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1章
はぐれメ○ルと気が合うかもしれない
しおりを挟むボッチにとっての最悪のイベント、スポーツ大会を無事(?)に終えた俺であったが、久しぶりに体を動かしたためか、腕や足が重い。
もう少し、普段から運動すべきだろうか? いや、今後体を動かす機会なんて授業ぐらいだし大丈夫だろ。もう2度とクラスでスポーツ大会なんてあるわけないさ(フラグ)。
あ~、今日はホントに疲れた。やっぱり、ボッチがああいうイベントに参加するもんじゃないな。完全に針の筵である。あんなに複数人から、熱心に視線を注がれちゃ、穴だらけになっちまうぜ。
そういや、針の筵の筵ってどういう意味だ? 寧ろ? 毟ろ? いや、無視ろから来ているのかもな。今日の俺みたいに無視しなきゃ、穴だらけになっちまうぞって意味から来ているのか? だとしたら納得だぜ!
「透……」
新たな(間違った)知識を得ていると、不意に、俺の名前をポツリと漏らした女の人の声が聞こえる。
んっ? スポーツ大会で何か忘れ物でもしたか? いや、そもそも無理矢理連れてこられたから財布はおろか、携帯も何も持ってなかったわ、ハハッ!
名前を呼ばれる心当たりがないなぁ、と思いながら後ろを振り返ると、そこには小学生時代の幼馴染、白雪真代が立っていた。
肩までで綺麗に切り揃えられた黒髪に若干吊り目の少し気が強そうな顔は、間違いなく小さい頃から何度も見てきていた白雪真代の顔であった。相変わらずの美少女っぷりだな白雪。
「透……久しぶり」
「ああ、久しぶりだな、白雪」
「……!」
挨拶を返すと、白雪の表情が険しく歪む。えっ、そんなに名前呼ばれるの嫌だった? 確かに、俺みたいなボッチが気安く呼び捨てにするのはいかんかもしれんな。よし、これからは白雪さんと呼ぼう。これなら文句なんて出ようはずもない。完璧な対応である。俺のボッチ歴は伊達ではないのだ!
「すまないな、白雪。俺みたいな奴が白雪なんて馴れ馴れしく呼んじまって。これからは白雪さんって呼ぶから安心してくれ」
「……!」
なぜか、白雪さんの表情はより険しくなる。なぜだ!? ボッチでコミュ力ゼロの俺じゃ、白雪さんの気持ちは一生分かり得ないと言うのか! これがもしかして有名なジェネレーションギャップか!? あっ……同い年だったわ。
「真代って……呼んでくれないんだね」
「何言ってるんだ白雪さん」
俺たちはただの幼馴染だ。それ以上でも、それ以下でもない。言ってしまえば、友達ですらないのだ。そんな相手が気軽に真代なんて呼べば、完全にストーカー案件である。俺はまだ(?)、警察の御用にはなりたくないのである。
いきなり、下の名前を呼び捨てにするなんて、池谷君のようなイケメンだけに許された芸当である。俺なんかが気軽に呼び捨てなんかすれば、即、女子全員から叩かれること受け合いである。そして、次の日から誰も話しかけて来なくなるだろう。ああ、自分で言ってて悲しい。
「でも……昔はお互いに名前で呼び合ってたじゃない!」
「昔の話だよ」
あの時は俺も若かったのだろう。今では、事前に危機を察知し、未来の不幸な状況を避けることができるようになった。人っていうのは成長するもんだなぁ。
「透……今、私、透と同じ学校に通ってるんだ。だからさ、これからは一緒にーー」
「安心してくれ白雪さん。俺が君と昔、恋人だったことは誰にも言わないよ。俺なんかと嘘とはいえ、付き合ってたなんて知れたら、彼氏はおろか、友達もできなくなるもんな。昔もそれで君を苦しめてしまった」
「ち、ちが……!」
「安心してくれ白雪さん。金輪際、君に近づかないように気をつけるよ。それじゃ、俺はこれから家で体を休めるから、ここで失礼させてもらうよ」
体の向きを帰り道の方へと戻し、歩き始める。ボッチの基本行動は逃げる一択である。はぐれメ○ルと気が合うかもしれない。
「待っ……!」
「?」
後ろから白雪の声が聞こえた気がしたが気のせいだろう。あれだけ、今後は関わらないようにすると念押ししたのだ。白雪さんの不安は完全に取り除いたはずだ。この相手を気遣う能力、自分ながら恐ろしい……!
俺は後ろで悲しみに顔を歪める白雪に気付くこともなく、その場に立ち尽くす白雪から遠ざかっていくのだった。
ーーーーーーーーーー
《白雪真代視点》
私は遠ざかっていく透の背中をただただ見つめる。呼び止めようと声を出そうとするが、喉の奥で引っかかった声はいつまで経っても出てはくれない。
声を出そうとする度に、もう一人の自分が『お前にそんな資格があるのか? 彼を裏切った裏切り者のくせに』と私を責め立てる。
「どうして……こうなっちゃったんだろ」
小さく呟いた私の声は誰にも届くことなく、自分にまっすぐ帰ってくる。
どうしてこうなったかなど、もうとっくに分かっている。自分が弱かったからだ。彼への好意を素直に表に出せず、いつまでも仕舞ったままだったからである。挙げ句の果てには、本当は思っていない事まで、私の口は透に吐き出した。
こんな自分が透の隣に立ちたいなどと、願うこと自体、駄目に決まっていると自分でも分かっている。でも、未だに心の奥で燻っている恋心が彼のことを諦めさせてくれない。
せめて、もう一度この気持ちを伝えるまでは、まだ諦められない。あの時の事を謝り、あの時の私が言えなかったことを彼に伝えなければ、この恋は終われない。
「透……私は透のことが大好きだよ」
私が呟いた声は誰にも運ばれることもなく、風の中に静かに溶けていく。4月の風は春とは思えないほど、とても冷たかった。
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