夢魔アイドルの歪んだ恋愛事情

こむらともあさ

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12.夢魔アイドルは甘えたい②

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 けたたましく鳴るアラームに、零斗はバチっと目を開く。眼前には満月の寝顔。

 昨晩の記憶が蘇り、眠りを妨げないよう起き上がる。

(やらかしたー。これだから酒は嫌いなんだよ!!)

 未だ痛む頭を押さえていると、満月がアラームを止めた。

「おはよう、零斗くん」

 目を擦りながら身体を起こす彼女に、頭を下げる。

「ごめんっ。俺、酔っ払って、満月ちゃんに」

 おでこを布団につけていると髪をすかれ、視線を上げる。

「零斗くんも疲れてたんだよ。今日はゆっくり休んで」

 寝ぼけながらぽやぽや笑う満月の可愛さに、下唇を噛み締める。

「満月ちゃんも休も。そしたら俺、もっと元気出る」

 ここぞとばかりに彼女の手を取って、瞳を覗き込む。
 しかし首を横に振られてしまい、零斗はガックリと肩を落とした。



 何も食べずに出て行こうとする満月に、急いでパンを食べさせてお弁当を持たせる。

「零斗くんは休んでていいのに」

「ほっといたら食べないでしょ。仕事、無理しないでね。家のことはやっとくから」

 渋々出ていく満月に「いってらっしゃい」と手を振り、見送った。



 溜まっていた家事をこなし、料理の作り置きも冷蔵庫へ入れておいた。

 昼過ぎにやっと自分の部屋へ帰り、シャワーを浴びる。

(やべ、俺臭かったかも)

 コンサート終わりに軽くシャワーを浴びたものの、打ち上げ後にそのまま満月のところへ上がり込んだことを今更思い出す。

 やらかしたことはもう仕方ないと、深くため息をついた。



 髪をわしわしと拭きながら、馬渕物産の住所を調べる。

 満月の仕事が終わるであろう時間を普段の帰宅時間から逆算して、迎えにいくついでにセクハラ男の顔を拝んでやろうと、零斗は今日の日程を組み立てるのだった。




 台本を覚えたりライブの映像を見直したりとしていると、いい時間になった。

 夕飯の下拵えだけ済ませ、出かける支度をする。


 マップを頼りに、馬渕物産へ辿り着くことができた。

(会社の近くに来たから、ついでに一緒に帰ろうっと)

 そう満月にメッセージを送り、出入り口の見える向かいのカフェへ入った。

 しばらくすると電話が鳴った。

「満月ちゃん?仕事終わった?」

『今終わって、スマホ見て、それでっ。こんな時間に零斗くんを外で待たせるなんて』

 混乱しているのが伝わってきて、零斗はくすりと笑った。

「大丈夫だよ。向かいのカフェにいるから。もう終わったなら出て迎えにいく」

 席を立とうとしたと同時に、満月の後ろから男の声がした。
 誰とは話してるのと言う声は、ねっとりとした気持ち悪さを含んでいる。

 スマホを握る手に力がこもった。

「安達とかいう男と一緒?満月ちゃん、今すぐ出てきて。早く帰ろう」

『え、あ。うん!すぐ行くね』

 乱雑に上着を持って、会社の前で満月を待つ。

 数分で出てきた彼女に、零斗は駆け寄った。


「満月ちゃん、大丈夫?変なことされなかった?」

「へあ!?え、あっ、零斗くん?」

 深くキャップを被ってマスクをしていたせいか、すぐに零斗だとわからなかったようだ。
 少しマスクを下げ、鼻を出す。


「大丈夫だよ。振り払ってきたから」

 なんともないと言うようにへらりと笑う満月に、零斗は眉を顰めた。

「またセクハラ受けてたってことだよね」

「そんなひどいものじゃないから平気だよ。待たせてごめんね。早く帰ろ」

 満月に腕を引かれる。渋々歩き出そうとすると、後ろから声をかけられた。

「満月ちゃん、その人さっきの電話の人?」

 満月の肩が大きく跳ねる。それを見て、零斗が先に振り返った。

(こいつが安達か)

 零斗は満月の肩を抱き寄せ、安達に笑いかける。

「同僚の方ですか?満月がお世話になってます」

「お、弟とかですよね?彼氏とかいないって言ってたし」

 満月の握る手が白くなっているのが、横目に入る。

 零斗は彼女の肩を抱く手を、頭を撫でるように移動させた。

 2人に気取られないよう、反対の人差し指を男に向け、軽く振る。

「満月がいつ彼氏がいないなんて言ったんですか?」

「え、あれ。どうだったかな」

「最近同棲始めたんです。これからは余計なことしないでくださいね、安達さん」

(ほんとはセクハラもできなくなるくらい、思考を弄れればいいんだけど...)

 記憶を混濁させるほどの力しかない自分の能力に、歯噛みする。


 汗を飛ばしながら反対方向へ帰っていく安達が、揺れるように歪んで見えてふらつき、満月に支えられた。

「えっ、零斗くん!?」

 満月の首筋に鼻先を当てるだけで流れ込む精気が、零斗を満たしていく。グラグラと揺れていた脳が正常に戻っていった。

「体調悪かったの!?ごめんね、迎えにまで来てもらってこんな」

 今にも泣き出しそうな満月の頬を撫でる。

「もう平気。帰ろ」

 そう伝えたのに、頭ひとつ分は大きい零斗を支えながら歩いてくれる満月に、甘えておいた。


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