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第9話 近寄り難い
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「知樹、組むぞ」
早速駆け寄ってきた高貴が声をかけてくる。
勿論昨年からの友達である高貴と組まない理由などなく、すぐに了承。
知樹が言った内容では、女子のグループと組む前にまず男子3人のグループを作らなければいけない。
自分が言った事なのだが、今更ながら失策だったと思い至る。
「あと1人はどうする?」
高貴がほおを緩めながら聞いてくる。
「お前、あの転入生狙いだろう。早くしないと野蛮な狼達に取られるぞ」
知樹は高貴の表情から、まるで心を覗かれるような感慨に陥った。
毎回毎回察しが良すぎて困るんだよな。
去年も見透かすような、そのニヤけのせいで何度災難に遭ったことか。
例えば興味をそそる話題を高貴の表情から感じ取った歩く爆弾、千夏が即時爆発しそうになったり、根も葉もない色恋話を高貴が、ほおを緩めた後に撒き散らし、昂ぶった千夏を必死に抑制したり、と。
思い返すと大半が爆弾関連だったことが今更ながら判明する。
呆れに呆れて溜息すら出ない。
だけど高貴が言った通り、いまの状況はマズイ。
首を回して乃々華を探すと、狭い教室なのが幸いしてすぐに見つかった。
予想どおり、早くもメンバー3人を揃えた男子グループが乃々華に近寄り、班員勧誘に移っている。
「私たちは知樹の班に行くから乃々華ちゃんは渡さないよ」
あはは、と呑気に笑う声。
その声を聞いた時、乃々華が他の男子に取られない安心と同時に、背中に冷たいものが走った気がした。
河野千夏、歩く爆弾の異名を持つ知樹の天敵。
その本人が乃々華の肩に手を置いて、こちらに向かってくる。
その隣には千夏や乃々華と比べて頭一つくらい小さい、女の子ーーに見まごう程の高校2年生もいるではないか。
「まだ集まんないの?」
「あと1人足りない」
「まぁ、こうなる予感はしてた。知樹の人生は自由に席を組める号令を出してしまったところで崩れてきているのかもな」
千夏は鼻を鳴らして周囲を見回し、高貴に至っては科学者を気取っているのか、腕を組んで自分の暴論に何度も頷く始末である。
自分の人生が崩れてきてるのならば、それはこの周りの環境が揃ってしまったからだ。決していまでも最近でもない。
そう思ったがすんでの所で口を噤む。
変に口を出せば結果は日を見るより明らかだ。
主に身近な各方面から、圧力がかかるだろう。
今ならば、このまま進んだ自分の末路がわかる。
社会的な死。
小さな社会であるこの学校で、社会的で理不尽な制裁が加えられる事は間違いなしだ。
「ん?静かになってきたな」
クラスに広がっていた高揚感は、少しずつなりを潜めて行き、騒ぐ人間が見るからに少なくなっている。
「結構仲がいいんだ、このクラス」
皐月の呟きに知樹は首肯した。
視線を教室に泳がせるが見た限り、人が余っていない。
「このクラスは確かこの前聞いた時35人って言ってたよな。終了か?」
今回の席決めでは6人1グループを6つ作る事になっている。
単純計算でどこか1班は5人半になる計算だ。
「いや、それは転入生がいない場合の計算だ」
高貴が腕を組んで告げる。
「約1名、あそこにヘラヘラしたヤツがいるのは俺の目の錯覚か?」
知樹は高貴の視線をなぞる。
それは教室の角だった。
「いたな」
「いた」
「いたね」
知樹、皐月、千夏は部屋の角にいる人物を認め、声を漏らすもさり気なく顔を逸らした。
所詮見て見ぬ振りというやつだ。
教室の角でヘラヘラしている奴、と言った高貴だが知樹が見てもその感覚は理解できた。
制服はダボダボに着崩し、第1ボタンは折り曲がり方が付いている。
髪にはワックス。残っているのは1人だというのに、楽しそうに談笑し合うクラスメイトの方を見ては、にやにやとした笑みを浮かべている。
そのせいか周りに誰もいない事にもかかわらず、気づかなかったのだ。
「他は?」
知樹はいささか無理があると知りながら周囲に答えを求めるが、
「あの人じゃダメなの?」
答えたのは純粋無垢な乃々華であった。
「ダメなわけじゃないんだけどーー」
「それなら私が誘ってくるよ」
知樹の言葉に被せて件の少年に走る乃々華。
「あっ、ちょーー」
この高校の偏差値は学区内でも上位の進学校で、不良という不良はいないと言っていい。
だが周りに学力がついていかなかったり、その優秀さ故に己の限界に上限などないと、全能感に浸った者が稀にとんでもない非行に走る事があるのだ。
そのため、知樹はいくら優秀な生徒が集まる高校と言えど、これまで素行の悪い人間にはなるべく近づかなかった。
パッと飛び出た制止の声もついには届かず、乃々華は見知らぬ少年に声を掛けた。
早速駆け寄ってきた高貴が声をかけてくる。
勿論昨年からの友達である高貴と組まない理由などなく、すぐに了承。
知樹が言った内容では、女子のグループと組む前にまず男子3人のグループを作らなければいけない。
自分が言った事なのだが、今更ながら失策だったと思い至る。
「あと1人はどうする?」
高貴がほおを緩めながら聞いてくる。
「お前、あの転入生狙いだろう。早くしないと野蛮な狼達に取られるぞ」
知樹は高貴の表情から、まるで心を覗かれるような感慨に陥った。
毎回毎回察しが良すぎて困るんだよな。
去年も見透かすような、そのニヤけのせいで何度災難に遭ったことか。
例えば興味をそそる話題を高貴の表情から感じ取った歩く爆弾、千夏が即時爆発しそうになったり、根も葉もない色恋話を高貴が、ほおを緩めた後に撒き散らし、昂ぶった千夏を必死に抑制したり、と。
思い返すと大半が爆弾関連だったことが今更ながら判明する。
呆れに呆れて溜息すら出ない。
だけど高貴が言った通り、いまの状況はマズイ。
首を回して乃々華を探すと、狭い教室なのが幸いしてすぐに見つかった。
予想どおり、早くもメンバー3人を揃えた男子グループが乃々華に近寄り、班員勧誘に移っている。
「私たちは知樹の班に行くから乃々華ちゃんは渡さないよ」
あはは、と呑気に笑う声。
その声を聞いた時、乃々華が他の男子に取られない安心と同時に、背中に冷たいものが走った気がした。
河野千夏、歩く爆弾の異名を持つ知樹の天敵。
その本人が乃々華の肩に手を置いて、こちらに向かってくる。
その隣には千夏や乃々華と比べて頭一つくらい小さい、女の子ーーに見まごう程の高校2年生もいるではないか。
「まだ集まんないの?」
「あと1人足りない」
「まぁ、こうなる予感はしてた。知樹の人生は自由に席を組める号令を出してしまったところで崩れてきているのかもな」
千夏は鼻を鳴らして周囲を見回し、高貴に至っては科学者を気取っているのか、腕を組んで自分の暴論に何度も頷く始末である。
自分の人生が崩れてきてるのならば、それはこの周りの環境が揃ってしまったからだ。決していまでも最近でもない。
そう思ったがすんでの所で口を噤む。
変に口を出せば結果は日を見るより明らかだ。
主に身近な各方面から、圧力がかかるだろう。
今ならば、このまま進んだ自分の末路がわかる。
社会的な死。
小さな社会であるこの学校で、社会的で理不尽な制裁が加えられる事は間違いなしだ。
「ん?静かになってきたな」
クラスに広がっていた高揚感は、少しずつなりを潜めて行き、騒ぐ人間が見るからに少なくなっている。
「結構仲がいいんだ、このクラス」
皐月の呟きに知樹は首肯した。
視線を教室に泳がせるが見た限り、人が余っていない。
「このクラスは確かこの前聞いた時35人って言ってたよな。終了か?」
今回の席決めでは6人1グループを6つ作る事になっている。
単純計算でどこか1班は5人半になる計算だ。
「いや、それは転入生がいない場合の計算だ」
高貴が腕を組んで告げる。
「約1名、あそこにヘラヘラしたヤツがいるのは俺の目の錯覚か?」
知樹は高貴の視線をなぞる。
それは教室の角だった。
「いたな」
「いた」
「いたね」
知樹、皐月、千夏は部屋の角にいる人物を認め、声を漏らすもさり気なく顔を逸らした。
所詮見て見ぬ振りというやつだ。
教室の角でヘラヘラしている奴、と言った高貴だが知樹が見てもその感覚は理解できた。
制服はダボダボに着崩し、第1ボタンは折り曲がり方が付いている。
髪にはワックス。残っているのは1人だというのに、楽しそうに談笑し合うクラスメイトの方を見ては、にやにやとした笑みを浮かべている。
そのせいか周りに誰もいない事にもかかわらず、気づかなかったのだ。
「他は?」
知樹はいささか無理があると知りながら周囲に答えを求めるが、
「あの人じゃダメなの?」
答えたのは純粋無垢な乃々華であった。
「ダメなわけじゃないんだけどーー」
「それなら私が誘ってくるよ」
知樹の言葉に被せて件の少年に走る乃々華。
「あっ、ちょーー」
この高校の偏差値は学区内でも上位の進学校で、不良という不良はいないと言っていい。
だが周りに学力がついていかなかったり、その優秀さ故に己の限界に上限などないと、全能感に浸った者が稀にとんでもない非行に走る事があるのだ。
そのため、知樹はいくら優秀な生徒が集まる高校と言えど、これまで素行の悪い人間にはなるべく近づかなかった。
パッと飛び出た制止の声もついには届かず、乃々華は見知らぬ少年に声を掛けた。
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