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第5話 出現
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『それよりも出てきて良い?』
この言葉にはどういう意味が込められているのだろうか。
自分を見つめる切実な瞳に秘められた願いの正体を、知樹は持ち得る全ての知識を総動員させて、解明しようと試みる。
今まで培ってきたゲーム知識の数々。
それらが知樹にはあるのだ。
操作方法は直感で。
RPGでは多くのゲームで裏イベントなどを含め、コンプリートを達成しており、攻略本の存在価値さえわからないと言う知樹。
数多の知識によって構成されるゲーム脳がフル回転し、現在直面している意味不明な発言の意味を探る。
考える、考える、考え……る、思い付かない!!
早くも知樹の頭はオーバーヒートして戦意喪失を果たし、乃々華が映る画面の前で頭を下げた。
『えっ、え?何かそんなに考える事言った?』
画面を挟んだ奥でオロオロと慌てふためく乃々華。
が、なにか閃いたのか、
『あっ、何か部屋に理由があるんだ。ご、ごめんなさい」
座り込んで両手で目を塞いだ。
「は、はい?」
『男子のベットの下にはいかがわしい本があるって聞いた事が……」
「それはフィクションだ!俺の部屋にはそんな物無いよ!!」
幾ら何でもそれは無い。
そんな本をベットの下に置くなんてそれこそ自殺行為だ。
ベット下の収納に引っかかって出てきていたら、親がどんな顔をするか。
「絶対に俺の家族的立ち位置が最底辺に落ちる」
『今度は何を?』
冷え切った家族の目、特に絶対零度の響の視線を想像しただけで背筋に悪寒が走った。
「なんでも無い。それより外に出るってどういうことだ?」
軽蔑の地獄、想像とは言えその恐怖の一端に触れた知樹だが、辛うじて冷静を取り繕う。
『あ、その事』
乃々華は手を打って訝しそうな表情を一転、明るい表情に変えた。
『私ね、そっちに出る事ができるの』
「そっちって、こっち?」
『そう、そっち』
「こっちに?そっち?こっちってどっち?」
乃々華が話しかけてくる自体謎な上、訳の分からないことを連呼されて軽くゲシュタルト崩壊を起こす知樹。
それを見て乃々華は微笑む。
『知樹君、慌てないで。君の許可が出れば私はそっちへ出れるから、取り敢えず言葉で許可をくれる?』
「あ、ああ。出てきていい」
知樹は許可を出した。
言語という形で、未知の領域へと踏み込む、そして踏み込ませる許可を。
刹那、知樹は空間が震えるのを感じた。
それは地震と似た震動。
そして蜃気楼のような歪みを見た。
「これは……」
歪みは渦を巻くように捻れ、震動で身体中に鳥肌が。
悪寒とは違う、一種の緊張感に包まれる。
「大丈夫?顔色が悪いよ」
歪みから声が聞こえた。
それは聞き慣れた優しい声。
光の粒子が歪みから現れ、纏まり、広がり、そして収束して行く。
収束したそれはやがて人の形をとった。
スラリと伸びた肢体に、艶やかな闇色の髪。
「ぁ、ぁ、あかつ、き?」
知樹は驚きで呂律が回らない。
辛うじて名前は言えたが、目の前に出現した少女の目には、変に映っている事は間違い無い。
そう思っていたが、
「凄い……本当に出れた」
少女はただ自分の手や足を眺める事に夢中で、口をパクパクさせている知樹の事など見てはいなかった。
「夢か……夢なら覚めないでくれっ!」
知樹は声を張り上げる。
「のんちゃんが現実にいるなんてあるわけ無いけど、夢でも覚めるな!」
頭を抱えて声を上げるが、視界に映る少女は消えもせず、頬をつねったり、ジャンプしたりとはしゃいでいるだけ。
「知樹君、どうしたの?」
ようやく知樹の奇行に気付いた乃々華。
はしゃぐ自分に気づいたのか顔を少し赤くするも、冷静な口調でエアー地震訓練中の知樹に尋ねた。
ところで夢というのはいつ覚めるのか。
覚めるのならばその多くはいつなのか。
知樹は知っていた。
日本全国全人口の過半数を占めるであろう回答を。
ーー良いところで覚めるんだ、と。
「あぁっ、目が覚めるっ!!」
知樹は床に倒れ込みのたうち回る。
全てはこの至福の時が長く続くようにと願って。
「覚める、ゲフッ、な。覚めないで、ゴブッ、くれ!」
椅子の脚やら、壁やらにぶつかるもただ一心に転がり続ける哀れな男、その数1匹。
その気候の中の奇行は側にいた少女の頑張りあっても、約5分ほど続いた。
この言葉にはどういう意味が込められているのだろうか。
自分を見つめる切実な瞳に秘められた願いの正体を、知樹は持ち得る全ての知識を総動員させて、解明しようと試みる。
今まで培ってきたゲーム知識の数々。
それらが知樹にはあるのだ。
操作方法は直感で。
RPGでは多くのゲームで裏イベントなどを含め、コンプリートを達成しており、攻略本の存在価値さえわからないと言う知樹。
数多の知識によって構成されるゲーム脳がフル回転し、現在直面している意味不明な発言の意味を探る。
考える、考える、考え……る、思い付かない!!
早くも知樹の頭はオーバーヒートして戦意喪失を果たし、乃々華が映る画面の前で頭を下げた。
『えっ、え?何かそんなに考える事言った?』
画面を挟んだ奥でオロオロと慌てふためく乃々華。
が、なにか閃いたのか、
『あっ、何か部屋に理由があるんだ。ご、ごめんなさい」
座り込んで両手で目を塞いだ。
「は、はい?」
『男子のベットの下にはいかがわしい本があるって聞いた事が……」
「それはフィクションだ!俺の部屋にはそんな物無いよ!!」
幾ら何でもそれは無い。
そんな本をベットの下に置くなんてそれこそ自殺行為だ。
ベット下の収納に引っかかって出てきていたら、親がどんな顔をするか。
「絶対に俺の家族的立ち位置が最底辺に落ちる」
『今度は何を?』
冷え切った家族の目、特に絶対零度の響の視線を想像しただけで背筋に悪寒が走った。
「なんでも無い。それより外に出るってどういうことだ?」
軽蔑の地獄、想像とは言えその恐怖の一端に触れた知樹だが、辛うじて冷静を取り繕う。
『あ、その事』
乃々華は手を打って訝しそうな表情を一転、明るい表情に変えた。
『私ね、そっちに出る事ができるの』
「そっちって、こっち?」
『そう、そっち』
「こっちに?そっち?こっちってどっち?」
乃々華が話しかけてくる自体謎な上、訳の分からないことを連呼されて軽くゲシュタルト崩壊を起こす知樹。
それを見て乃々華は微笑む。
『知樹君、慌てないで。君の許可が出れば私はそっちへ出れるから、取り敢えず言葉で許可をくれる?』
「あ、ああ。出てきていい」
知樹は許可を出した。
言語という形で、未知の領域へと踏み込む、そして踏み込ませる許可を。
刹那、知樹は空間が震えるのを感じた。
それは地震と似た震動。
そして蜃気楼のような歪みを見た。
「これは……」
歪みは渦を巻くように捻れ、震動で身体中に鳥肌が。
悪寒とは違う、一種の緊張感に包まれる。
「大丈夫?顔色が悪いよ」
歪みから声が聞こえた。
それは聞き慣れた優しい声。
光の粒子が歪みから現れ、纏まり、広がり、そして収束して行く。
収束したそれはやがて人の形をとった。
スラリと伸びた肢体に、艶やかな闇色の髪。
「ぁ、ぁ、あかつ、き?」
知樹は驚きで呂律が回らない。
辛うじて名前は言えたが、目の前に出現した少女の目には、変に映っている事は間違い無い。
そう思っていたが、
「凄い……本当に出れた」
少女はただ自分の手や足を眺める事に夢中で、口をパクパクさせている知樹の事など見てはいなかった。
「夢か……夢なら覚めないでくれっ!」
知樹は声を張り上げる。
「のんちゃんが現実にいるなんてあるわけ無いけど、夢でも覚めるな!」
頭を抱えて声を上げるが、視界に映る少女は消えもせず、頬をつねったり、ジャンプしたりとはしゃいでいるだけ。
「知樹君、どうしたの?」
ようやく知樹の奇行に気付いた乃々華。
はしゃぐ自分に気づいたのか顔を少し赤くするも、冷静な口調でエアー地震訓練中の知樹に尋ねた。
ところで夢というのはいつ覚めるのか。
覚めるのならばその多くはいつなのか。
知樹は知っていた。
日本全国全人口の過半数を占めるであろう回答を。
ーー良いところで覚めるんだ、と。
「あぁっ、目が覚めるっ!!」
知樹は床に倒れ込みのたうち回る。
全てはこの至福の時が長く続くようにと願って。
「覚める、ゲフッ、な。覚めないで、ゴブッ、くれ!」
椅子の脚やら、壁やらにぶつかるもただ一心に転がり続ける哀れな男、その数1匹。
その気候の中の奇行は側にいた少女の頑張りあっても、約5分ほど続いた。
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