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二章 天才探偵
37話 命が尽きるまで
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「所長。掃除洗濯が終わりました。それと紅茶です」
日も沈み仕事が終わった後、シャーロットは事務所の机で優雅に紅茶を啜る。
今はこの空間には二人だけ。お互い幼い頃からの仲だ。遠慮なく全てを曝け出し合える。
「やっぱりベラドンナ君の紅茶は格別だよ。死ぬ直前もこれを飲んでいたいものだね」
半分ほどまで飲んだところで一旦カップを置く。味の余韻に浸り香りを楽しむ。
「ところで夜道さんのことですが……本当にこのまま雇うおつもりですか? あの人は所長の一番嫌いなタイプの人間だと思うのですが?」
「あぁそうだね。嫌いなタイプだしあぁいう考えは本当に不愉快だよ。でも契約は契約だし仕事は仕事。わたしの感情一つでどうこうするのはそれこそわたしのポリシーに反している」
シャーロットはパティシーに手を伸ばし、オーブを嵌め込む箇所を指でなぞる。
「それに彼は数少ない配信者だ。情報も入ってきやすいしいざという時戦力にもなる。嫌いだからといってこの利益を手放すのは惜しい。
それに家事も中々できるしね」
また再び紅茶に手を伸ばしカップを口へ近づける。しかし突然手が震え出し、あろうことか何も起こっていないのにカップを机に落としてしまい紅茶を服に溢す。
カップは粉々に割れてしまい辺りに破片が散らばる。これからの彼女の未来を暗示するかのように。
「所長! すぐに拭きます!」
「い、いやいい。自分で拭けるさ……これくらい」
そうは言うものの手の震えはまだ残っていて上手くタオルを持てない。最終的にベラドンナが代わりに机や彼女の衣服についた紅茶を拭き取る。
「はぁ……はぁ……今日はちょっと運動しすぎちゃったみたいだね」
手の震えだけでない。息も荒くなり始める。咳が止まらなくなりやがて手が自然と口に回る。
「はぁ……時間はあとどれくらいか……」
手にはべっとりと血液がこびりついていた。肺が痛みゆっくり呼吸しても痛覚が刺激され落ち着かない。口の中には紅茶の味が残っていたのに台無しにされ鉄臭い匂いが顔周りに充満する。
赤黒く染まる手を見てシャーロットは表情を暗くし、やっと震えが収まった体でティッシュを取り血液を拭き取る。
「ねぇベラドンナ君……もしわたしがいなくなったら……ここの物やお金全部使っていいから、わたしのことは忘れて……」
「そんなことできません!!」
力強く着いた手により割れたカップの破片が揺れ何個か地面に落ちる。
「……そうは言ってもその時は来る」
シャーロットは椅子に深くもたれかかり、諦めたように深く息を吐く。しかしその瞳には不退転の覚悟が宿っておりいくら血を吐こうが寿命が縮まろうが消えることはないだろう。
「そうだ……君と夜道君が交際するっていうのはどうかな?」
「えっ!? な、何を言ってるんですか!?」
ベラドンナはいつもの冷静な態度を崩し顔を真っ赤にさせる。
「かれこれ二十年近く一緒にいる仲なのに気づかないと思ったのかい? 君が夜道君に良い印象を抱いていることくらいお見通しさ」
「そ、そんなことは……」
弱く否定するものの紅潮した顔は隠せない。
「まぁとは言っても、少なくとも目的を果たすまでは死ぬつもりは毛頭ないけどね」
シャーロットはやっと安定するようになった体を動かし、水蒸気が付いている窓に人差し指を置く。
ツーっとなぞっていきやがてそれは楕円となり一つの顔に、男性の特徴を捉えたものとなる。
「あと一年ないかもしれない。それまでに……この男を……」
自然と手に力が籠り、シャーロットは小さな手で窓を叩き男の顔を潰す。ズリズリと手を下へと引き摺り恨みを晴らすように手にベットリと水を付ける。
「だから……手段なんて選んでいられないんだよ」
窓が割れてしまいそうなほど手に力を込め、過去と復讐を背負った背中をベラドンナは見るのだった。
日も沈み仕事が終わった後、シャーロットは事務所の机で優雅に紅茶を啜る。
今はこの空間には二人だけ。お互い幼い頃からの仲だ。遠慮なく全てを曝け出し合える。
「やっぱりベラドンナ君の紅茶は格別だよ。死ぬ直前もこれを飲んでいたいものだね」
半分ほどまで飲んだところで一旦カップを置く。味の余韻に浸り香りを楽しむ。
「ところで夜道さんのことですが……本当にこのまま雇うおつもりですか? あの人は所長の一番嫌いなタイプの人間だと思うのですが?」
「あぁそうだね。嫌いなタイプだしあぁいう考えは本当に不愉快だよ。でも契約は契約だし仕事は仕事。わたしの感情一つでどうこうするのはそれこそわたしのポリシーに反している」
シャーロットはパティシーに手を伸ばし、オーブを嵌め込む箇所を指でなぞる。
「それに彼は数少ない配信者だ。情報も入ってきやすいしいざという時戦力にもなる。嫌いだからといってこの利益を手放すのは惜しい。
それに家事も中々できるしね」
また再び紅茶に手を伸ばしカップを口へ近づける。しかし突然手が震え出し、あろうことか何も起こっていないのにカップを机に落としてしまい紅茶を服に溢す。
カップは粉々に割れてしまい辺りに破片が散らばる。これからの彼女の未来を暗示するかのように。
「所長! すぐに拭きます!」
「い、いやいい。自分で拭けるさ……これくらい」
そうは言うものの手の震えはまだ残っていて上手くタオルを持てない。最終的にベラドンナが代わりに机や彼女の衣服についた紅茶を拭き取る。
「はぁ……はぁ……今日はちょっと運動しすぎちゃったみたいだね」
手の震えだけでない。息も荒くなり始める。咳が止まらなくなりやがて手が自然と口に回る。
「はぁ……時間はあとどれくらいか……」
手にはべっとりと血液がこびりついていた。肺が痛みゆっくり呼吸しても痛覚が刺激され落ち着かない。口の中には紅茶の味が残っていたのに台無しにされ鉄臭い匂いが顔周りに充満する。
赤黒く染まる手を見てシャーロットは表情を暗くし、やっと震えが収まった体でティッシュを取り血液を拭き取る。
「ねぇベラドンナ君……もしわたしがいなくなったら……ここの物やお金全部使っていいから、わたしのことは忘れて……」
「そんなことできません!!」
力強く着いた手により割れたカップの破片が揺れ何個か地面に落ちる。
「……そうは言ってもその時は来る」
シャーロットは椅子に深くもたれかかり、諦めたように深く息を吐く。しかしその瞳には不退転の覚悟が宿っておりいくら血を吐こうが寿命が縮まろうが消えることはないだろう。
「そうだ……君と夜道君が交際するっていうのはどうかな?」
「えっ!? な、何を言ってるんですか!?」
ベラドンナはいつもの冷静な態度を崩し顔を真っ赤にさせる。
「かれこれ二十年近く一緒にいる仲なのに気づかないと思ったのかい? 君が夜道君に良い印象を抱いていることくらいお見通しさ」
「そ、そんなことは……」
弱く否定するものの紅潮した顔は隠せない。
「まぁとは言っても、少なくとも目的を果たすまでは死ぬつもりは毛頭ないけどね」
シャーロットはやっと安定するようになった体を動かし、水蒸気が付いている窓に人差し指を置く。
ツーっとなぞっていきやがてそれは楕円となり一つの顔に、男性の特徴を捉えたものとなる。
「あと一年ないかもしれない。それまでに……この男を……」
自然と手に力が籠り、シャーロットは小さな手で窓を叩き男の顔を潰す。ズリズリと手を下へと引き摺り恨みを晴らすように手にベットリと水を付ける。
「だから……手段なんて選んでいられないんだよ」
窓が割れてしまいそうなほど手に力を込め、過去と復讐を背負った背中をベラドンナは見るのだった。
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