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【60】地下通路へ
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フォルトナ共和国には、無数の地下通路が存在する。
この地下通路の全容を把握している者は、恐らく片手の指にも満たないだろう。
入り組み過ぎて覚えるのは困難だ。
それはまるでダンジョンのようで、実際に魔物が巣食っている場所もちらほらとある。そのうちの一つが、根鼠というわけだ。
「えっ、この依頼主って貴族だったの?」
意外なことに、今回ギルドに根鼠駆除の依頼をしたのは貴族だった。
理由は単純で、自分の屋敷近くの地下通路をよく利用しているらしく、そこで根鼠を一匹見つけたとのこと。
一匹いると、その周辺には数十匹から百匹を超える根鼠が潜んでいると言われている。
だから駆除を依頼した。
フォルトナでは定期的に議会が開かれていて、そこで根鼠駆除を提案し、国先導で行うこともできる。ただ、その貴族は我慢ができなかったらしい。
たとえ自腹になったとしても、早期解決を望んだということだ。
「……ふむ」
で、今回の依頼主との顔合わせをする。
根鼠駆除を依頼したのは、ボードル・クルトーン子爵。白髪交じりの頭に、真っ白な髭をたっぷりと蓄えた御老人だった。
ボードル子爵はわたしの次にロックの姿を瞳に映し、それから視線を下げていく。
そして一言、
「……その足で、大丈夫かね?」
と告げる。
その疑問はもっともと言えるだろう。
ロックの実力を知らないのだから、ある意味当然だ。
「ボードル様、ご安心ください。根鼠の駆除程度でしたら、何ら問題ございません」
すかさず、わたしが横から口を挟む。
こんなことを言っては失礼かもしれないけど、ロックは口が悪い。だからわたしが交渉役になった方がスムーズに進むはずだ。
「なるほど、それならばよいのだが……む?」
と言いつつ、ボードル子爵はわたしへと視線を移す。
丁度そのときだった。
「……きみ、名は何と言うのかね?」
目に埃が入ってしまい、わたしは眼鏡を取って目を擦っていた。
そしてボードル子爵と目を合わせてしまった。
「え? わたしでしょうか? ……メル・メロールと申します」
「メル・メロールか……ふむ。良き名だ。素晴らしい。エクセレント」
「は……はぁ」
急に褒められて、何事かと思ったけど、すぐに理解した。
外で眼鏡を外すものではないなと、わたしは頭の中で反省する。
「ところできみは、彼の付き添いかね? もしよければだが、私の家でお茶でも如何かな?」
「い、いえ、わたしも冒険者ですので……」
「なんと! きみのような美しい女性が冒険者だと? ……ううむ、それはいかん。いかんな。冒険者とは危険な職業だ。今すぐにでも辞めなさい。お金が必要だというのならば私が出そう。幾らだ? 幾ら必要なのだね? 言いなさい、私がきみの望みを全て叶えてあげようじゃないか」
「あの、わたしは冒険者になりたくてなったので……」
こんなにグイグイ来られても苦笑いするしかない。
さすがに依頼主相手に逃げ出すことはできないし、やんわりとお断りした。
「ふむう、それは残念だ……しかしこれで私ときみたちには縁ができたわけだからな、今後も何かあれば指名依頼をさせてもらおう」
「指名依頼……ですか?」
「私からギルドにお願いし、直接きみに依頼を受注してもらうのだ。これできみは今後依頼に困らなくなるぞ」
パトロンのようなものだろうかと思ったけど、お金を出してもらうわけではない。依頼はしっかりとこなす必要があるので、それはそれで有りかもしれない。
それこそ朝一番の依頼書争奪戦を無視し、依頼を受注できるから、新米冒険者が安心して経験を積むことができるだろう。まあ、問題は依頼内容だけれども……。
「ボードル様の御厚意、心より感謝いたします」
「うむ! それでは、根鼠の駆除作業、期待しておこうかね!」
ボードル子爵はわたしと熱い握手を交わし、屋敷の中へと引っ込んでいく。
その背を見送ったあと、わたしは思いっきりため息を吐いた。
「『溺愛』されるのも大変だな」
「そう思うなら助けなさいよね……」
「眼鏡を外さなければ済む話だ」
それはそうだけど、と頬を膨らませる。
ロックは根鼠駆除の下準備を始めている。わたしもそれを手伝うことにした。
この地下通路の全容を把握している者は、恐らく片手の指にも満たないだろう。
入り組み過ぎて覚えるのは困難だ。
それはまるでダンジョンのようで、実際に魔物が巣食っている場所もちらほらとある。そのうちの一つが、根鼠というわけだ。
「えっ、この依頼主って貴族だったの?」
意外なことに、今回ギルドに根鼠駆除の依頼をしたのは貴族だった。
理由は単純で、自分の屋敷近くの地下通路をよく利用しているらしく、そこで根鼠を一匹見つけたとのこと。
一匹いると、その周辺には数十匹から百匹を超える根鼠が潜んでいると言われている。
だから駆除を依頼した。
フォルトナでは定期的に議会が開かれていて、そこで根鼠駆除を提案し、国先導で行うこともできる。ただ、その貴族は我慢ができなかったらしい。
たとえ自腹になったとしても、早期解決を望んだということだ。
「……ふむ」
で、今回の依頼主との顔合わせをする。
根鼠駆除を依頼したのは、ボードル・クルトーン子爵。白髪交じりの頭に、真っ白な髭をたっぷりと蓄えた御老人だった。
ボードル子爵はわたしの次にロックの姿を瞳に映し、それから視線を下げていく。
そして一言、
「……その足で、大丈夫かね?」
と告げる。
その疑問はもっともと言えるだろう。
ロックの実力を知らないのだから、ある意味当然だ。
「ボードル様、ご安心ください。根鼠の駆除程度でしたら、何ら問題ございません」
すかさず、わたしが横から口を挟む。
こんなことを言っては失礼かもしれないけど、ロックは口が悪い。だからわたしが交渉役になった方がスムーズに進むはずだ。
「なるほど、それならばよいのだが……む?」
と言いつつ、ボードル子爵はわたしへと視線を移す。
丁度そのときだった。
「……きみ、名は何と言うのかね?」
目に埃が入ってしまい、わたしは眼鏡を取って目を擦っていた。
そしてボードル子爵と目を合わせてしまった。
「え? わたしでしょうか? ……メル・メロールと申します」
「メル・メロールか……ふむ。良き名だ。素晴らしい。エクセレント」
「は……はぁ」
急に褒められて、何事かと思ったけど、すぐに理解した。
外で眼鏡を外すものではないなと、わたしは頭の中で反省する。
「ところできみは、彼の付き添いかね? もしよければだが、私の家でお茶でも如何かな?」
「い、いえ、わたしも冒険者ですので……」
「なんと! きみのような美しい女性が冒険者だと? ……ううむ、それはいかん。いかんな。冒険者とは危険な職業だ。今すぐにでも辞めなさい。お金が必要だというのならば私が出そう。幾らだ? 幾ら必要なのだね? 言いなさい、私がきみの望みを全て叶えてあげようじゃないか」
「あの、わたしは冒険者になりたくてなったので……」
こんなにグイグイ来られても苦笑いするしかない。
さすがに依頼主相手に逃げ出すことはできないし、やんわりとお断りした。
「ふむう、それは残念だ……しかしこれで私ときみたちには縁ができたわけだからな、今後も何かあれば指名依頼をさせてもらおう」
「指名依頼……ですか?」
「私からギルドにお願いし、直接きみに依頼を受注してもらうのだ。これできみは今後依頼に困らなくなるぞ」
パトロンのようなものだろうかと思ったけど、お金を出してもらうわけではない。依頼はしっかりとこなす必要があるので、それはそれで有りかもしれない。
それこそ朝一番の依頼書争奪戦を無視し、依頼を受注できるから、新米冒険者が安心して経験を積むことができるだろう。まあ、問題は依頼内容だけれども……。
「ボードル様の御厚意、心より感謝いたします」
「うむ! それでは、根鼠の駆除作業、期待しておこうかね!」
ボードル子爵はわたしと熱い握手を交わし、屋敷の中へと引っ込んでいく。
その背を見送ったあと、わたしは思いっきりため息を吐いた。
「『溺愛』されるのも大変だな」
「そう思うなら助けなさいよね……」
「眼鏡を外さなければ済む話だ」
それはそうだけど、と頬を膨らませる。
ロックは根鼠駆除の下準備を始めている。わたしもそれを手伝うことにした。
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