雪と炎の国境で

こむらともあさ

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第一話

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 一年を通して雪の溶けない大地の『雪の国』と、灼熱の太陽が照りつけ乾燥した大地の『炎の国』の国境付近の村々は、安定しない気候に長年悩まされている。

 ある日は大吹雪が吹き荒れ、またある日はかんかん照りに襲われる。
 それは、お互いの国の人々が宿す『雪の力』と『炎の力』の均衡が保たれないことが原因だった。

「雪の国の奴らがこちらの力に合わせないせいだ」

「炎の国の奴らが我々に合わせるべきだ」


 力の大きさはひとりひとり違い、人口も違う。
 そもそも、全く一緒にと言うのは、無理な話だった。だが、そのせいで国境付近では小競り合いが長年続いている。

 そんな争いの絶えない場所で生まれた艶葉つやはは、父に言われるまま、雪の力を的へと繰り出す。


「お前には才能がある。努力し、さらに力を磨け」


 昨日は雪が降っていたが、今は日が照っている。
 こめかみに汗が流れるのを拭い、服の裾を小さな手で握りしめた。

「おとうさん、わたしすこし...きゅうけいを」

 先程まで満足そうに鼻息を荒げていた父の目の色が、変わった。思わず身を固くする。

「まだ甘えたことを言うのか」

「ごめ、なさっ」

 襟足を掴まれ、窓の無い物置へ放り投げられる。


「ごめんなさいっ。わたし、まだできるから...っ。おねがいします、ここからだして」

 真っ暗な中、虫の鳴き声や木の軋む音。幼い少女には恐怖でしかなかった。





 小競り合いだった争いが、日に日に酷くなっていき、戦争にまで発展していた。

 艶葉の父は、誇らしげに徴兵の書状を見せびらかし、胸を張って戦場へと向かった。


「艶葉も強くなって、村に貢献しないとね」

「うん、お母さん」

 少し青味がかった灰色の瞳を伏せながら、氷を放つ。
 穴だらけになった雪だるまが、父のように見えた。もっと、もっと、と、どんどん形を崩していく。

 大きくなる力が風を起こし、雪が舞い上がった。そして、何も無いところから蔓のような枝が伸び、花が咲いていく。
 咄嗟に攻撃をやめ、母を見た。

「...雪椿だわ。艶葉、あなた、そんなに強い力が操れるなんて!私たちの誇りだわ!!」

 驚きで立ちすくんでいたが、すぐに艶葉へと駆け寄り、抱きしめてくれた。

 初めての褒め言葉を、されるがままに受け止める。

(これなら、お父さんも褒めてくれるかな)


 母が父へ手紙で報告していたが、返事どころか、父自身、帰ってくることはなかった。





 成人となる16歳。

 強大な雪の力を持つ艶葉は、早急に前戦へと送られることになった。

 母はこれ以上ない誉れだと、誇らしげに見送るのだった。



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