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第六話
しおりを挟む「それで、仲良くなれるように交流しろと?面と向かって嫌いと言われた俺の心のケアをお願いしたいんだが」
そう言って、彼は真意を探るように、艶葉の瞳を真っ直ぐに見つめた。
居心地が悪そうにそれを受け止め、もごもごと謝罪する。
「今まで戦争してたんだ。気持ちは解らなくないけどな」
しんしんと雪の降る白い景色を眺めながら、舜は砦の出窓に頬杖をつく。部屋には2人しかいない。
艶葉は沈黙に耐えれず、お茶を汲み始めたが、それもすぐに終えてしまう。温かい湯呑みに、息をつく。
(何を話していいのかわからない...)
言葉を探していたが、最初に話しかけたのは舜だった。
「前、作ってたやつ。少しは上達したのかよ」
艶葉は言葉に詰まる。
氷の彫刻は、相変わらず歪な物しか作れていなかったからだ。
どう上手く答えようかと逡巡しているうちに、察した舜は、くすりと笑った。
「ま、それくらいの方が可愛げがある」
「あなたはそうやって私を茶化すけど...恨んでないの?」
湯呑みに口をつける彼を、じっと見つめる。舜の視線は窓の外へと注がれたままだ。
「私は炎の国の兵士たちをたくさん殺したのに」
「それはお互い様だろ...戦争だしな。俺の方が先に戦場に出てたぶん、多く殺してる」
そう、自嘲する。
手遊びする艶葉の湯呑みに、波紋が広がった。
「お前の方が、恨みが強そうに見えるけどな」
苦笑しながらこちらを見る舜。艶葉は少し目線を落とした。
「恨むとかは、考えたことなかった。...私はただ、戦うことしか生きていく方法がないと、教えられてきたから...」
父と母に褒められたい一心でやってきた。戦争が終わったら、それも叶わなくなる。
(私には、強い雪の力しか取り柄がないのに)
「これから、どう生きればいいのか...わからなくて」
舜はグッと伸びをして、笑った。
「俺はのんびり普通に生活できりゃ、それでいいな」
「普通の生活って?」
「戦争なんてなくて、嫁さんもらって、家族作って...みんなで笑って生きていくような生活?少なくとも国の中心部では、そんな生活してる奴が多かったな。国境のことなんか、他人事みたいに」
雪の国も、中心都市からは何の支援もされていないことを思い出す。昔からそうだった為、疑問にも思わなかった。
この辺りの気候など、中心部には全く影響はなく、放置されているのだった。
「私も、そんな生き方してもいいのかな...」
父の「甘えるな」という怒鳴り声と、真っ暗な物置が脳裏に浮かび、身体が震えた。
舜の湯呑みを置く音に、引き戻される。
「夢見るだけなら、誰も文句言わないだろ」
その言葉に、少し安堵した。
「舜のお嫁さんになる人は、きっと幸せね」
何故か、自然とそう思った。
戦いの中では獅子のような印象だったが、こうして話してみると、陽だまりのようだと、感じた。
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