【完結】何故ですか? 彼にだけ『溺愛』スキルが効きません!

ひじり

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【61】手にはフライパン

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「これが地下通路……思っていたよりも明るいのね」

 地下通路に足を踏み入れる。
 もっと薄暗いと思っていたけど、光を発する魔道具が等間隔で設置されているおかげで、不便することはなさそうだった。

「そういえば王都にはなかったな」
「ええ。だからこの手の場所は初めてよ」

 城下町を散策することはあったけど、地下街は存在しなかった。
 けれどもフォルトナ共和国には無数の地下通路が存在し、その中にはお店を出しているところもあるらしいので驚きだ。

「行くぞ。転ぶなよ」
「心配しすぎよ」

 と言いつつも、初めての地下通路なので慎重に歩を進める。
 足元を見ながら階段を下りていく。それから今度は通路をゆっくりと歩いていく。すると、壁に変な塊があるのを見つけた。
 どうやらロックよりも先にわたしの目に留まってしまったようだ。

「ねえ、ロック」
「……早速だな」

 変な塊だと思っていたのは、駆除対象の根鼠だった。
 一匹、壁に張り付いていたのだ。

「凄いわ、壁に張り付くなんて……」
「これが根鼠の特徴だからな」

 話には聞いていたけど、まさか本当に所かまわず根を張ってしまうとは思わなかった。

「見て、こんなに近づいても逃げないわ」

 恐る恐る傍まで近づいてみるけど、壁に張り付いた根鼠は全く動く気配を見せない。
 眠っているわけではなく、けれども壁に根を張った状態なので逃げ出すことができないのだろう。

「あっ」

 ロックは、躊躇なく根鼠を手掴みして引っ張る。
 壁に張り付いていた根を力技で引き千切ると、地面に落として……踏み潰した。

「ひいっ」

 思わず目を背ける。

「この程度で驚くな」
「だ、だって……幾らなんでも残酷すぎるわ!」
「こいつらは魔物だぞ。放置するわけにはいかない」
「そ、そうだけど……やり方をもう少し変えることはできないの?」

 やり方とは、根鼠の駆除方法だ。
 ロックは手掴みで根鼠を捕獲し、そのまま踏み潰した。そのやり方を実践しろと言われても、二の足を踏んでしまうだろう。

「数が少なければ、このやり方が一番、効率がいい。魔石も一匹ずつ確実に回収できるからな」
「わたしとしては、絶対に真似したくないやり方ね……」

 踏み潰された根鼠の体から、ロックが魔石を回収する。
 その様子を見ながら、わたしはため息を吐いた。

「戯言は時間の無駄だ。……ほら、そこにもいるぞ」
「え? ……あっ」

 ロックに言われて振り向くと、根鼠をもう一匹発見した。こちらも壁に張り付いている。

「……やるしかないのよね」

 冒険者として生きていくためには、これも必要なことなのだ。
 やるか、やられるかだ。わたしは自分に言い聞かせる。

「よ、ようし……!」

 身構える。
 わたしが手に持っているのはフライパンだ。剣や杖を使うにはまだ早いとロックに言われて、それなら何を持っていけばいいのか訊ねたところ、これを渡された。

 ひょっとして、わたしを馬鹿にしているのではないかと勘繰ったけど、地下通路に入って根鼠を前にしてみると、よく分かる。
 フライパンは、根鼠の駆除には案外合っている。

「これも冒険者として生きていくためよ……! えいっ!」

 後には引かない。
 わたしは思い切りフライパンを振り抜いた。

 すると、壁に引っ付いていた根鼠は逃げることなくフライパンの直撃に遭い、潰れてしまった。

「うぅ、嫌な感触……っ」

 フライパンで壁を殴ったことで、手が痺れる。
 しかもそれだけではない。根鼠の潰れた感触が手に伝わっていた。

「まだ終わってないぞ」
「……わ、分かっているわ」

 床に落ちた根鼠の死骸に目を向ける。
 そこから魔石を回収しなければならない。

「……すぐに洗浄魔法をかけてね」
「全部駆除したあとでな」
「っ」

 まだ一匹なのに、全部終わるまでこのまま……。
 ため息が止まらない。

「精々、吐かないように気をしっかり持つんだな」
「心配してくれるなら、次からはこの依頼を受けないようにしてちょうだい」
「もっと良い依頼があれば考える」

 駆除は始まったばかりだ。
 げんなりした表情のわたしを一瞥したあと、ロックは次なる獲物を探して周囲に目を光らせるのだった。
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