23 / 26
二章 崩れゆく背後
22話 迷いの一撃
しおりを挟む「炎盾《フレイム・シールド》!!」
彼女は炎の盾をこちらに投擲し俺の背後で爆発させ炎の壁を生成する。
引き下がれない…!!
そして迫ってくる剣による猛攻を槍でなんとか受け流す。氷を溶かす炎。油断したら殺されてしまう。
「許さないマーチ…!!」
「ちがっ…………」
否定しようとしたが声が喉から出てこない。今俺が説明を加えたら、エディアがアグノスということがバレる。そのことが俺の喉にブレーキをかける。
それに脳裏を過ぎるガンマさんの言葉。
『きっとお前がアグノスって分かれば容赦なく殺してくるぞ。聞いた話ある程度戦えるんだろ? きっとアグノスは許さないって言ってお前が無抵抗だとしても容赦なくグサッ! てな』
『分からなかったら? 次はないぞ』
そのことが言葉を詰まらせるのに拍車をかける。
「くらえっ!!」
彼女は俺をマーチだと、悪だと思い込み容赦なく正義の鉄槌を下そうとする。
どうすれば良いんだ…早くしないとマーチが逃げる。でも彼女にはどう説明したら…いや結局俺は彼女から殺されるという結末は変わらないのか…?
思考が巡り絡みつき雁字搦めになる。必死に避けるが限界が、死がすぐそこまで迫ってくる。
「きゃっ!!」
追い詰められどうしたらいいのか分からなくなり、咄嗟に出てしまった手が彼女の頬を掠る。
ぽちょんと一滴の血が俺の腕を伝い地面に落ちる。
普通なら当たっても少し腫れるだとかそんなところのはずだ。だが今の俺はアグノス。尖った外皮が彼女の皮膚を切り裂いた。
俺の腕の上に流れる血を見てあの時の光景が鮮明に蘇る。また吐き気が胸に込み上げてくる。
「くっ…!!」
攻撃に転じたことで彼女は警戒を見せ一旦距離を取る。しかしその瞬間遠くでマーチが飛び立ち俺達の注意はそちらに向かう。
「えっ、アグノスがもう一体…!?」
情報の手札が少なく動揺する彼女を傍目に俺は奴に向かって跳び上がりこの場から立ち去る。
「ぐっ、離せ!!」
まだ高度が低い所に居た奴に抱きつき飛び去るのを妨害する。
「落ちろ…!!」
攻撃を躱しつつ拘束を続け、羽を掴み引き千切る。
「ぐあぁっ!!!」
血を吹き出す奴にしがみついたまま俺達は落下していく。
「貴様…許さん…許さんぞ!!」
奴は蜂には似合わない屈強な足で立ち針をこちらに向ける。
「炎加速《アクセル・バースト》!!」
後ろからフェートが炎を噴出させその推進力で飛び込んでくる。
仕方なく攻撃を止め、俺は防御に徹する。
「うぐっ!!」
しかし俺に衝撃が加わることはない。真紅の剣はマーチを捉えていた。
「事情は分かりませんが…あなたは味方…なんですか?」
俺はゆっくりと頷いて問いかけに答える。
「またちょこまかとぉ!!」
奴は針を振り回すがそんな攻撃は俺達に当たるわけもない。
数秒間を置いて、意見を合わせるように俺とフェートは互いに視線をぶつけ合い、そして同時に息を合わせ駆け出す。
「ぐっ…うぉぉ!!」
迫る二手に奴は苦し紛れに両手で同時に突く。俺達はそれを完全に見切って躱し各々武器を突き出す。
鈍い切り裂き音が一つ響く。奴は前面背面共に深く長い切り傷を作る。
「こんなところで…!!」
奴の体が村で倒した奴らのように霧散していく。
「よっと」
フェートは飛んでいく粒子をまるで虫を網で捕まえるようにして瓶の中に閉じ込める。
「あの…それであなたは一体…」
大体の事情は察してくれたのか、敵意を完全に取り下げてこちらに尋ねてくる。
「…………」
俺は無言を貫き後ろに跳んでそのまま森の闇に消える。
「待っ…!!」
背中に制止の言葉が投げかけられるがそれすらも聞こえなくなるほど速く、遠くに逃げる。
「ここまで来れば…」
ある程度離れたところで変身を解除して人間の姿に戻る。一息ついて荒れた呼吸を整える。
「おい小僧!」
数分すればガンマさんが闇の中から現れる。
「マーチは?」
「なんとか倒せました。たださっきの二人の仲間に誤って攻撃されちゃいましたけど、人間から変わる姿は見られてないから大丈夫です」
「はぁ…そうかい」
ガンマさんは呆れて帽子を深く被り悪態をつく。それから俺達は歩いて三人を見つけ合流する。
「…という感じで謎のアグノスと交戦しましたが、何故かそいつもマーチを襲い出して。なんとか倒すことはできました」
お互いに情報を出し合い起こったことを共有する。
まとめると三人が奴隷の子達を助けるべく動きフェートは保護に動いて別行動してたらしい。
それであとから追いかけてきて俺と鉢合わせたのか…
本当に運の悪い話だ。下手をしたらどちらかが死んでいてもおかしくなかった。
「とにかくそちらのお二人。協力感謝する」
ガペーラと名乗った女性が丁寧にこちらに頭を下げる。
「いえこちらもなんとかなったようでよかったです。それより例の…角が生えたアグノスっていうのは?」
もしかしたらバレているかもしれない。俺はそれとなくフェートにその件を尋ねてみる。
「何者かは分かりませんでした。ただ…悪い人じゃないと思います」
確かにハッキリと、迷いなくそう言い切る。
「マーチを狙ってましたし、それに私の頬に傷を作った時明らかに動揺していました。まぁ私の直感ですけど」
「そう…」
「だからもし今度会うことがあれば、その時は話し合ってみようと思います」
話し合っても分からない。次はない。ガンマさんから言われたあのセリフ。だがそれら全てを彼女は否定してくれる。
俺はそこにほんの些細な光を見出した。
「後始末はボクが色々手配している。通りがかりの君達に負担をかけて申し訳なかった」
「あ、いや大丈夫です…それじゃあ俺達はこれで」
お言葉に甘えて俺達はこれで帰らせてもらうことにする。
「ふぅー思ったより疲れたな。まさか魔物を呼ぶ能力を隠していたとは」
家に帰り俺達は各々腰掛け疲れた体を休ませる。
「だが金品の回収とマーチの撃破は無事完了。お前も良い働きだったぞ」
「…ありがとうございます」
「で、これからお前はどうすんだ? 上からはお前を組織に入らせろって言われてるんだが」
「俺は…」
マーチの屋敷での出来事。そしてフェートのあの言葉。俺はある一つの結論を出す。
「俺はガンマさんについていきます。しばらくは」
「あ? つまり組織に入るってことか?」
「ガンマさんを信じてみることにします。アグノスであるあなたを、それで組織については自分の目で見て、話し合って考えます」
「ちっ、あのガキみてぇなこと言いやがって」
誰かを疑うなら信じて、腰を据えて話し合ってみたい。それが彼女から影響を受けた俺の答えだった。
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~
枯井戸
ファンタジー
力も強くない、足も速くない、魔法も使えないし、頭も大してよくない、どこにでもいるちょっとオタク趣味の主人公・東雲真緒が白雉国に勇者として転生する。
同期の勇者はそれぞれ力が強かったり、魔法が使えたり、回復ができたりと各々の才能を開花させ頭角を現していくのだが、真緒に与えられた才能は異世界転生モノでよく見る〝ステータスオープン〟のみだった。
仲間には使えないと蔑まれ、ギルドには落第勇者の烙印を押され、現地人には殺害されかけ、挙句の果てに大事な人を亡くし、見ず知らずの土地の最底辺で生きていくことになった真緒だったが、彼女はまだ〝ステータスオープン〟の可能性に気づいていないだけだった。
─────────────
※投稿時間は多少前後しますが毎日投稿は続けていくつもりです。
※タイトルは予告なしにガラリと変わる場合があるのでご了承ください。
※表紙は現在の主人公のイメージ図です。もしまた別の国へ行く場合、彼女の装いも変化するかもしれません。
精霊が俺の事を気に入ってくれているらしく過剰に尽くしてくれる!が、周囲には精霊が見えず俺の評価はよろしくない
よっしぃ
ファンタジー
俺には僅かながら魔力がある。この世界で魔力を持った人は少ないからそれだけで貴重な存在のはずなんだが、俺の場合そうじゃないらしい。
魔力があっても普通の魔法が使えない俺。
そんな俺が唯一使える魔法・・・・そんなのねーよ!
因みに俺の周囲には何故か精霊が頻繁にやってくる。
任意の精霊を召還するのは実はスキルなんだが、召喚した精霊をその場に留め使役するには魔力が必要だが、俺にスキルはないぞ。
極稀にスキルを所持している冒険者がいるが、引く手あまたでウラヤマ!
そうそう俺の総魔力量は少なく、精霊が俺の周囲で顕現化しても何かをさせる程の魔力がないから直ぐに姿が消えてしまう。
そんなある日転機が訪れる。
いつもの如く精霊が俺の魔力をねだって頂いちゃう訳だが、大抵俺はその場で気を失う。
昔ひょんな事から助けた精霊が俺の所に現れたんだが、この時俺はたまたまうつ伏せで倒れた。因みに顔面ダイブで鼻血が出たのは内緒だ。
そして当然ながら意識を失ったが、ふと目を覚ますと俺の周囲にはものすごい数の魔石やら素材があって驚いた。
精霊曰く御礼だってさ。
どうやら俺の魔力は非常に良いらしい。美味しいのか効果が高いのかは知らんが、精霊の好みらしい。
何故この日に限って精霊がずっと顕現化しているんだ?
どうやら俺がうつ伏せで地面に倒れたのが良かったらしい。
俺と地脈と繋がって、魔力が無限増殖状態だったようだ。
そしてこれが俺が冒険者として活動する時のスタイルになっていくんだが、理解しがたい体勢での活動に周囲の理解は得られなかった。
そんなある日、1人の女性が俺とパーティーを組みたいとやってきた。
ついでに精霊に彼女が呪われているのが分かったので解呪しておいた。
そんなある日、俺は所属しているパーティーから追放されてしまった。
そりゃあ戦闘中だろうがお構いなしに地面に寝そべってしまうんだから、あいつは一体何をしているんだ!となってしまうのは仕方がないが、これでも貢献していたんだぜ?
何せそうしている間は精霊達が勝手に魔物を仕留め、素材を集めてくれるし、俺の身をしっかり守ってくれているんだが、精霊が視えないメンバーには俺がただ寝ているだけにしか見えないらしい。
因みにダンジョンのボス部屋に1人放り込まれたんだが、俺と先にパーティーを組んでいたエレンは俺を助けにボス部屋へ突入してくれた。
流石にダンジョン中層でも深層のボス部屋、2人ではなあ。
俺はダンジョンの真っただ中に追放された訳だが、くしくも追放直後に俺の何かが変化した。
因みに寝そべっていなくてはいけない理由は顔面と心臓、そして掌を地面にくっつける事で地脈と繋がるらしい。地脈って何だ?
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
魔力0の貴族次男に転生しましたが、気功スキルで補った魔力で強い魔法を使い無双します
burazu
ファンタジー
事故で命を落とした青年はジュン・ラオールという貴族の次男として生まれ変わるが魔力0という鑑定を受け次男であるにもかかわらず継承権最下位へと降格してしまう。事実上継承権を失ったジュンは騎士団長メイルより剣の指導を受け、剣に気を込める気功スキルを学ぶ。
その気功スキルの才能が開花し、自然界より魔力を吸収し強力な魔法のような力を次から次へと使用し父達を驚愕させる。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主
雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。
荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。
十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、
ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。
ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、
領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。
魔物被害、経済不安、流通の断絶──
没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。
新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる