公爵家令嬢と婚約者の憂鬱なる往復書簡

西藤島 みや

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9通目 パルマローザより

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親愛なるグリード様

  まずは先日はバラ茶のお礼も言わずかえってしまいましたこと、お詫びもうしあげます。すばらしいものを頂きまして、母が大変よろこんでおりました。


フロスタの森に参りまして本日で三日目になります。私とダニエル様と、フィーメール伯爵家の双子、私の同伴者になってくださったレヴァンダン子爵夫人はこちらで少しの間滞在して行くことになりました。というのも、放鳥のさいにお兄様と双子の二人が、森の木々に奇妙な痕跡を見つけまして、隣国からの難民が残したものではないかと危惧したからです。

難民ときいて、私はあまりぴんときませんでしたが、隣国では深刻な疫病がおきているそうですね。しかも、隣国は枢機卿が治める教国なだけに祈るばかりでほかに手だてをとっていないと。
隣国にも主権というものがあるし、見守るほかないけれど、もし難民が流入してくれば我が国にも災禍が及ぶときいて心配になりました。

ダニエルと双子の片割れのマルクが様子見にいっているあいだ、私と子爵夫人と双子のもう片方のマルセルは留守番をしておりました。最近私が出掛けた先で、色々と悪いことがおきている気がして、心細くてなりません。


ラウレスお兄様には先に帰っていただけるようお話ししました。皇太子になにかあれば、国の一大事ですものね?それなのに、お兄様がおかしなことをいうのです。

小鳥を助けたのはグリード様で、それを放ちに行くとおっしゃったのはお兄様ですよね?そう私はきいていたのですが、お兄様は私が小鳥を助けたと思ってらっしゃるようなのです。

そして、私に大切な話があるから残りたいと。

ですが子爵夫人とダニエル様にまでも説得され、今朝しぶしぶここを発たれました。夕方には皇宮につくでしょう。グリード様、申し訳ないのですがお兄様に、私にどんなお話があったのか確認していただけませんか?急ぎの用事であれば、また折り返しご連絡ください。


あ、大切な話といえば、ダニエル様とフィーメール伯爵令嬢は来年を待たずに結婚することになったそうです。本来は来年の夏ごろという話だったのに、不思議ですよね?

婚姻承諾書の掲示期間もふた月だけのようですし、理由を訊こうにもダニエル様と双子はにやにやしてばかりで、私に教えてくれないのです。

子爵夫人は、しきりに夏にアレンダンキャッスルで二人がどんなようすだったかを確認したがりますが、私はお邪魔にならないようほとんど別行動をしておりましたから、二人になにがあったか、存じ上げませんと申し上げました。


仲良しのはずのフィーメール令嬢からはなにも聞いていませんし、当の令嬢は今回はご一緒できませんでした。なんだか皆から、ひどく子供扱いされているようで、寂しい気持ちでいっぱいです。


申し訳ありません、手紙だからと気安くつまらない愚痴まで書きました。お忘れください。

それから、ラングスティ伯爵令嬢は本当にあの夜会におじいさまと行かれる予定だったのでしょうか?ラングスティ令嬢ご本人に確認していただけませんか?私の聞いたことが間違いであればいいのですが。
   
                          パルマローザ
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