明日私を、殺してください。~婚約破棄された悪役令嬢を押し付けられました~

西藤島 みや

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第2章

挿話 黒い霧(ある貴族の誤算)

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「なぜ、まだ生きている」

そう言って渡された、三流のゴシップ紙の見出しに私は心底震えた。
「殺せと命じたはず。なぜこんなことに?」
私にとって、それは既に過ぎた事だと思っていた。あの男の息子は、既にこの世のものではない。そうでなくてはならなかった。

はじめは違った。あの男の息子はとても従順で、王室の言うことを全てこなしてみせていた。例えどんなことがあろうと、ウィル殿下に歯向かうようなことは皆無と思われていたのだ。生意気にも近衛騎士になりたいなどと大それたことを口走るほどには。

そうであるならば、今後も王室のために働くであろうし、それが我々にとって最も望ましいことであったからだ。

しかし、王太子妃候補の交代ののち、それは徐々に崩れていった。求められた期待に反し、我々の頼みどころか、ウィル殿下の頼みすら嘲笑うように足蹴にしてみせた。じきに公爵となれると知って、子爵の三男ふぜいが調子にのったのだろう。
このままではウィル殿下の後ろ楯さえ危ぶまれる。我々は、あの男の子供を海の藻屑とすべく、下郎をやとって策を巡らせた。


「それでは今、どこに?」
私は膝をつき、
「海辺の病院と…書かれておりますが」
あの下郎の報告では今頃は海の底か鯱の腹のなかの筈だったのに、と私は拳をにぎった。

我々とて裏切られたのだ。あの下郎、三流の記者の癖に……
「見つけ出して殺せ。娘ももう、役に立たない」
私は縋るようについた膝でにじり寄った。
「しかし、は皇太子殿下の愛妾にしていただけると!」

ガツ、と頭を蹴られて地面へ転がった。
「あの娘が、皇太子のもとへ侍る?」
そのまま頭をつよく踏みつけられ、頭を踏まれた。
「フェリクス大公の息子と懇ろになった女が、皇太子にひれ伏して愛を乞うのか!それは見物だろうな!」
ゲラゲラと下品な笑いが響いた。

「気が変わった、あの男の息子は生かしておけ。シャルロットが皇太子に寵愛を乞うぶざまな姿を見せてから、捕えてなぶり殺してやれ……なに、簡単だ。皇太子の名で娘に宝石でも贈らせよう。あんなに欲しがっていた皇太子の情けをかけられれば、シャルロットはすぐにでも大公の息子を棄てるだろう」

最後に脇を蹴られて、謁見室の外へと衛兵に放り出された。
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