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6.夢魔アイドルは堕落させたい①
しおりを挟む「しゃあぁあああっオラあぁあぁああ」
スピーカーに片足を乗せ、マイクに叫ぶ零斗をメンバーは遠巻きに見る。
「キャラ壊れてんじゃん。怖さ増してるじゃん!」
いつきが透矢の胸倉を掴んで揺さぶっている。無表情が青くなっていくのを見かねて、泉が止めた。
考え込むように、遥希は顎に手を当てている。すぐに納得した様子で、みんなに視線を向けた。
「零くん、調子良くなってるし、いいんじゃないかな」
「遥希くんが放置したら、もうどうしようもないじゃん」
四つん這いで絶望するいつきの背を、泉が撫でてやる。
レコーディングはとっくに終わり、叫ぶことにも満足したのか、零斗がメンバーへ寄ってきた。
全員が遥希を壁にして隠れる。仕方ないなと、遥希は零斗に声をかけた。
「何かいいことでもあったの?」
待ってましたというように、彼は瞳を輝かせた。
「満月ちゃんの夕飯を毎日用意することになりました」
夢魔のツノが隠しきれず、ちょこっと出てきてしまっているのを、泉が慌てて抑えてやる。このままでは尻尾まで出しかねない。
ここには人間もいる。夢魔の存在を公にするわけにはいかない。
零斗はハッとして、謝罪する。
「事務所で話そうか」
「え!?僕は零斗の話なんてどうでもいいんだけど!?」
遥希の提案から逃げようとするいつきの腕を、透矢が無言で掴む。
「この後は事務所で動画撮影だろ。いつき、諦めろ」
巳也にまで諭され、いつきはがっくりと肩を落とした。
だったらせめて癒しにと、女性夢魔マネージャーを事務所の会議室へと呼んだ。
いつきは彼女に抱きついたまま、零斗の話を聞き流している。
「普通、そこまで詰め寄ってこられると警戒しそうなものだけど...。その子、相当メンタルやられてるのかな」
零斗の話から遥希がそう判断するのを、巳也は渋い顔で見る。
「零斗推しってのもあるだろ。...てか、零斗の恋愛事情とかどうでもいいだろ」
「零くんがやらかしたら、アイドル活動に支障が出るでしょ。そうなったら、巳也の魅力を世間に見せつけられなくなっちゃう...それだけは避けないと」
「ハル...」
光を失った瞳孔を開いて巳也を見る遥希と、そんな彼を頬を染めて見つめる巳也のやりとりから、全員が目を逸らす。
居心地の悪さに、泉が口を開いた。
「と、とにかく、進展して良かったな、零斗」
「はい!次はどう俺なしじゃ生きられないようにしようかと...」
眠そうに机へ顎を乗せていた透矢が、零斗の言葉に反応して「監禁...」と呟いた。
「手っ取り早いのは、たしかに監禁だよな」
泉が納得したように頷く。
「そんなことして嫌われたら、俺、立ち直れないんですけど」
会議室に静寂が訪れる。
遥希が零斗の肩を優しく叩いた。
「人間の女の子なんて、ただのご飯なのに...そこまで本気なんだね」
憐れむように言われて言葉に詰まるが、零斗は首を縦に振った。遥希が苦笑する。
「だったら、俺たちは止めないよ。アイドル活動に支障がなければ、好きにするといい」
「好きに動いていいんですか」
喜びを隠しきれない零斗を見た透矢以外が、夢魔に捕まるなんて可哀想な人間だなと、満月に思いを馳せた。
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