本当に騎士みたいだなぁ……)
その姿に僕が感心していると、カヴァリエが不意に僕に尋ねる。
「時に我が主よ。今は精暦《せいれき》何年であるか?」
精暦とは精霊界ができてからの年数を表したものである。噂では世界に始めに生まれた帝級精霊がこれを定めているらしい。
「えーっと……確か112389年だったかな?」
僕が現在の精暦を答えると、カヴァリエの表情が一変する。
「なにっ!? 112389年だと! 本当なのかそれは!」
カヴァリエは僕の肩を掴み、激しく揺さぶる。
「本当です! 嘘はついてません!」
カヴァリエは僕の返答を聞き、しばし呆然とした後、頭を振り、顔をキリッとさせる。
「ふむ、そうか……。ならば尚更我が望みを果たさなければいけなくなった! 主よ、よろしく頼むぞ! ワハハハハハハ!」
そう言ってカヴァリエは元気に笑い出す。僕はその様子に苦笑しつつ、ふと気になった事を尋ねる。
「そういえば、カヴァリエさんの望みってなんなんですか?」
「我が主よ。あなたは今は我が主人となったのだ。私のことはカヴァリエと呼び捨てにすれば良い」
そう言ってカヴァリエは名前を呼び捨てで呼ぶ事を促す。
「わかったよ、カヴァリエ」
「うむ!」
呼び捨てで呼んだ僕の様子にカヴァリエは満足そうに頷く。
「おっと、そういえば私の望みの話だったな。ふむ、そういえば話していなかったな。私の望みは……」
カヴァリエさんは少し溜めた後、宣言する。
「私の望みは、【狂精の墓場】の最深部に向かう事だ!」
僕はそれを宣言を聞き、しばし放心した後、やがて我に帰る。
「え~~~~~~~!」
僕の反応にカヴァリエは戸惑った様子で頭を掻く。
「そんなに変な事を言ったか?」
「変なんてもんじゃないですよ! だって【狂精の墓場】の最深部って言ったら、怪物のような狂精霊が彷徨う精霊界一の危険遅滞じゃないですか!」
僕は思わずカヴァリエに勢いよくまくし立てる。カヴァリエは拗ねたような表情をした後、口を開く。
「……私の望みを全力を叶えると言ったではないか。……私の身を引き換えに望みを果たすと言ったではないか!」
「うっ……!」
カヴァリエの言葉に思わずうめく。
(確かに約束しちゃったなぁ……。でもまさか最深部へ行きたいなんてなぁ……)
僕は頭の中で散々迷った挙句、ため息をこぼす。
「……分かりました。約束しましたもんね、望みを叶えるって……」
カヴァリエは僕の言葉を聞き、表情を明るくする。
「うむ、よろしく頼む!」
(……なんかとんでもない事を安請け合いしちゃったなぁ)
僕は自分のこれからを考え、若干後悔する。カヴァリエはそんな僕の様子もなんのそのといった感じで口を開く。
「それでは主よ。行こうではないか!」
「行こうではないかって……カヴァリエはどうやって行くか知ってるの?」
僕はカヴァリエに最深部への行き方を尋ねる。するとカヴァリエは元気よく返答する。
「うむ、知っているぞ! なんせ私は最深部への道を守るためにこの扉の前にいたのだからな!」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
7
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる