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一章 女神様と異世界と
プロローグ 甘々女神様に甘やかされて
しおりを挟む学校を抜け出しどしゃぶりの雨の中ボクは知らない道を駆けていた。中学に入ってしばらくしていじめの標的にされ、先生も助けてくれずついに耐えきれなくなり授業中にトイレに行くと言い抜け出したのだ。
「もうこのまま逃げちゃおうかな……」
孤児で身寄りもない上に友達もいない。
元よりボクは一人で遠くに行くのが好きだ。この際誰にも見つからない場所に行くのもいいかもしれない。
「ん……? 何あれ……?」
下を向いていて気づかなかったが、前方の空間が歪んでいた。炎の近くで空気が歪曲するかのような感じだ。
しかし今は火の気はないし雨も降っている。
目眩……じゃないよね。何だろうこれ……
ボクは好奇心からかその歪みに手を伸ばしてしまう。途端にガクンと膝から力が抜け、ボクの視界は暗闇に包まれるのだった。
⭐︎⭐︎⭐︎
「冥矢君……起きて……!!」
頭に伝わる柔らかい感触。耳に入る女性の美しい声。それらによりボクの意識は段々と覚醒していく。
「あっ起きた! おはよう冥矢君!」
ボクを覗き込む綺麗な金髪の女性。まるで壁画で天使が着るような白い服を着ており……いや、天使のようなではない。天使そのものだ。
近くて気づかなかったが彼女の背中から純白の大きな翼が生えている。
「ててて天使!?」
ボクは物語でしか見たことのないその存在に言葉にできない感情を覚え、膝枕された状態から転がり慌てて距離を取る。
「ちょっ、ちょっと待って! 私は別に君のことを取って食べたりしないよ! それに私は天使じゃなくて女神ね!」
「め、女神……?」
お姉さんの頭の上には神々しい輪っかがついており、右手には分厚い赤色の背表紙の本を持っている。そう言われてみれば女神様にも見える。
「あの……仮に女神様として、何でボクはこんなよく分からない空間に、女神様の前に居るの?」
見渡してみれば一面金色に包まれた、雲の上かのような空間。ボクは先程まで河川敷近くの道に居たのだからこんな所に居るはずがない。
「言いづらいんだけど……冥矢君は死んでしまったの」
「えっ……ボ、ボクが死んだ!?」
漫画のように体が透けているわけでもないしにわかには信じられない。だが超常的な現象と彼女の神秘的な雰囲気からそれが本当のことなのだと納得させられる。
「ごめんなさい……君が見たあの空間の歪みあったでしょ?」
「あったけど、あれのせいで……?」
「あれは世界の歪みなの。ゲームで例えるとバグみたいなもの。私がしっかり地球を管理していたはずなのに、そうなってしまって。そして君はその歪みに巻き込まれて死んでしまったの」
理解はしたもののまだ飲み込めない。まさかボクが十四歳で死ぬことになるなんて現実を受け止めきれなかった。
「そ、そんな悲しい顔しないで! 地球には無理だけど、私が管轄するもう一つの世界に転生させてあげることはできるから!」
女神様は大きな胸を張りながら右手の本を開きそこから光の粒子を取り出す。それはボクの方に浮遊してきて体の中に吸い込まれていく。
「これで君はその世界でも言葉が分かるし特別なスキルも手に入れたわ」
「スキル……?」
「えーっと、地球の文化に合わせて言うなら……RPGゲームとかにある特殊能力ってところかな? あっ、ゲームと言えばあっちの世界にはこれがあるんだった」
女神様は本のページを捲り放出された光の粒子を一枚のカードにして手渡す。
「それを手に持ってステータスオープンって言ってみて」
「ス、ステータスオープン……?」
訳も分からず指示通りに言葉を述べてみれば目の前に長方形のヴィジョンが浮かび上がる。
LV 01
HP 93/93
MP67/67
力17
魔力02
素早さ19
防御09
魔法抵抗11
所持スキル
《喰らい人》
本当にゲームで見るようなステータスが表示されている。
「まぁその数値はあくまで参考ね。過信は禁物よ。いくらステータスが高くても技量や作戦とかで容易に状況はひっくり返るから」
「うん……分かった。それで今からその世界に行くの?」
元々あの世界には親も友達もいない。未練もあまりない。ボクは心機一転新しい世界へ想いを馳せる。
「ず、随分聞き分けがいいわね……家族とも離れ離れになるんだし、我慢せずに泣いてもいいのよ?」
「物心ついた時から家族はいなかったし……施設の人達とは仲良くなかったし……未練はないから大丈夫」
「そう……頑張ったんだね」
女神様はボクを抱き寄せ頭を撫でてくれる。柔らかく豊満な胸にボクの頭を押し込み、顔が温かく優しい感触に包まれる。
「や、やめてよっ!」
子供扱いされ恥ずかしくなり女神様の抱擁から抜け出す。
「もう照れなくていいんだよ……でも異世界に行ってから私は干渉できない。だから本当はダメだったんだけど……あのスキルは私からのささやかな想いだから」
女神様が何かを悟り暗い表情をし始めた時ボクの全身が光に包まれる。
「もう時間みたいだね……これ以上助けられないけど……頑張ってね……!!」
最後に女神様はもう一度ボクのことを深く抱きしめる。生まれてこの方向けられてこなかった親愛の感情。初めて会った存在なのに安心できるその胸に抱かれボクの視界は白一色に移り変わる。
それからどれくらい時間が経ったのだろうか。段々と視界は晴れていき、緑一面の木々に囲まれた世界が広がる。
「ここが異世界……?」
何も知らないこの世界に冒険心を刺激され、何か考える前にまず足を前に出してしまう。
「ぐえっ!!」
しかし足は硬い地面ではなく柔らかく弾力性のある何かを踏みつける。下の方から女性の、女神様の汚さを孕んだ声が飛ばされる。
「えっ……女神様?」
「う、う~ん? えっ!? 何で私もここに!?」
女神様は起き上がった途端目を見開き自分も異世界に来てしまっていることに驚愕する。そしてボクの新しい第二の人生は波乱に包まれたものになっていくのだった。
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