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第6話 移住
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「夢じゃなかったのか……」
なぜか正座をして、一人呟く知樹。
その目はどこにも焦点が合っておらず、見つめるのは虚空のみ。
向かいに座る少女の事は頭に入っているものの、現実味を帯びてなく、ぼんやりとしているのだ。
「だから夢じゃないって。これは現実」
スラリと伸びた肢体に闇色の髪を肩まで下ろしている少女、暫定暁乃々華はなだめるようにそう言った。
なぜ暫定か、それは彼女の存在そのものが知樹には理解不能なのだ。
いつもはパソコン越しに眺めたり、育てたりしている訳だが、今回はただ【WITH二次元】というゲームをしている訳ではない。
ーー間違い無く、現実での出来事だった。
そして数分後。
普段は知樹以外、誰もいない自室にとんでもない美少女が現れ、それを見て危うく意識が飛びかける。
とまあ、珍しい体験をその身で味わい尽くした知樹がようやく回復した。
夢ではないことがわかり、パニックになった結果、何にもないベットの下に手を突っ込み大変な醜態を晒した知樹の顔は真っ赤なトマトのようになっている。
さっきとは違う理由で、視点は乃々華にあっていない。
「改めて自己紹介をするね」
だが知樹が生き地獄とも言えそうな羞恥を味わっている最中、乃々華は気に留めているのか、気にも留いてないのか、軽い口調で自己紹介を始めた。
「私は暁乃々華。一応別の世界から来ました。こちらでの常識を学ぶために来ました。これからよろしくね」
ぺこりとお辞儀し、その名の通り暁のように明るい微笑みをこぼす乃々華。
「どうぞ」
小さな声で先を促す。
「お、おう。俺は八林知樹。初め……まして、かな」
「ええ、そうね」
「よ、よろしく」
「ええ、よろしく」
「…………」
「…………」
知樹が話を続けないせいで、同室にいる二人の間に気まずい沈黙が流れる。
「き、聞きたいことがある」
「なに?」
「なんで俺の家に来たんだ?いまいち、と言うか一から十までの全ての状況が理解できない」
現状を打開するべく、発言という名の武器で窮地から逃れようとする知樹。
だが、
「やっぱりダメだった……かな」
危惧していたことが見事に的中したかのように、乃々華の表情が曇る。
「ダメとは言ってないけど、訳がわからないんだ。まずは説明してくれ。話はその後だ」
知樹は乃々華の事情を何一つ知らない。
つまりせめて一から八位までは説明してもらわなければ、首を振ろうにも振れないのだった。
「わかったわ、説明する」
乃々華はそう言うと、床に座り込み神妙な面持ちで語り始めた。
◆
「つまり、こちらの世界の常識を学習しに来たって事か? 変わってるな。修学旅行気分みたいだし」
乃々華の話曰く、まあ何ともあのような神妙な面持ちだったにもかかわらず、二次元の世界からこちらの世界へ学習目的で来たらしいのだ。
常識と言うのもよくは分からないが、まさに修学旅行。
災難は(自覚なし)修学旅行先の宿が自宅警備員化してきている知樹の家にだったと言う訳だ。
「それで暫く俺の家にいたい、と言うことか」
乃々華はこくんと頷いた。
「分かった、良いよ」
「ダメだったのなら仕方が無いよね……自分で何とか…………へっ?」
「良いよ、ここにいても。父さんには俺から言っておくから、良いよ」
八林家には大人は一人しかいない。
母親は単身赴任中で父親が専業主夫なのだ。
つまりこの家にいる唯一の大人、父親を説得すれば、この家に住まわせるくらいは可能になるだろうと智樹は考えた。
「それにしても普通の人間にしか見えないな」
知樹は聞こえないように小さく呟く。
二次元と言ったら平面で絵師によって様々な変化を見せるのだが、いざ現実に現れるとなると体のつくりは知樹とさほど変わらない。
ただ『モデルか!」と言いたくなるくらいのスタイルとルックスが備わっているところが知樹とは違う点だ。
結論を言ってしまうと、二次元であっても三次元であっても【暁乃々華】は可愛い、と言う訳だ。
「あ、ありがとう。じゃあ明日から私も学生ね」
自信満々に胸を張る乃々華。
だが張る胸が無いのは残念だ、と知樹は一人で自己完結する。
「……へ?学生?」
乃々華のスタイルについて考えていた知樹は気付くのが遅れ、無意識に表情に出ていたにやけ顏が固まった。
「そう、私は明日から学生よ!」
自慢げな表情をして声を上げる乃々華。
だが、知樹は相変わらず、
ーーやっぱり胸は無いんだな。
本心兼現実逃避な感想を心の中で述べていた。
なぜか正座をして、一人呟く知樹。
その目はどこにも焦点が合っておらず、見つめるのは虚空のみ。
向かいに座る少女の事は頭に入っているものの、現実味を帯びてなく、ぼんやりとしているのだ。
「だから夢じゃないって。これは現実」
スラリと伸びた肢体に闇色の髪を肩まで下ろしている少女、暫定暁乃々華はなだめるようにそう言った。
なぜ暫定か、それは彼女の存在そのものが知樹には理解不能なのだ。
いつもはパソコン越しに眺めたり、育てたりしている訳だが、今回はただ【WITH二次元】というゲームをしている訳ではない。
ーー間違い無く、現実での出来事だった。
そして数分後。
普段は知樹以外、誰もいない自室にとんでもない美少女が現れ、それを見て危うく意識が飛びかける。
とまあ、珍しい体験をその身で味わい尽くした知樹がようやく回復した。
夢ではないことがわかり、パニックになった結果、何にもないベットの下に手を突っ込み大変な醜態を晒した知樹の顔は真っ赤なトマトのようになっている。
さっきとは違う理由で、視点は乃々華にあっていない。
「改めて自己紹介をするね」
だが知樹が生き地獄とも言えそうな羞恥を味わっている最中、乃々華は気に留めているのか、気にも留いてないのか、軽い口調で自己紹介を始めた。
「私は暁乃々華。一応別の世界から来ました。こちらでの常識を学ぶために来ました。これからよろしくね」
ぺこりとお辞儀し、その名の通り暁のように明るい微笑みをこぼす乃々華。
「どうぞ」
小さな声で先を促す。
「お、おう。俺は八林知樹。初め……まして、かな」
「ええ、そうね」
「よ、よろしく」
「ええ、よろしく」
「…………」
「…………」
知樹が話を続けないせいで、同室にいる二人の間に気まずい沈黙が流れる。
「き、聞きたいことがある」
「なに?」
「なんで俺の家に来たんだ?いまいち、と言うか一から十までの全ての状況が理解できない」
現状を打開するべく、発言という名の武器で窮地から逃れようとする知樹。
だが、
「やっぱりダメだった……かな」
危惧していたことが見事に的中したかのように、乃々華の表情が曇る。
「ダメとは言ってないけど、訳がわからないんだ。まずは説明してくれ。話はその後だ」
知樹は乃々華の事情を何一つ知らない。
つまりせめて一から八位までは説明してもらわなければ、首を振ろうにも振れないのだった。
「わかったわ、説明する」
乃々華はそう言うと、床に座り込み神妙な面持ちで語り始めた。
◆
「つまり、こちらの世界の常識を学習しに来たって事か? 変わってるな。修学旅行気分みたいだし」
乃々華の話曰く、まあ何ともあのような神妙な面持ちだったにもかかわらず、二次元の世界からこちらの世界へ学習目的で来たらしいのだ。
常識と言うのもよくは分からないが、まさに修学旅行。
災難は(自覚なし)修学旅行先の宿が自宅警備員化してきている知樹の家にだったと言う訳だ。
「それで暫く俺の家にいたい、と言うことか」
乃々華はこくんと頷いた。
「分かった、良いよ」
「ダメだったのなら仕方が無いよね……自分で何とか…………へっ?」
「良いよ、ここにいても。父さんには俺から言っておくから、良いよ」
八林家には大人は一人しかいない。
母親は単身赴任中で父親が専業主夫なのだ。
つまりこの家にいる唯一の大人、父親を説得すれば、この家に住まわせるくらいは可能になるだろうと智樹は考えた。
「それにしても普通の人間にしか見えないな」
知樹は聞こえないように小さく呟く。
二次元と言ったら平面で絵師によって様々な変化を見せるのだが、いざ現実に現れるとなると体のつくりは知樹とさほど変わらない。
ただ『モデルか!」と言いたくなるくらいのスタイルとルックスが備わっているところが知樹とは違う点だ。
結論を言ってしまうと、二次元であっても三次元であっても【暁乃々華】は可愛い、と言う訳だ。
「あ、ありがとう。じゃあ明日から私も学生ね」
自信満々に胸を張る乃々華。
だが張る胸が無いのは残念だ、と知樹は一人で自己完結する。
「……へ?学生?」
乃々華のスタイルについて考えていた知樹は気付くのが遅れ、無意識に表情に出ていたにやけ顏が固まった。
「そう、私は明日から学生よ!」
自慢げな表情をして声を上げる乃々華。
だが、知樹は相変わらず、
ーーやっぱり胸は無いんだな。
本心兼現実逃避な感想を心の中で述べていた。
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