新米錬金術師のお助けライフ。行く先々で巻き込まれつつも私は頑張ります!!

ニゲル

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二章 崩れゆく背後

15 囚われた者達

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「はぁ…はぁ…クソ!」

 俺は街の近くの草原まで逃げたところで人間の姿に戻り息を整える。

「兄貴ー!」

 数十分もすれば部下達が来るものの全員とはいかない。二人も騎士団の奴らに捕まってしまったらしい。

「ちっ、俺含めて三人だけか」
「すみません。二人は伸びてて連れてこれませんでした」

 今までは五人体制で移動しながら商売していた。今回はかなり大口の仕事だっただけに損失がとてつもない。

「だが俺さえいればどうとでもなる。また別のところで誘拐すればいいさ」

 二人には申し訳ないが、ここまでの縁だったということにする。とりあえず俺達は数時間体を休め失った体力を回復させる。

「ん…んぅ?」
「どうしたんです兄貴?」
「いや…ちょっと喉の調子がな」

 先程の戦闘からずっと喉の調子が悪い。ビリビリと痺れ、日常会話ならまだいいが大きな声は出せないだろう。

「まぁじきに治るだろ。それよりさっさと別の街にでも行くか」
「さっすが兄貴! 切り替えがはや…」

 その瞬間離れたところから紫色の閃光が襲いかかってくる。俺は咄嗟にしゃがめたが部下二人は間に合わず頭が地面にゴトンと落ちる。

「躱したか…まぁいい。今度は逃がさない」

 ゆっくりとあの時の奴がにじり寄ってくる。紫色の光る斧を片手に。

「なんで居場所が…」

 その時バチバチと喉元から紫色の光が漏れる。

「まさか…!?」

 俺は悟ってしまう。こいつからは逃げきれないと。

「待ってくれ!! もう悪いことはしない!! だから許してくれ!!」

 アグノスになろうとこいつに敵わないのは明白だ。元々組織への恩義やリスペクトなんて欠片もない。俺は誠心誠意頭を地面に擦り付けて土下座する。

 それでも構わず奴は近づいてくる。

「ま、待ってくれ! 金ならやる! 他に欲しいものも…何だってするから!!」

 俺は全身全霊で命乞いをする。情けなくたっていい。命があればやり直せる。

「お前はティミスに傷をつけた…」
「え? ティミ…?」

 奴は俺の話など耳すら傾けず、ぶつぶつと一方的に言葉を吐き出す。

「ボクの唯一の光を奪う奴はこの世にいらないんだよ…!!」

 次の瞬間一気に間合いを詰められたかと思えば突然視界が一回転する。

「え…」

 間抜けな声と共に顔に衝撃が走り、首のない自分の胴体が視界に入る。

「ボクの大切なティミスを…危ない目に遭わせやがって…よくも…!!」

 奴は怨嗟の言葉を吐き出し斧を振り上げる。

「うっ!!」

 俺は咄嗟に体をアグノスへと変化させる。だがそれは寿命を数秒伸ばすだけにすぎない。

「お前らと違ってボクにはあの子しか居ないんだ!! 奪うなよ…奪うなよ!!!」

 最期に俺が感じたのは真っ赤に染まる視界と純粋な怨嗟の言葉だった。


⭐︎


「何でこんなことに…」

 どしゃ降りの雨が打ちつける夜道。かつての恋人を殺し俺はどうしたらいいか分からず走り続けていた。

 やがて足が疲れしゃがんだ頃にはいつのまにか人間の姿に戻れていた。とはいっても俺が人間を辞めたことに変わりはない。血がべっとりとついた手がそれを証明している。

「はぁはぁ…違う…違う!!」

 俺は急いで水溜りに手を入れて血を洗い流す。

 不幸中の幸いか、雨の勢いが強いため血は簡単に落とせた。しかしそれでも俺の肩に乗る何かは一向に落ちない。軽くならない。

「何で俺は…あいつを…?」

 あいつに対して怒りを抱いていなかったと言えばもちろん嘘になる。だが殺す程ではなかったはずだ。せいぜい恨み節一言くらいだ。怒りより悲しみの方が圧倒的に優勢だった。

 それなのに彼女を目の前にしたあたりで全身が脈打ち、自分が自分じゃないような感覚に襲われ怒りが吹き出してきた。

 だがどれだけ言い訳を並べようが事実からは逃れられない。俺はルミアを殺したのだ。この手で、間違いなく。

「みてみてーこれ。お守り作ったの!」

 目の前にぼんやりとルミアの影が見える。それは今の俺より若い自分に向かってなにやら話している。

「へぇ~綺麗だね」
「うん! エディアが無事に帰ってこれるように…」

 二人は仲睦まじく、それこそ夫婦のように接している。その様子が今の俺には瞳を突き刺すほど眩しく見えてしまう。

「あ…あぁ…!!」

 自分自身で奪ってしまったその景色に嗚咽を漏らし、どうすることもできなくなったこの状況の中で、水中で溺れぬべくもがく虫のように必死に呼吸する。

 誰か….誰か助けてくれ…!!

 しかしカリスは死に、村の中の良かった人々はほとんど殺されてしまった。そしてルミアは俺自身の手で…

「エディア」
「ル…ルミア?」

 目の前に先程の派手さがない、俺と付き合っていた頃の彼女が屈んでいた。

「酷いよ。私を置いていってほったらかしにして…どれだけ寂しかったか分かろうともしないで」
「それは…!! …ごめん…!!」

 幻覚なのは分かっている。それでも俺はほんの些細な希望を見出し彼女に謝罪する。

「もういいよ。私は新しい人のところに行ってくるから」
「え…待って!!」

 彼女は俺に背を向け歩き去っていく。ゆっくりとこちらに悲しさと虚しさを味合わせるように。

「待って…待ってくれ!!」

 俺も立ち上がって彼女の背中に追いつくべく駆け出す。しかしどういうわけか彼女の背中には追いつけない。

 ゆっくりと歩いてゆく背中を必死に追っているのに追いつくどころかどんどんと距離を離される。

 なんで…どうしてだよ!!

 手を伸ばしてその分距離を稼ぐがそれでも距離は縮まらず離されていく。

「嫌だ…嫌だっ!!」

 俺の体が段々と灰色に変色していく。

 足は地面を踏み抜くほど屈強になり、胸は人を抱きしめるためでなく傷つけるゴツゴツしたものに。手は誰かを殺めることしかできない凶悪で醜い形状になってしまう。

「ルミアッ!!」

 何度もその肩を掴もうとしては空気を握り、幾度も転びそうになっては体勢を整える。

 誰もいない道をひたすらに走る。幻影に振り回される。

「はぁ…はぁ…はぁ…!!」

 息が切れ胸が締め付けられようとも必死に走り手を伸ばす。涙を流し、それは地面へと落ち排水溝に吸い込まれていく。

「ルミアッ!!!」

 やっとの想いで伸ばした手が彼女の肩に届く。しかしそれが彼女の体を掴むことはなかった。

 もちろん当然だ。俺が見ていたのは幻覚なのだから。触れられるはずがない。温もりをこの手で感じられるわけがない。

 俺がそんな幸せを掴んでいいはずがない。

「うぁ……あぁ……!!」

 逃げても逃げてもあの感触がどこまでも纏わりついてくる。

 もう、どうしようもない。

 視界が大きく揺らぐ。水滴がどんどん目に入ってきて、そして溢れ出て前が見えない。胸が締め付けられ息ができず酸素が頭に回らない。

 肌の色が元に戻り人間の姿になる。

「もう…………」

 バタリと受け身すら取らずにビシャビシャの地面に倒れ伏す。冷たい雨が背中に突き刺さり、俺の意識はそれよりももっと冷たく暗くなっていくのだった。
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