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第4章
ざわめく
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翌朝、シャルロットは朝食に現れなかった。いままでは一緒に食事をとっていたので、ひっかかるものがあってマーカスに尋ねると、早い時間に騎士宿舎の方へ歩いていくのを見たということだった。
「騎士宿舎にいるのは?」
俺が立ち上がると、屋敷の侍従長は少し首を傾げてから
「バレン将軍と、イグニット准将です」
と答えた。なるほど、彼らの資料は、と左手で探って、部屋にカバンを置き忘れたことに気づいた。
シャルロットがいれば持ってきてくれていたのだけれど。
足早に騎士宿舎にむかうと、ガイズとマーカスもついてきていた。
「先に行って旦那様が来ることを伝えて参ります」
駆け出してゆくマーカスに、ガイズが首を傾げた。
「あいつ、なんであんなに焦ってるんだ」
ちょっとの間考えるふりをする。
間違いなく俺に殺すと脅されているからなのだが、ガイズはともかくシャルロットには知られたくない。
「…………さあな」
ガイズは疑わしいモノを見る目で俺をチラリと見下ろしてから、気を付けろと言った。
「お前はもう、ただの悪ガキじゃない。バカな真似はするなよ」
もう恐喝はしたからなあ、と思うものの、へらっと笑っておく。きつく睨み付けられて、肩をすくめた。こいつ、本当に俺の下で働くつもりがあるのか…?
ま、深く考えるのはよそう。今はシャルロットだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
宿舎へ到着し、扉を開けたとたん
「お会いしとうございました!若様!」
ゴリゴリの軍人といった風情の老齢の男が、部屋から飛び出してきた。がっしりと肩を掴まれて前後に揺さぶられる。
「大公子から手を離していただきたい」
その手を、ガイズが掴む。遅い、なんで揺さぶる前に掴んでくれなかったんだよ。
「ああ!こちらが護衛騎士殿ですな!ようよう、おいでなさった!」
俺の肩を揺さぶるのをやめた男は、今度はガイズに抱きついた。うう、とガイズが唸るが、力が強く引き離せない。
そう、さっきもガイズは揺さぶられるのを見て手を掴んだんじゃない、掴めなかったのだ。動きが早く、力も俺たちなんかよりずっと強い……
「バレン将軍、中へはいっていただいてはいかがか?」
部屋の奥から、もうひとりの男が声をかけた。こちらも体格はバレン将軍と同じくらいしっかりしているが、髪は艶やかに梳かしつけられており、服装も騎士らしく整っている。
「これはご無礼もうしあげた!あれは准将のイグニットで、わたしが将軍のバレンでございます」
深々と二人が騎士の礼をとり、部屋へと通された。俺は席につき、胸元から印璽を取り出して見せた。
「先だって、王都の屋敷から正式な証明書が届いております。大公子様、よくぞご無事のご帰還、心からお祝い申し上げます」
准将に言われて、なんとなく照れ臭くなって頬をかいた。
「こちらこそ、主のない城をよく護ってくれた。感謝するよ」
そう言うと、二人は顔を見合わせた。
「しかし、もう私どもしか残っておりませんでの……」
しょんぼりとバレン将軍が言うと、准将はいいえ、と首をふった。
「このとおり、大公子様が若い騎士をお連れになったではありませんか!今は二人でも、再び騎士団を甦らせることはできましょうぞ」
それをきいてガイズは、バレン将軍の片手を掴んだ。
「准将殿のおっしゃるとおりだ!これからは微力ながらこのガイズ、この大公領のため、騎士団と民のために、心血を注ぐ覚悟で参ります!」
おお!とバレン将軍はその手を掴み返した。
なんだこれ、暑苦しい……いや、領民と荒廃しきっていたこの街のためには良いんだろうが、なんか、とにかく、男臭い……。ともかく、と俺は咳払いをしてから、
「今日ここに来たのは、連れの若い女性が来ていたときいたので」
と、切り出した。
若い女性、とバレルは眉をしかめ、
「おお、来ておられました。なんでも大公子さまのお友達とか……なんとおっしゃったかな?」
ふむ、と考えたバレルに、
「マリエッタ・チェルシー様でしょう」
とイグニットが答えた。
バサバサ、と音がして、マーカスが持っていた書類の束を取り落とす。見れば、真っ青になって此方をみていた。
はあ?とガイズが何かいいかけたところで、俺は奴の口をおさえた。
「……そう。ええと、令嬢は今どこに?」
俺にたずねられた2人は顔を見合わせた。
「ああ、なんでしたかな?なんとかいう、若様が命の次に大事にされているという乗り物を取りにゆくとかで。こちらに乗れるものがいないかと訊きにこられましたが、生憎と我々は爺ぃですので乗れませんでしてな。町にゆかれるとのことでしたから、護衛にひとり傭兵を呼ぼうと申しましたら、その、乗り物もあるしご婦人が剣の腕に覚えがあるとかで……」
歯切れの悪い言い方に、首をかしげた。
「それであのう。あのご令嬢は、大公子さまの、そのう……」
バレルが俺とガイズ、マーカスをちらちらと見ては、世話しなく首を掻いている。イグニットが耐えきれないといったように口を挟んだ。
「あの令嬢は大公子さまの愛人であらせられますか?ここには度々、婚約者のゲノーム公爵令嬢がお越しになるのですが、鉢合わせしても問題ないのでしょうか?」
これを聞いて俺はつい、冷笑がこぼれた。つまり偽物のシャルロットは、俺の婚約者としてこの屋敷に堂々と出入りしているということだ。
俺が余程機嫌悪く見えたのか、バレンは
「あ、いや、これは出すぎたことを申しましたな。ご無礼、ひらに……」
とモゴモゴ言った。
別に彼らが悪いわけではないし、ここにいる間になんとか解決しておかなければならない問題だな。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
俺たちは2人の騎士に礼をいって、部屋を出た。
「旦那様」
「ダニエル」
2人は宿舎を出たところでいっぺんに口をひらいた。
俺は2人を振り返る。なんなんだ、急に?
先に話し始めたのはガイズだ。
「あの、なぜここにマリエッタが?」
はあ、とため息がでた。やはり理解してなかったか。
「無論シャルロットの偽名だろう。特に意味はないんじゃないか?咄嗟に出たんだろう」
シャルロットのことだから、マリエッタに多少なりと迷惑をかけてやろうという気持ちもあるかもしれないが。
そうか、と黙ったガイズの横で、マーカスがそわそわと俺たちを見ている。そういえばこいつも何かいいたそうだったな。
「なんだ、言ってみろ」
俺は鷹揚に頷いて見せた。マーカスはおずおずと口をひらいた。
「あの、旦那様は、妻を、マリエッタをご存知なのでしょうか?王都で働く、と出ていったきりなので……娘も恋しがっておりますし、もし連絡先をご存知でしたら……」
俺とガイズは顔を見合わせた。
「誰と、誰が夫婦だって……?」
「騎士宿舎にいるのは?」
俺が立ち上がると、屋敷の侍従長は少し首を傾げてから
「バレン将軍と、イグニット准将です」
と答えた。なるほど、彼らの資料は、と左手で探って、部屋にカバンを置き忘れたことに気づいた。
シャルロットがいれば持ってきてくれていたのだけれど。
足早に騎士宿舎にむかうと、ガイズとマーカスもついてきていた。
「先に行って旦那様が来ることを伝えて参ります」
駆け出してゆくマーカスに、ガイズが首を傾げた。
「あいつ、なんであんなに焦ってるんだ」
ちょっとの間考えるふりをする。
間違いなく俺に殺すと脅されているからなのだが、ガイズはともかくシャルロットには知られたくない。
「…………さあな」
ガイズは疑わしいモノを見る目で俺をチラリと見下ろしてから、気を付けろと言った。
「お前はもう、ただの悪ガキじゃない。バカな真似はするなよ」
もう恐喝はしたからなあ、と思うものの、へらっと笑っておく。きつく睨み付けられて、肩をすくめた。こいつ、本当に俺の下で働くつもりがあるのか…?
ま、深く考えるのはよそう。今はシャルロットだ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
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ゴリゴリの軍人といった風情の老齢の男が、部屋から飛び出してきた。がっしりと肩を掴まれて前後に揺さぶられる。
「大公子から手を離していただきたい」
その手を、ガイズが掴む。遅い、なんで揺さぶる前に掴んでくれなかったんだよ。
「ああ!こちらが護衛騎士殿ですな!ようよう、おいでなさった!」
俺の肩を揺さぶるのをやめた男は、今度はガイズに抱きついた。うう、とガイズが唸るが、力が強く引き離せない。
そう、さっきもガイズは揺さぶられるのを見て手を掴んだんじゃない、掴めなかったのだ。動きが早く、力も俺たちなんかよりずっと強い……
「バレン将軍、中へはいっていただいてはいかがか?」
部屋の奥から、もうひとりの男が声をかけた。こちらも体格はバレン将軍と同じくらいしっかりしているが、髪は艶やかに梳かしつけられており、服装も騎士らしく整っている。
「これはご無礼もうしあげた!あれは准将のイグニットで、わたしが将軍のバレンでございます」
深々と二人が騎士の礼をとり、部屋へと通された。俺は席につき、胸元から印璽を取り出して見せた。
「先だって、王都の屋敷から正式な証明書が届いております。大公子様、よくぞご無事のご帰還、心からお祝い申し上げます」
准将に言われて、なんとなく照れ臭くなって頬をかいた。
「こちらこそ、主のない城をよく護ってくれた。感謝するよ」
そう言うと、二人は顔を見合わせた。
「しかし、もう私どもしか残っておりませんでの……」
しょんぼりとバレン将軍が言うと、准将はいいえ、と首をふった。
「このとおり、大公子様が若い騎士をお連れになったではありませんか!今は二人でも、再び騎士団を甦らせることはできましょうぞ」
それをきいてガイズは、バレン将軍の片手を掴んだ。
「准将殿のおっしゃるとおりだ!これからは微力ながらこのガイズ、この大公領のため、騎士団と民のために、心血を注ぐ覚悟で参ります!」
おお!とバレン将軍はその手を掴み返した。
なんだこれ、暑苦しい……いや、領民と荒廃しきっていたこの街のためには良いんだろうが、なんか、とにかく、男臭い……。ともかく、と俺は咳払いをしてから、
「今日ここに来たのは、連れの若い女性が来ていたときいたので」
と、切り出した。
若い女性、とバレルは眉をしかめ、
「おお、来ておられました。なんでも大公子さまのお友達とか……なんとおっしゃったかな?」
ふむ、と考えたバレルに、
「マリエッタ・チェルシー様でしょう」
とイグニットが答えた。
バサバサ、と音がして、マーカスが持っていた書類の束を取り落とす。見れば、真っ青になって此方をみていた。
はあ?とガイズが何かいいかけたところで、俺は奴の口をおさえた。
「……そう。ええと、令嬢は今どこに?」
俺にたずねられた2人は顔を見合わせた。
「ああ、なんでしたかな?なんとかいう、若様が命の次に大事にされているという乗り物を取りにゆくとかで。こちらに乗れるものがいないかと訊きにこられましたが、生憎と我々は爺ぃですので乗れませんでしてな。町にゆかれるとのことでしたから、護衛にひとり傭兵を呼ぼうと申しましたら、その、乗り物もあるしご婦人が剣の腕に覚えがあるとかで……」
歯切れの悪い言い方に、首をかしげた。
「それであのう。あのご令嬢は、大公子さまの、そのう……」
バレルが俺とガイズ、マーカスをちらちらと見ては、世話しなく首を掻いている。イグニットが耐えきれないといったように口を挟んだ。
「あの令嬢は大公子さまの愛人であらせられますか?ここには度々、婚約者のゲノーム公爵令嬢がお越しになるのですが、鉢合わせしても問題ないのでしょうか?」
これを聞いて俺はつい、冷笑がこぼれた。つまり偽物のシャルロットは、俺の婚約者としてこの屋敷に堂々と出入りしているということだ。
俺が余程機嫌悪く見えたのか、バレンは
「あ、いや、これは出すぎたことを申しましたな。ご無礼、ひらに……」
とモゴモゴ言った。
別に彼らが悪いわけではないし、ここにいる間になんとか解決しておかなければならない問題だな。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
俺たちは2人の騎士に礼をいって、部屋を出た。
「旦那様」
「ダニエル」
2人は宿舎を出たところでいっぺんに口をひらいた。
俺は2人を振り返る。なんなんだ、急に?
先に話し始めたのはガイズだ。
「あの、なぜここにマリエッタが?」
はあ、とため息がでた。やはり理解してなかったか。
「無論シャルロットの偽名だろう。特に意味はないんじゃないか?咄嗟に出たんだろう」
シャルロットのことだから、マリエッタに多少なりと迷惑をかけてやろうという気持ちもあるかもしれないが。
そうか、と黙ったガイズの横で、マーカスがそわそわと俺たちを見ている。そういえばこいつも何かいいたそうだったな。
「なんだ、言ってみろ」
俺は鷹揚に頷いて見せた。マーカスはおずおずと口をひらいた。
「あの、旦那様は、妻を、マリエッタをご存知なのでしょうか?王都で働く、と出ていったきりなので……娘も恋しがっておりますし、もし連絡先をご存知でしたら……」
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