正義のあり方――ちょっとえっち版

松尾ヒロシ

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第零話―原因

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 魔法が実際に使える世界、そんな世界になるなんて平成や令和の時代の人々は信じられないだろう。だが、この魔術暦2003年においてそんな常識は通用しない。魔術暦が開始する数年前にとある男性により魔術が生み出されてから世界は魔術による発展を遂げた。その影響で魔術を使用した犯罪も増え、魔術犯罪者を収容する施設も増えた。
 その中の一つ、絶海の孤島であるクロボン島の世界で最も堅牢な刑務所、『エイド』に私は収容されていた。エイドは世界各国が多大な投資をしているため、飯は悪くない。むしろ旨いくらいだ。あえて問題点を挙げるなら経費削減として料理が旨いと評判の囚人を使っているため、時々毒で死んだ囚人が出てくるところぐらいだ。割と大きな問題点だが、いつも旨い飯を食わせてもらっているのだし、私としては特に問題視していない。それにここにいるような奴はいつ殺されても文句は言えない罪を犯してきた奴だけ。そしてもちろん、この私も。

 現在の時刻は午前8時ぴったり。エイドの朝はここから始まる。就寝している部屋の鍵が一斉に開けられ、男女関係なくとある施設に向かって走り出した。その施設を一言で説明するならば、娯楽。それもただの刑務所にあるような囚人の精神状態を保つためにあるような物では無く、明確に楽しませる意図のあるものだ。以前理由を聞いたことがあるが、犯罪者に脱獄させないためらしい。それを初めて聞いたときはとても愉快だと思った。その中に自分が考えた娯楽があればと妄想した。いつしかその妄想は歪んだものとなっていき、現在に至る。
 少し話がずれてしまった。現在彼らのほとんどが向かっているのは、カードゲームを扱っている店だ。そのゲームの名は「エイドカード」。名前の通り、エイドカードはこのエイドの囚人が考え出したゲームだ。妹からは外の世界でも人気だと伝えられている。

 囚人たちがエイドカードのパックを買いに人の波に揉まれている頃、私は別室に呼び出されていた。部屋にはノートパソコンの乗った机が壁に向かうように配置されており、椅子は素人が作ったのかと思えるほど雑な造りだった。私はその椅子に座り、OSを立ち上げてある人物の連絡を待った。

「ねぇ看守さん、エイちゃんとの面談時間はいつからいつ?」

看守は懐に仕舞っていた手帳を取り出し、予定表に目を通す。

「大体0805から0900だ。あと少しで電波が届くから待っていろ。」
「はーい。」

私がだらしなく返事を返すと、デスクトップに電話アプリのポップアップが表示された。素早くマウスを動かし、電話を受け取ると画面に黄色の髪の女性が映し出された。

「やぁ、シェリー。」
「どうしたのエイダ、獄中のお姉ちゃんが恋しくなったんですか?」
「キモいですシェリー。」

 私に辛辣な一言を放った彼女は私の妹、エイダ・マクレーン。彼女は外の世界でエイドカードを販売している「オールヘクス」のエイドカード開発主任だ。小さいころは彼女と共に家の近くの森で遊んでいたのを覚えている。あの時の彼女の翡翠色の目は澄んでいたのに、今では濁っている。良い意味でも悪い意味でも社会の洗礼を受けたらしい。
 私は彼女に何か言いたかった。だが、自分が言えば彼女の気持ちを逆撫でするだけだと思い、本題の話をすることにした。

「さて、エイダ。今回の仕事内容を言ってくれる?」
「今回はテストプレイをするだけです。新規カードのデータを送信します。」
「あいよー。」

 さてここで世間一般の常識として、部外者である私に新規カードの詳細を見せるのはどうかと言う意見があると思う。実はその意見、少し的外れなのだ。私は正確には部外者ではなく、むしろ関係者。エイドカードの原作者と言うのが、この私なのだ。オールヘクスが私に取引をしてきたときに「ゲーム性を著しく変えそうなカードを収録するときはテストプレイさせて欲しい。」と頼んだためである。一応彼女のために言っておこう。開発主任にエイダが選ばれたのは、当時入社5年目にしてめきめきと頭角を現し様々な実績を積んでいた彼女に仕事がきたという全くの偶然だ。

「あっそうそう、この面会の後オールヘクスの心理学者が来るから。ちゃんと正直に答えててくださいね。」
「心理学者?オールヘクスって何でもやってるねぇ。魔術式開発にエイドカード販売、果てには公共事業にも手を出してるらしいじゃない。」
「それは私も感じてます。社内の噂では社長は世界を牛耳ろうとしてるとか。」
「エイダ、一応開発主任なんだから社長の悪い噂を外部の人間に流すのはどうかと思うよ。」
「シェリーの言うとおりですね、気を付けます。」

そんな会話を交わし、私たちは数回テストプレイをして効果の改善案などを終了時間まで話し合った。

「また今度、シェリー。」
「今度があるか分かんないけどまた今度ね~」
「最後に不安になること言わないでくださいよシェリー!」

   彼女はまた言い残していることがあるようだったが、看守は無慈悲に通話アプリを強制終了した。私はむっとした顔で看守を見つめるが、看守は動じず「お前には1時間後にも面会の時間がある。」とだけ言う。こいつらは本当に人間なのか、と思ったが費用の削減のためここの囚人を看守に採用していることを思い出し、考えを改めた。こいつらは人間じゃない。私は今日の予定を確認した後、すぐに自分の就寝部屋に戻った。そこには今朝エイドカードのパックを買いに出かけたルームメイトが帰ってきていた。彼女はとてもうきうきした目で私を見つめる。何か面白いことがあったのだろう。私は彼女の話を聞くことにした。

 彼女の話はとても興味深かった。どうやら今日は娯楽施設内に殺人施設があったと言うのだ。そんな狂ったような娯楽施設なんて外の常識だったらあるはずも無いが、ここは刑務所だ。おそらくシリアルキラーの欲求を満たすためだろう。噂には聞いていたが本当にあるとは・・・
 突然ブザーが鳴った。時計を見ると心理学者と話す予定の時刻の5分前だった。私は彼女に礼をしてから直接面会用の部屋に入る。まだ心理学者は来ていないらしい。

「ねぇ看守さん。今回来るのは男?女?」
「男らしいぞ。一応言っとくが成人だからな。」
「大丈夫よ、そんな理由で聞いたわけじゃないわ。」

看守と談笑を交わしていると向かいの扉が開き、男が入ってきた。髪の毛が曇った銀に輝いて少し眩しい。

「やぁ初めましてシェリー・マクレーン。私はファズムだ。」
「初めまして、シェリーでいいわ。」
「そうかい?じゃあシェリー、君はなぜここにいるんだい?」
「なぜって、そりゃ犯罪を犯したからでしょ。」

彼は不満そうな顔で私を見つめる。確かに意地悪な言い方だった。

「ごめんよ。本当は―――」



場所はカレン街という所に移る。真夜中の丑三つ時。月明かりが廊下を照らし、おどろおどろしくも幻想的な雰囲気を醸し出している。廊下の先には1つの扉があった。その扉の奥からうめき声が一つ、また一つとあがる。
うめき声の正体、それはウォーレン・マクレーンという男だった。彼は悪夢を見ていた。現在の彼のルーツとなる、ある事件の夢を・・・


 6年前まで遡る。当時彼は10歳のただの少年だった。その日も彼は昼まで友人であるアーロン・バレルと遊んで共にバレル家の屋敷まで帰ってきた。

「じゃあまた後でなウォーレン!」
「うん!また後で!」

 執事用の衣裳部屋の前で彼らは別々の場所に向かった。双方の立場を理解する、一種の研修のようなものだ。ウォーレンはバレル家に代々仕える由緒正しい執事の家系、そしてアーロンはバレル家の次期頭首。彼らは親友であったが、同時に親友であり続けるには少し難しい立場でもあったのだ。
 燕尾服を着こなした10歳が衣裳部屋から出てきた。とても子供の顔とは思えないほど凛々しい顔。白い壁の廊下を歩くその姿はまるで訓練された一流の兵士のように美しかった。そんな彼の前に一つの紙くずが落ちていた。

(これでもう何度目だ?もう20回はあった気がするなぁ・・・)
 
紙くずには一つの文字列が書かれていた。「hisynm」という文字列は一種の悪戯のようなものだ。これの場合、書いたときに魔力を込めながら何かを思い浮かべながら書く。すると、書いたもの以外が文字列を目にしたとき形を変えてそれになるのだ。そしてその紙に描かれたものとは、女性の裸体だった。
 それを初めて見たとき、彼はとても驚いていたが今となっては飽きが回ってきたようで直ぐに燃やしていた。この紙の悪戯は以前から1週間に一度、ここに置かれる。一度だけ犯人を捕まえようと紙が置かれるであろう場所へ朝から向かったときにはもう既に置かれていた。

(毎回僕がここを通るたび置かれている・・・数時間もこんな所に置いてあれば他の執事が拾って処理をしているはず。ならこれは僕が拾うように仕組まれているのか・・・)

 彼はさらに分析を始め、常識の観点から犯人を絞り込もうとした。だが次の瞬間、分析は無駄となった。なんと犯人がやって来たのだ。

「それちょーだい!」
「あっ叔母さん!」
「叔母さんはやめなさい、これでも26よ?」

そうだけど、と言うと彼は言葉が詰まった。彼女はシェリー・マクレーン。ウォーレンの叔母にあたる人物だ。彼女はマクレーン家の女として生まれながらもこの家のコックとして働いている。そんな彼女がなぜこの時間にこんな場所に来ているのか、疑問に思ったのだ。

「叔母さん、なんでここにいるの?」
「なんでって、あんたの事が心配で来たんでしょ。」
「いつもは来ないくせに。」
「ははは、たまにはいいじゃん。」

彼女は笑いながらさっと隠すように紙を丸めてポケットに入れた。その時、文字列が動いていなかったのをウォーレンは見てしまった。

「じゃあね。」
「えっ、ああうん。」

そのまま彼女は廊下の角を曲がって行った。本当ならば少し彼女に問いただしたかったのだが、できる筈も無かった。


 そのまま数時間が経ち、その日の研修が終了した時、再び彼女が現れた。

「・・・ねぇ叔母さん。」
「だから叔母さんはやめて。」
「なんであの文字列が動かなかったの。」
「・・・ははっ、見られてたのね。お菓子を作ってきたから向こうで食べよう、理由も教えるから。」

ウォーレンは彼女について行き、防音室の扉を通った。
 次の瞬間、部屋は暗転して彼の腕には拘束具が取り付けられた。そして彼女は彼の口に飴玉を放り込んだ。飴玉の味は何の変哲も無いただのブドウ味だった。だがそれが舌に触れた瞬間、彼は今まで感じたことの無かった衝撃に襲われた。

「それは簡単に言うとエッチな気持ちにする飴玉。私のオリジナルよ。そろそろ大きくなるはずだけど。」

直ぐに彼女の言うとおり、股間のものが立ち上がろうとする。10歳の子供にとってはそれが何故そうなるのか理解できなかった。燕尾服のスボンのせいでうまく立てないモノを見つめ、彼女は哀れに思ったのかズボンのチャックを開く。するとソレはバネでも仕込まれていたように跳ね上がり、彼女の鼻にぶつかった。成人男性と比べ小さなものだったが、彼女の性欲は刺激され、ついにはそれを舐めはじめた。時には口に入れながら、彼女はなめ続けた。初めての感覚に彼は圧倒された。奥底から何かが上ってくる感覚。それはついに頂点へと達し、彼女の顔に白く濁った液体をぶちまけた。

「えっ・・・ごめん叔母さん!」

僕は何をしていたのだろう、と彼は正気に戻った。彼女はマクレーンの一族でも歴史に残る美女なのに、その顔を汚してしまったと思った。
そんな彼女は彼を咎めるような事はせず、挑発的な表情で顔についた液体を指ですくい舐める。

「さぁて・・・悪いことをした子には仕置きをしないとね。」

シェリーは後ろの引き出しを漁り、無色透明の液体が入ったボトルを取り出した。

「これはローションって言うの。」

彼女はボトルを彼に見せると、蓋を開けて自分の手にとった。そして彼の臀部、そして排出口に塗り始めたのだ。

「ひっ、叔母さんなんで僕のお尻に塗るの?」
「叔母さんじゃないって言ってるでしょ!」

彼女は彼の肛門に指を入れ始めた。不思議とかいう次元ではなかった。舐められたことさえも彼にとっては受け取りがたいというのに、さらに汚い場所に指を入れられるなんて、夢であっても嫌だった。だがこれで嫌悪が終わるように人生は作られていない。
 次の瞬間、彼の穴に何か棒状のものが挿入された。それは柔らかく、明らかに人工物とは違っていた。それは彼の腰に何度も打ち付けられ、まともな思考をさせないよう妨害しているようであった。人間の尊厳が失われていく瞬間をこの身に感じさせながら、彼は思考を働かせる。そして自分にこの感覚を味合わせているのはなんなのか、と探究心を働かせ後ろを向いた。
 するとそこには必死に腰を打ちつける叔母がいた・・・



 翌日の昼、彼は生まれたままの姿で発見された。発見が早かったため、死んではいなかった。だが、その代わりに心に深く傷を負い、成人女性を見るとヒステリーを起こすようになったのだ。

 現在の彼を作る一つの要因となった事件がこれであり、同時にシェリー・マクレーンが絶海の孤島に浮かぶ監獄『エイド』にいる理由でもある。
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