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第7話 挨拶
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「ふぁぁぁ、眠い」
机の上で肘をつきながらあくびを漏らす知樹だったが、手は視界を遮るように目の前につけていた。
外には少し前まで桃色だった桜の木が、地面に散った花びらのせいで茶色に変化している様を見て、知樹は現実なんだ、と改めて実感する。
二次元では大体始業式前後では桜の花は咲き乱れているが、現実では既に散っている地域が多いのだ、
そんなくだらない事を考えていると、いつものように、高貴が声をかけてくる。
「相変わらずいつも通りだこった」
「いつも通りだったらよかったんだけどな」
「なにかあったのか?」
ここはホームルーム前の教室。
特にいつもと変わらない風景。
だがその中で知樹の内心だけが明るいクラスの雰囲気から外れていた。
「はーいはい、おはよう。高貴とロリコン」
「おはよう」
「はいはい、おはよう」
恒例の心外なる挨拶が飛んでくる。
歩く爆弾、千夏である。
いつもならツッコんでいただろうが、今日ばかしはそうはいかない。
ツッコミで消費する微々たる体力でも今は貴重な精神安定剤なのだ。
もちろん千夏が『予想外!』と言った表情で固まっているのは、この際ガン無視だ。
「はぁ、おれのまわりにはろくなやつが……」
「朝からいじめられてるね、知樹」
「いねぇっ!!」
いきなり背後からかけられた声に大絶叫して、知樹は自分の席から逃走する。
それは何故か。
登校中、毎度の如く図られたように声の主である皐月とバッタリと出会った時、本能的にからかってしまったのだ。
ーー主に身長の点を。
「ここであったが百年目!いざ!」
手をコキコキと鳴らし、早くもキャラ崩壊を起こしつかみ掛かってくる高校2年生(?)。
「ちょ、待て。待てってば」
「却下!」
知樹の懇願は即座に切り捨てられ、掴み合いに発展する。
ちっちゃな戦国大名のような少女からとんでもない馬鹿力が出ている事は、知樹の腕にめり込む指が証明していた。
「千夏と高貴!助けて……」
知樹は手に負えないと判断し、助けを求めて二人の友人を向くが、
「仲睦まじいことで」
「僕は今日転入してくる女子について、徹底口論したかったけれど……いつもの痴話喧嘩なら仕方ないな」
助けの手は見えること無く、
「最悪だァぁぁぁ……」
知樹の断末魔の叫びが教室内で木霊した。
そこでガラガラガラ、と年季の入った扉が開く。
「またお前らか、飽きねぇな。時間だ、ホームルーム始めるぞ」
このタイミングで入室して来たのは、この頃体重が増えてきていると言う、こちらは外見不相応に若い20代の無精ヒゲ男性教師、町下だった。
彼はニヤリと知樹の方へ、濃い笑みを浮かべて教卓を出席簿でトントンと叩き、ホームルームの時間を知らせた。
時はホームルーム。
そして早くも、知樹の高校2年生活の命運をかけると言っても過言では無い、転入ロシアンルーレットが始まるのだ。
だがロシアンルーレットと例えたとしても、それは変則的なロシアンルーレット。
何せ最初から選択肢は多く無い。2つだ。
だから当然、1/2の確率で本日転入してくる事になっている闇色の髪を持つ少女のおかげで、知樹のクラス内での地位はゴキブリ以下ウイルス以上となるのだろう。
「お願いだ、お願いします。……どうか変なことは口走らないでくれ」
本日智樹と同じクラスに転入してくるのは二次元から三次元へと来た暁乃々華。
何故か智樹が通う『公立畑熊高校』へ、乃々華で言う『バック』によって手続きが回っているらしく、後は生徒である乃々華が登校すれば、転入となるらしい。
そんな謎に満ちた乃々華の性格は、知樹から見て真面目で一生懸命で頑張り屋で……その他多数の良いところはある。
それは乃々華が知樹の部屋に出現した時からの行動でしっかり分かったことだ。
だが乃々華がこちらの世界に来た理由、それは主にこちらの常識を勉強するためということだった。
本人曰く、こちらの常識は勉強中。
ならばーーどうなるのか。
外国語がほとんど話せないに関わらず、外国へ向かい、散々な結果になった。
知識が不足しているのに、無謀にも最難関高校の受験を受け失敗した。
そんな話はざらにある。
「今知っているこっちの常識の中で全てが正しくありますように」
両手を合わせ神ではなく乃々華に祈る。
「この中の数名は知っていると思うが……つい最近始業式が終わったばかりだけど…………なんと!今日転入生が来る」
町下は皆の顔を見渡して声高らかに宣言した。
だが知樹にとっては「その時間はいらないだろ!」と心の中では大ブーイングの嵐が吹き荒れていた。
「入っていいよ」
一度は閉められたドアが再び開く。
「みんな拍手」
町下が拍手を促すとクラスは拍手の海へと豹変する。
そして来た。
腰まである長い髪。その色は紫がかった闇色で、注目を浴びるステージを堂々と歩き、そして教卓の前で止まった。
「初めまして皆さん。私の名前は暁乃々華。こっちの常識を学ぶため、転移して来ました。よろしくお願いします」
机の上で肘をつきながらあくびを漏らす知樹だったが、手は視界を遮るように目の前につけていた。
外には少し前まで桃色だった桜の木が、地面に散った花びらのせいで茶色に変化している様を見て、知樹は現実なんだ、と改めて実感する。
二次元では大体始業式前後では桜の花は咲き乱れているが、現実では既に散っている地域が多いのだ、
そんなくだらない事を考えていると、いつものように、高貴が声をかけてくる。
「相変わらずいつも通りだこった」
「いつも通りだったらよかったんだけどな」
「なにかあったのか?」
ここはホームルーム前の教室。
特にいつもと変わらない風景。
だがその中で知樹の内心だけが明るいクラスの雰囲気から外れていた。
「はーいはい、おはよう。高貴とロリコン」
「おはよう」
「はいはい、おはよう」
恒例の心外なる挨拶が飛んでくる。
歩く爆弾、千夏である。
いつもならツッコんでいただろうが、今日ばかしはそうはいかない。
ツッコミで消費する微々たる体力でも今は貴重な精神安定剤なのだ。
もちろん千夏が『予想外!』と言った表情で固まっているのは、この際ガン無視だ。
「はぁ、おれのまわりにはろくなやつが……」
「朝からいじめられてるね、知樹」
「いねぇっ!!」
いきなり背後からかけられた声に大絶叫して、知樹は自分の席から逃走する。
それは何故か。
登校中、毎度の如く図られたように声の主である皐月とバッタリと出会った時、本能的にからかってしまったのだ。
ーー主に身長の点を。
「ここであったが百年目!いざ!」
手をコキコキと鳴らし、早くもキャラ崩壊を起こしつかみ掛かってくる高校2年生(?)。
「ちょ、待て。待てってば」
「却下!」
知樹の懇願は即座に切り捨てられ、掴み合いに発展する。
ちっちゃな戦国大名のような少女からとんでもない馬鹿力が出ている事は、知樹の腕にめり込む指が証明していた。
「千夏と高貴!助けて……」
知樹は手に負えないと判断し、助けを求めて二人の友人を向くが、
「仲睦まじいことで」
「僕は今日転入してくる女子について、徹底口論したかったけれど……いつもの痴話喧嘩なら仕方ないな」
助けの手は見えること無く、
「最悪だァぁぁぁ……」
知樹の断末魔の叫びが教室内で木霊した。
そこでガラガラガラ、と年季の入った扉が開く。
「またお前らか、飽きねぇな。時間だ、ホームルーム始めるぞ」
このタイミングで入室して来たのは、この頃体重が増えてきていると言う、こちらは外見不相応に若い20代の無精ヒゲ男性教師、町下だった。
彼はニヤリと知樹の方へ、濃い笑みを浮かべて教卓を出席簿でトントンと叩き、ホームルームの時間を知らせた。
時はホームルーム。
そして早くも、知樹の高校2年生活の命運をかけると言っても過言では無い、転入ロシアンルーレットが始まるのだ。
だがロシアンルーレットと例えたとしても、それは変則的なロシアンルーレット。
何せ最初から選択肢は多く無い。2つだ。
だから当然、1/2の確率で本日転入してくる事になっている闇色の髪を持つ少女のおかげで、知樹のクラス内での地位はゴキブリ以下ウイルス以上となるのだろう。
「お願いだ、お願いします。……どうか変なことは口走らないでくれ」
本日智樹と同じクラスに転入してくるのは二次元から三次元へと来た暁乃々華。
何故か智樹が通う『公立畑熊高校』へ、乃々華で言う『バック』によって手続きが回っているらしく、後は生徒である乃々華が登校すれば、転入となるらしい。
そんな謎に満ちた乃々華の性格は、知樹から見て真面目で一生懸命で頑張り屋で……その他多数の良いところはある。
それは乃々華が知樹の部屋に出現した時からの行動でしっかり分かったことだ。
だが乃々華がこちらの世界に来た理由、それは主にこちらの常識を勉強するためということだった。
本人曰く、こちらの常識は勉強中。
ならばーーどうなるのか。
外国語がほとんど話せないに関わらず、外国へ向かい、散々な結果になった。
知識が不足しているのに、無謀にも最難関高校の受験を受け失敗した。
そんな話はざらにある。
「今知っているこっちの常識の中で全てが正しくありますように」
両手を合わせ神ではなく乃々華に祈る。
「この中の数名は知っていると思うが……つい最近始業式が終わったばかりだけど…………なんと!今日転入生が来る」
町下は皆の顔を見渡して声高らかに宣言した。
だが知樹にとっては「その時間はいらないだろ!」と心の中では大ブーイングの嵐が吹き荒れていた。
「入っていいよ」
一度は閉められたドアが再び開く。
「みんな拍手」
町下が拍手を促すとクラスは拍手の海へと豹変する。
そして来た。
腰まである長い髪。その色は紫がかった闇色で、注目を浴びるステージを堂々と歩き、そして教卓の前で止まった。
「初めまして皆さん。私の名前は暁乃々華。こっちの常識を学ぶため、転移して来ました。よろしくお願いします」
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