7 / 10
7.すれ違いの暴走
しおりを挟むジルさんはすぐに帰ってきて、厨房まで案内してくれた。
そこには野菜や果物、鍋やお玉などの調理器具まで揃えてあって、目を輝かせ、思わずジルさんを抱きしめてしまった。
「ジルさん、ありがとう!」
「食事担当ノ者タチニモ来テモラッタ。オレヲモット褒メロ」
えっへんと胸を張るジルさんの後ろには、耳と犬歯の尖った人たちが厨房エプロンを纏って、にこにこと笑っている。
もう夕飯の時間まであまりないし、手伝ってもらえるのはありがたい。それに、料理人さんたちから色々教えてもらえるかも。
「よろしくお願いします!」
魔法でやってもらう部分は多かったけど、材料や手順さえ把握できれば、私でも作れそうで安心した。
これからも手伝いたいと言ったら、彼らは快諾してくれた。
食事を摂る部屋の大きな長いテーブルへ、みんなと料理を並べる時間も楽しい。シディルたちは喜んでくれるだろうか。
そんなことを思っていると、お義母様が扉から現れて、抱きついてきた。
「今日はフィンさんが夕飯を用意してくれたって聞いたわ! どれも美味しそうね。私は料理は苦手だから、尊敬するわ」
今にも涎を垂らしそうな勢いのお義母様は子供っぽくて、その可愛らしさに気が緩んで笑ってしまった。
「私はお手伝いをしただけです。ジルさんや料理長に色々教えてもらいました」
るんるんで私の両手を振り回すお義母様の後ろから、お義父様とシディルが入ってくる。
「料理長のご飯もいつも美味しいけど、フィンが頑張ってくれたご飯も美味しそうだね」
シディルは微笑みながら、私を席へと座らせてくれる。喜んでもらえているようで、良かった。
惜しみなく美味しいと言ってもらえたのが嬉しくて、次の日から城内の掃除から食事の準備など、人の手でできることは何でもやってみた。
鼻歌を歌いながら脚立の上で窓を拭いていると、脇の下を抱えられ、シディルに降ろされてしまい、首を傾げる。
「フィンが楽しそうで何よりなんだけど…僕が休みの日くらいは、かまってよ」
拗ねてほっぺたを膨らませる美男子は、可愛いを極めていらっしゃる。
胸元に額を擦り付けてくるシディルに犬耳が見えて、ついぎゅうぎゅうと抱きしめ返すと、赤い瞳が上目遣いで真っ直ぐに見つめてきた。
ドキッとした次の瞬間、ボフッとベッドの上に落ちていた。
えーっと、この雰囲気はたぶん──
気合いを入れるためグッと拳を握り、見下ろしてくるシディルを見つめ返す。
「私、今日こそ、身籠ってみせる」
後継問題、大事だもんね。って、なんで笑われてるの? 私、変なこと言ったかな。
ムッとしていると、頬を撫でられた。
「そんなに気負わなくていいんだよ」
戯れるような甘い口付けがたくさん落とされて、強張っていた身体が溶かされ暴かれていく。
全身を余す所なく滑っていく手のひらは熱くて、鼓動が逸る。
「ふ、あ…」
子供を作るための行為なのに、何でこんなに満たされるんだろ。シディルが触れてくれる所から、愛が染み込んでくる。
たまらず彼の首へと腕を回すと、中心を穿つ熱がより深く腹を抉り、吐息が漏れ出てしまう。
中で放たれる飛沫さえも心地良くて脱力すると、逃がさないとでも言うように、密着された。
「…っあ、も、だめ…」
眉間に皺を寄せるシディルからポタポタと汗が落ちてきて火照った肌を冷やすが、再開された律動によってすぐに熱を生む。
「ごめん、フィン。もう1回…」
もう1回では、終わらなかった。
大きく開かされた股関節はギシギシと悲鳴をあげていて、半端ない運動量のおかげで発熱し頭痛に襲われている。
私やっぱり、子供産めないのでは?
「身体、辛いよね。ごめんね、フィン。僕が無理させたせいで」
今にも泣き出しそうに抱きついてくるシディルの髪をすいてやる。
「私が貧弱なのが悪いんだし、気にしないで」
ごめんなさいと繰り返しながらとうとう泣き出してしまった彼を宥めながらも、身体がだるくて、ゆったりと意識を手放した。
やっぱり後継問題、どうにかしないと──
寝て起きると僅かなだるさはあるものの、平気だ。
肩に乗っかっているシディルの腕をどかし、足元にあった彼のシャツを着ると、お尻がしっかり隠れたので、これでいいかと書斎へ向かった。
確か、家系図があったはず。
目当てのものはすぐに見つかり、巻いてある紙を広げてみると、魔王はどうやら魔物とも夫婦になっていることがあるみたいだ。
一夫多妻の代もある。
シディルが他の女性に触れるのは、想像もしたくないけど…兄弟もいないようだし、好みの女性を他に見繕ってもらうべきなのか。
「何をしている?」
うーんっと唸っていると、急にお義父様に声をかけられ、飛び跳ねてしまった。
そんな私に構わず、お義父様は背後から覗き込んできた。
「あ、えっと…私、子作りの度に体調を崩すので、子供が産めるか不安で、その…後継とか」
混乱しながらで支離滅裂になってしまった…伝わっているだろうか。
ちらりとお義父様を見上げると、フッと笑われてしまった。
「後継のことは気にしなくてもいい」
余裕そうな、そんなことどうとでもなるというようなお義父様の態度に、少し苛立つ。
私は、シディルの役に立ちたいのに。
「そうはいきません! 魔界を統べる魔王一族の存亡の危機なんです。シディルに他の女性をあてがうことも考えなくては」
ガンっと扉の方で音がして、シディルが蹴り開けたような体勢で立っていた。オーラがドス黒くて、ものすごく怒っていることが肌を差す魔力からわかる。
「…フィン? 何の話してるの?」
一歩、こちらへと近づく彼のルビーの瞳からハイライトが消えていて、唾を飲む。
「そんな無防備な格好でフラフラしてるのも腹が立つのに、僕に他の女性を? ふざけてるの?」
魔法による風の渦が本や書類を巻き上げている中、慌ててシディルに縋ろうとするが、風の刃が私の肌に朱を散らした。
「落ち着いて、シディル」
「やっぱり、僕のこと嫌いなんだ」
見開かれたシディルの瞳が渦を巻くように赤から黒へと変わっていき、魔力が増大して家具さえも壊し始め、お義父様が私を守るように抱き寄せてくれる。
「バカ息子が。暴走しかけてる」
お義父様に引かれ窓際まで下がると、晴れていたはずの空は雲に覆われていて、その中で雷がバチバチと光っている。
──魔王は恋した人間と想いが通じ合わない場合、国を滅ぼす。
まさか、私のせい? シディルのこと大好きなのに、私がシディルのこと嫌いだって思い込んでるのは、どうして?
とにかく、誤解を解かないと。
外からは土砂崩れのような轟音が響いて、城内が揺れ始める。
「頭を冷やさせないとな…どうしたものか」
つぶやくお義父様の腕を握り、目を合わせる。
「私が、何とかします」
私が誤解をさせて不安がらせてしまったのが原因だ。
シディルの方へと足を進めると、お義父様が防御魔法をかけてくれたのか、風の刃は私に届かない。それでもシディルに近づけば近づくほど、魔法壁はヒビが入って少しずつ割れていっている。
ピッと頬へ傷が走る。
自分でも魔力を込めると体内で渦を巻いて吐き気を催すが、奥歯を噛み締め一歩ずつ足を進める。
あちこち傷ができても痛みなんてどうでもいい。私だってシディルのことが好きなんだと、伝えたい。
大体、なんで私がシディルのこと嫌いだなんて思ってんだ。腹が立ってきた。
あ、シディルも同じ気持ちだったのかな。こんなに好きなのに、他の人と、なんて…そりゃ、怒るか。
なんとか瞼を上げ手を伸ばすと、渦の中心でうずくまる子がいた。
「…シディル? ごめんね、私…シディルの気持ち無視してた」
肩に触れると、その小ささに驚く。だけど、見上げてくる赤い瞳は確かにシディルのもので、ホッとして抱きしめる。
「僕が、無理やり魔女にしたり無理をさせて体調崩させたりしたから…っ、フィンは僕のこと嫌いなんだ」
しゃくりあげながら言う彼の見た目は、幼児のようだ。
そっと背中を撫でてやる。
「魔女にされたのは驚いたけど、体調を崩しちゃうのは貧弱な私が悪いの。そんなことでシディルのこと嫌いになったりしない。優しくてかっこよくて可愛いシディルが大好きだよ」
涙をいっぱいたたえた目で見つめられ、目尻を拭ってやる。丸いほっぺが柔らかい。
「ほんと?」
「うん、本当。愛してるよ、シディル」
頭から背中までゆったりと撫でていると、風も少しずつ落ち着いて、シディルの寝息が聞こえてきた。
0
あなたにおすすめの小説
騎士団長のアレは誰が手に入れるのか!?
うさぎくま
恋愛
黄金のようだと言われるほどに濁りがない金色の瞳。肩より少し短いくらいの、いい塩梅で切り揃えられた柔らかく靡く金色の髪。甘やかな声で、誰もが振り返る美男子であり、屈強な肉体美、魔力、剣技、男の象徴も立派、全てが完璧な騎士団長ギルバルドが、遅い初恋に落ち、男心を振り回される物語。
濃厚で甘やかな『性』やり取りを楽しんで頂けたら幸いです!
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話
水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。
相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。
義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。
陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。
しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
結婚式に代理出席したら花嫁になっちゃいました
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
美希は平日派遣の事務仕事をしているが、暇な土日に便利屋のバイトをしている。ある日、結婚式の友人の代理出席をする予定で式場にいたのに!?
本編は完結してますが、色々描き足りなかったので、第2章も書いています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる