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第8話 提案
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「初めまして皆さん。私の名前は暁乃々華。こっちの常識を学ぶため、転移して来ました。よろしくお願いします」
ペコリと頭をさげる乃々華。
それを見てクラスの男子が騒ぎ出す。
それに乗じて女子も騒ぎ出し、乃々華は騒乱の渦の中心人物として教卓を挟んで立っていた。
コソコソと何か会話をする女子や、堂々と乃々華を彼女にする宣言をしている男子達もいる。
そんな中、知樹は乃々華の表情を見た。
緊張して自己紹介を終わらせた後にワーワー騒がれるのだから嫌悪感を抱いていないか。
そんな心配を胸に恐る恐る表情を見た知樹。
だがそんな心配は無意味だと証明するように、新しい発見を知ってはしゃぐ子供のようなキラキラした表情をしていた。
「とりあえず嬉しそうでよかった」
知樹は安堵のため息を吐く。
どうやらななんとかなりそうだ。
「知樹、学生っていいね」
思わぬ呼び声に知樹は息を詰まらせた。
危惧していた事態。
天使のような優しい声が、自分をクラスの最底辺まで落とす悪魔の呼び声だと錯覚した今、心拍数は格段に跳ね上がっているだろうと推測した。
「ん?どうしたの知樹」
繰り返し名前を呼ぶ声を聞くたびに、この先の未来が思いやられる。
極め付けには呼び捨てだ。
先日、どうしても学校に行くと言って聞かなかった乃々華に折れた知樹は、余所余所しい君付け呼びを訂正させたのだ。
その行いが不幸を呼ぶ。
乃々華が『知樹』を連呼する度に、乃々華に集まっていた筈の視線が知樹に集まった。
その視線は様々で、何を思ったかニヤニヤとしている高貴、千夏、ついでに高町が組する一派と、多くの男子生徒が睨みを効かせる即時結束リア充反対一派。
そして最後に、抜け殻のようにポカンとしている単独派の皐月。
つまりクラス内に現在、3つの派が存在していることとなる。
ちくしょう。四面楚歌かよ。
一瞬でクラスメイトが敵に変じた状況を受け入れきれず知樹は叫んだ。
「悪夢だなら覚めてくれ!!」
だがしかし、知樹が叫んだ理由を露にも知らない乃々華は首をかしげるだけだった。
ホームルームは智樹の絶叫に終わり、休憩を挟んで1限目が始まった。
昨年同様の挨拶を済ませ全員着席。
教卓には担任である町下が立っている。
後方の黒板には『1限目、学活』と書かれていた。
つまり学級活動だ。
クラスでは先程の出来事について有る事無い事、様々な話題が飛び交っている。
その甲斐あって、幸か不幸か、初対面同士だった者も驚くべきことにかなり親しくなれているようだ。
「よし、今日でようやくこの町下学級が始動って訳だ。で、この時間どう使うか、という事で面白そうだから俺に代わって早速有名人となった八林知樹君に指揮をとらせようと思う。皆、どうだ?」
そしてまたもやうるさい騒ぎ越えが聞こえる。
それには是を談じる笑い声が混ざっていて、苛立ちが積もる。
顔を伏せて現実逃避をしていた最中にまた厄介ごとが舞い込んだと、知樹はゆっくりと頭を上げた。
「うーんと教師が教職放棄宣言なんていいんですかね」
ほおが引きつっているのを感じる。
どうせ何を言っても変わらないとわかっていても言いたいことくらいあった。
「誰からも悪いとは言われてないぞ」
細かな苛立ちが積もり積もった末の言葉に、知樹はまさかの屁理屈が返ってきたことに唖然とする。
否定すらなく、開き直ったその態度はどこか手慣れ感を感じさせた。
こんな人でも教員免許ってとれるのか?
そんな疑問まで浮かんでくるほどである。
知樹は今年一年、このクラスで自分の精神が折れないかを本気で思案し始めたその時、名案が浮かんだ。
今の席順は初期の出席番号順で転入生の乃々華は最後尾についている。
自分の席は幸運なことに、男女の列は違うものの後ろに近いのだが、2列を隔てているのだ。
このままでは授業中のささやかな私語だったり、移動をせずに休み時間を過ごすことができない。
どうせ見世物にされるはずだったのだから、ここはその役で踊ってやる。
知樹は自分の表情は中二病患者の如く、痛々しいものになっている事を自覚しつつ口を開いた。
「1時間目学活!内容は……席替えだ!!」
シンと静まる教室。
一拍置いて賛成の旨を伝える声があちこちから上がる。
学生というのは基本的に小学生から変わらずに、席替えと呼ばれる学級イベントが大好きなのだ。
「おい八林。この学活は生徒間の親睦や学級の役割分担をするためであって……」
「俺を除いて親睦なら見ての通り深まってますよ。学級の役割は教師でない俺には皆目検討も付きません」
町下の動揺すら微塵も感じさせない佇まいに、言葉を被せるようこちらも悠然と応じる。
「そうか、続けていいぞ」
町下は観戦するといった感じで教室の角に置いてあったパイプ椅子に腰を据えると、足を組んで全体を眺める。
まるで不良のようだった。
太りかけでなければもっと凄みが出ていただろうが。
周囲は知樹が町下を黙らせたことに湧くが知樹が動じることはない。
「男女共に3人ずつのグループを作ってから異性の3人グループを探して計六人班を作る事。決まったら前の黒板に班員の名前を書きに来てくれ。以上」
クラスメイト達は歓喜の声を上げ、一斉に立ち上がった。
知樹は黒板を平手で叩くとすぐさまクラスメイトの群れに紛れる。
目指すは乃々華と同じ班だ。
ペコリと頭をさげる乃々華。
それを見てクラスの男子が騒ぎ出す。
それに乗じて女子も騒ぎ出し、乃々華は騒乱の渦の中心人物として教卓を挟んで立っていた。
コソコソと何か会話をする女子や、堂々と乃々華を彼女にする宣言をしている男子達もいる。
そんな中、知樹は乃々華の表情を見た。
緊張して自己紹介を終わらせた後にワーワー騒がれるのだから嫌悪感を抱いていないか。
そんな心配を胸に恐る恐る表情を見た知樹。
だがそんな心配は無意味だと証明するように、新しい発見を知ってはしゃぐ子供のようなキラキラした表情をしていた。
「とりあえず嬉しそうでよかった」
知樹は安堵のため息を吐く。
どうやらななんとかなりそうだ。
「知樹、学生っていいね」
思わぬ呼び声に知樹は息を詰まらせた。
危惧していた事態。
天使のような優しい声が、自分をクラスの最底辺まで落とす悪魔の呼び声だと錯覚した今、心拍数は格段に跳ね上がっているだろうと推測した。
「ん?どうしたの知樹」
繰り返し名前を呼ぶ声を聞くたびに、この先の未来が思いやられる。
極め付けには呼び捨てだ。
先日、どうしても学校に行くと言って聞かなかった乃々華に折れた知樹は、余所余所しい君付け呼びを訂正させたのだ。
その行いが不幸を呼ぶ。
乃々華が『知樹』を連呼する度に、乃々華に集まっていた筈の視線が知樹に集まった。
その視線は様々で、何を思ったかニヤニヤとしている高貴、千夏、ついでに高町が組する一派と、多くの男子生徒が睨みを効かせる即時結束リア充反対一派。
そして最後に、抜け殻のようにポカンとしている単独派の皐月。
つまりクラス内に現在、3つの派が存在していることとなる。
ちくしょう。四面楚歌かよ。
一瞬でクラスメイトが敵に変じた状況を受け入れきれず知樹は叫んだ。
「悪夢だなら覚めてくれ!!」
だがしかし、知樹が叫んだ理由を露にも知らない乃々華は首をかしげるだけだった。
ホームルームは智樹の絶叫に終わり、休憩を挟んで1限目が始まった。
昨年同様の挨拶を済ませ全員着席。
教卓には担任である町下が立っている。
後方の黒板には『1限目、学活』と書かれていた。
つまり学級活動だ。
クラスでは先程の出来事について有る事無い事、様々な話題が飛び交っている。
その甲斐あって、幸か不幸か、初対面同士だった者も驚くべきことにかなり親しくなれているようだ。
「よし、今日でようやくこの町下学級が始動って訳だ。で、この時間どう使うか、という事で面白そうだから俺に代わって早速有名人となった八林知樹君に指揮をとらせようと思う。皆、どうだ?」
そしてまたもやうるさい騒ぎ越えが聞こえる。
それには是を談じる笑い声が混ざっていて、苛立ちが積もる。
顔を伏せて現実逃避をしていた最中にまた厄介ごとが舞い込んだと、知樹はゆっくりと頭を上げた。
「うーんと教師が教職放棄宣言なんていいんですかね」
ほおが引きつっているのを感じる。
どうせ何を言っても変わらないとわかっていても言いたいことくらいあった。
「誰からも悪いとは言われてないぞ」
細かな苛立ちが積もり積もった末の言葉に、知樹はまさかの屁理屈が返ってきたことに唖然とする。
否定すらなく、開き直ったその態度はどこか手慣れ感を感じさせた。
こんな人でも教員免許ってとれるのか?
そんな疑問まで浮かんでくるほどである。
知樹は今年一年、このクラスで自分の精神が折れないかを本気で思案し始めたその時、名案が浮かんだ。
今の席順は初期の出席番号順で転入生の乃々華は最後尾についている。
自分の席は幸運なことに、男女の列は違うものの後ろに近いのだが、2列を隔てているのだ。
このままでは授業中のささやかな私語だったり、移動をせずに休み時間を過ごすことができない。
どうせ見世物にされるはずだったのだから、ここはその役で踊ってやる。
知樹は自分の表情は中二病患者の如く、痛々しいものになっている事を自覚しつつ口を開いた。
「1時間目学活!内容は……席替えだ!!」
シンと静まる教室。
一拍置いて賛成の旨を伝える声があちこちから上がる。
学生というのは基本的に小学生から変わらずに、席替えと呼ばれる学級イベントが大好きなのだ。
「おい八林。この学活は生徒間の親睦や学級の役割分担をするためであって……」
「俺を除いて親睦なら見ての通り深まってますよ。学級の役割は教師でない俺には皆目検討も付きません」
町下の動揺すら微塵も感じさせない佇まいに、言葉を被せるようこちらも悠然と応じる。
「そうか、続けていいぞ」
町下は観戦するといった感じで教室の角に置いてあったパイプ椅子に腰を据えると、足を組んで全体を眺める。
まるで不良のようだった。
太りかけでなければもっと凄みが出ていただろうが。
周囲は知樹が町下を黙らせたことに湧くが知樹が動じることはない。
「男女共に3人ずつのグループを作ってから異性の3人グループを探して計六人班を作る事。決まったら前の黒板に班員の名前を書きに来てくれ。以上」
クラスメイト達は歓喜の声を上げ、一斉に立ち上がった。
知樹は黒板を平手で叩くとすぐさまクラスメイトの群れに紛れる。
目指すは乃々華と同じ班だ。
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