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2章
先発ピッチャーのように
しおりを挟む「女川透君。……私と付き合ってくれないかしら?」
言い終わると、高嶺さんは頬を赤く染め、上目遣いで俺を見つめる。美人な高嶺さんが上目遣いで見るのだ。そこらの男子生徒なら見惚れてしまうこと間違いなしだろう。
にしても、付き合ってほしい? あれか? この前の万引き騒動の件でまだ取り調べが必要とか? だとしたら行くのもやぶさかでは無い。首を突っ込んだ者の責任というものがあるだろう。
「いいですよ、付き合いますよ。それじゃあ、今日付き合いますよ。でっ、どこに行きます?」
「えっ、いきなり!? たっ、確かにいずれは色んなところに一緒に行きたいと思ってたけど……」
なぜか、高嶺さんは急にしどろもどろになり、次第に声が小さくなっていく。見た目も言動もクールな彼女としては、新鮮さのある行動だなぁ。
ていうか、あれ、今日すぐにじゃなくていいの? まぁ、そっちの方が俺の方も心の準備がある程度できるから良いんだけど……。
「あれ? もしかして今日は都合が悪かったですか?」
「うっ、ううん! そういう訳じゃないわ! そうね……。今日、学校が終わったらすぐに今いるこの場所、校舎裏に集合しましょう。それで良いかしら?」
「ええ、構いませんよ。放課後に校舎裏ですね」
万引きの冤罪を解くためだ。多少面倒でも首を突っ込んだ以上、しっかりと最後まで協力しないとな。責任分は付き合わせてもらう覚悟である。さながら、野球の責任回数を忠実に守る先発ピッチャーのように。
6回3失点、クオリティスタートを守る所存でござる。あれ、人間関係で半分も失点してたらダメな気がする……。
それに、美人な高嶺さんと万引きの冤罪を解くためとはいえ、一緒に行動するのだ。世の中の男子は悔しがること間違いなしである。
ふと、高嶺さんの方を見ると、高嶺さんはなぜかモジモジとして、忙しなかった。なんだ?もしかしてトイレか? さすがにそういうデリケートな問題は俺から言い出せないが……。女川透は空気を読む男なのである。
俺が高嶺さんの尿意を心配していると、モジモジしていた高嶺さんが口を開く。どうやら、尿意が限界に来ているわけでは無いようだ。よかった……。
「そっ、それじゃあ、今日の放課後に……」
そう言い残すと、高嶺さんは早足で校舎の方へと戻っていく。彼女の走りに遅れて、青みがかった黒髪が風で揺れる。サラサラと風に揺れる黒髪はお世辞抜きに綺麗だ。
高嶺さん、もっと冷静な人かと思ってたんだけど、意外と感情豊かなんだなぁ。目線も結構泳いでたし。いや、もしかして俺みたいなボッチとどう話していいか困ってただけか?
確かに自分とあまりに性格の違う人間と喋るのは疲れるからなぁ。高嶺さんには悪いことをしてしまったかもしれない。
こうして女川透は高嶺冷音に対し、まったく近くない精神分析をしているが、彼はまだ気づいていない。自分と高嶺冷音が絶妙にすれ違っているということに……。
ーーーーーーーーーー
「以上でホームルームを終了します。みんな、気をつけて帰るように」
1-A組担任の白石先生がホームルームを終わる宣言をし、今日も学校生活が終了する。俺以外のクラスメート達はというと、そそくさと帰る者やこれから何処で遊ぶかを議論する者など、皆さまざまに放課後を漫喫しているようだ。
かくいう俺はというと、さっさと帰る準備を整え、校舎裏に向かっている。いつまでも教室にいると、有馬が俺をリア充集団と一緒に遊ぼうと誘うのも時間の問題だ。なんとしても、それだけは阻止せねば!
さて、あんまり高嶺さんを待たせちゃ悪いから、早く行かないとな。白雪さんの時の反省を活かし、今回はスマホの電源は切っている。もう、2度と釣りタイトルなんかに引っかかってたまるものか!
何より、電源を切ってても俺に連絡するのは有馬ぐらいで、それ以外はまったくと言って無い。唯一来る有馬の連絡も、欠かさず無視する事によって、本当に俺に連絡を寄越す人間は一人もいない。これこそボッチの面目躍如だなッ!
俺は自分がいかにボッチかを再確認しながら歩いていると、目的地であった校舎裏まで着く。近くには高嶺さんの姿は確認できない。
さて、高嶺さんはどこかな?
俺が高嶺さんをキョロキョロと顔を振って辺りを見ていると、遠くから高嶺さんが近づいてくる姿を確認する。高嶺さんも俺の姿を確認すると、綺麗な黒髪を揺らしながら、早足で駆け寄ってくる。
おっ、いたいた。でも、そんなに急がなくてもいいのに。いや、もしかして、急がないといけないのか?
「遅れてごめんね、女川君。待ったかしら?」
「いいえ、全然待ってませんよ」
実際、本当に待っていないのだ。よくあるカップル同士のお決まりのセリフを言ったわけではない。もし、待っていたとしても、俺なんかが高嶺さんに気を遣わせるのは失礼だろうから言わないが……。
「それで、今日はどこに行けばいいんですか?」
「そっ、そうね……。」
俺の問いにしばしの間、沈黙していた高嶺さんだったが、腹を括ったような表情を作り、口を開く。
「とっ、隣町にあるカラオケに行くっていうのはどうかしら?」
「ん?」
なぜカラオケ? 万引きについての証言が欲しいんじゃないのか? いや、もしかしたら高嶺さんも誰かに場所を指定されただけかもしれないしな。追及するのは野暮というものだろう。
「ええ、いいですよ。それじゃあ、行きましょうか」
「えっ……ええ!」
早く行こうと急かすと、高嶺さんは元気よく返事をして、俺の隣を歩く。なんか、距離近くないか? いや、それだけ心を許してもらったということだな。
心なしか、ウキウキしているようにも見えるが、俺の勘違いだろう。これから万引きの証言をしてもらおうというのだ。ウキウキする要素など一つもない。
高嶺さんとの距離の近さに戸惑いながらも、俺と高嶺さんは隣町にあるというカラオケに向かって歩を進めるのだった。
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