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3章
罪の記憶9
しおりを挟む「女川透……お前の犯行はバッチリ目撃したぞッ!」
俺が初瀬の奇行に気を取られた瞬間、視聴覚室の扉が開く。そこにいたのは、クラスメートの片桐颯太だった。その手にはスマホが握られている。
「女川透! 今すぐ、初瀬さんへの乱暴を辞めるんだ!」
「ハァ!? 何を言っているんだ。俺は別にーー」
「キャーーー!!! 助けて、片桐くん!」
片桐の発言を訂正しようとしたのも束の間、俺の言葉は初瀬の悲鳴にかき消される。
助けてだと? この期に及んで何を言ってるんだ! 大体、仕掛けて来たのはお前の方からだろ!
初瀬の発言に頭に血が昇る。俺は怒りのままに初瀬を問い詰めようとする。
「初瀬、何を言っーー」
ーードゴッ!!!
初瀬に苦言を呈しようとしたその時、俺の側頭部を衝撃が襲う。
ーーガシャーン!!!
突然、死角から加えられた衝撃で俺は机やら椅子を巻き込んで吹っ飛ばされる。
「ッ!」
死角からの衝撃に驚くと同時に、側頭部を強い痛みが襲う。追って、吹き飛ばされた時にぶつけた体のあちこちが痛みを訴える。
理解できない状況と、痛みに混乱しながらも、体にのし掛かる巻き込まれた机やら椅子を退けていく。
いったい、何が起きたんだ……?
俺の中で生まれた疑問は、前を見るとすぐに答えが出た。眼前には、右拳を握り締め、腕を前に突き出した状態で固まっている片桐がいたからだ。
俺は片桐に殴られたのか?
どうしてという疑問も浮かぶが、殴る前の片桐の様子を見れば、片桐がなぜ俺を殴ったのかは見当が付く。
片桐はきっと、俺が初瀬を襲っていると勘違いして、初瀬の助けを求める声に呼応して俺を殴ったのだろう。
誤解を……誤解を解かないと……。
依然として痛み続ける頭を抑えながら、俺は朦朧とする頭をなんとか回転させる。
「かっ、片桐……誤解なんだ……! 俺は……初瀬を襲ってなんかいない!」
「しらばっくれても無駄だ! 女川透、キミの犯行の一部始終はボクのスマホにキッチリと保存されている。言い訳をしても無駄だ!」
「ちっ、違う! 俺が初瀬を襲ったんじゃない。アレは初瀬の方からーー」
「嘘言わないで! どうして私がそんな事をする必要があるの? 下手な言い訳は辞めて!」
これが冤罪である事は初瀬、お前が一番良くわかっている癖に……! そっちこそ、よくもそんなにスラスラと言い訳が出るものだ。
「……初瀬さんの言う通りだよ、女川くん。初瀬さんがキミに冤罪をかけて何の得があると言うんだい?」
「そっ、それは……!」
……分からない。初瀬が何故こんな真似をしたのか。俺と初瀬は大して仲が良いわけでもなく、交流し始めたのだって最近になってからだ。
今になって思えば、最近になって接触して来たのはこの日の為だったのかもしれない。今更、言っても栓なきことではあるが。
初瀬が俺を冤罪に掛けて何か得をするとは思えない。だがしかし、こうして容疑をかけられているという事実もまた変わらないのだ。
初瀬の目的が何かは分からない。しかし、初瀬が俺に害意を持って冤罪を吹っかけてきているのは間違いない。
俺にとって問題なのは、この冤罪を晴らす術を俺自身が持っていない事だ。運が悪いことに片桐は初瀬が俺に容疑をかける前のやり取りを見ていないようだし……。
待てよ……。運が悪い?
この状況、何かおかしくないか?
容疑をかけられる前の俺と初瀬のやり取りは見ていないのに、偶然、初瀬が冤罪をかけているところだけはスマホで撮っているなんて、偶然にしても出来過ぎじゃないか?
大体、なんで片桐はスマホで俺と初瀬を撮っていたんだ?
まるで、ここで事件が起きると知っていたようじゃないか。
俺の頭でまさかという結論が導き出される。
「片桐……お前はーー」
「さぁ、女川くん! いい加減、罪を認めるんだ! でないと、ボクは先生も呼んでキミを糾弾しなくてはいけなくなる!」
「……いいぞ。先生を呼んでこいよ」
「……本当にいいのかい?」
「ああ。先生も呼んで俺の無実を晴らしてやるよ……!」
もう分かった……。片桐と初瀬は十中八九、グルだ。この冤罪は最初から仕組まれていた事だったんだ。
それなら、片桐がスマホで犯行を撮っていたのも、都合よく視聴覚室の扉の前にいたのも納得できる。片桐の行動は偶然というには、あまりに不自然すぎた。
いいさ。先生を呼んでくるがいい。自分の無実は自分で晴らしてやるさ。
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