26 / 50
連載
【89】
しおりを挟む
露店の店主から西の国の歴史本を譲ってもらったあと、ナーナルとエレンは仕事をこなしつつ、同時に本を置いていないだろうかと探し回った。
その結果、いくつか本を売るお店を見つけることができたが、店主の言葉通り価格が高く、とても手を出そうとは思えない。
エレンに頼めば喜んで買ってくれるだろうが、安くなるまでの辛抱だ、とナーナルは自分に言い聞かせることにした。
やがて今日の分のノルマを片付け、二人は夕食の買い物をすることに。
招待祭は終わったが、街の活気は変わらない。商売人はもちろんのこと、皇都に住む人たちの表情は明るく、生き生きしているように見えた。
「わたしたちも、この中に加わる……いえ、加わったのよね」
もう、ナーナルは立派なローマリア国民だ。
ルベニカ商会の善意で住む家を用意してもらった。ロニカからは貸本喫茶を開くための土地をプレゼントされた。街を歩けば誰もが気軽に声をかけてくれる。
王都にいた頃とは比べものにならない。
ナーナルは、ここでの暮らしが楽しくてたまらなかった。
だからこそ、みんなに恩返しをしなくてはならない。
当然のことながら、この国の人たちはナーナルがカロック商会と対決した件や、その後処理で奔走している姿を知っている。
ナーナルに対して何かしてあげたいと思う人が多く、先ほどの店主もそのうちの一人だ。
しかし、ナーナル的にはもらってばかりだと感じていた。
「わたしにできることと言ったら、理想の喫茶店を開いてみんなが心安らげる場所を提供することぐらいかしら」
ナーナルが充分すぎるほど頑張っている姿をすぐ傍で見ているから、エレンは否定することもできた。
だが、それでは歩みが止まってしまうかもしれない。
せっかくナーナルが夢に向かって前に進んでいるのだから、それを応援するのが元執事の役目だと考える。
「理想の喫茶店か……それなら今日のご飯はナーナルに作ってもらうとするか」
「ふうん、言ったわね? 後悔しても遅いわよ」
失敗しても文句を言わせない口調でナーナルが返事をするが、エレンは口角を上げる。
「言っただろ、ナーナルが作ったものなら喜んで食べるって」
「だからそれは反則だって言っているでしょう? ……まあ、できるだけ頑張って美味しくなるようには作ってみるけど」
目玉焼きから始まった料理の勉強は、今も続いている。
いつもはエレンと協力して作るが、今日は一人で作ってみよう、そして心から美味しいと言ってもらえるような料理を作ってみせよう、とナーナルは頷く。
理想の喫茶店を開くには、もっと勉強が必要だ。
お店に置く本を厳選して集めなければならないし、紅茶と珈琲にも詳しくなっておきたい。
他にもするべきことは山のようにある。のんびりしている暇はない。
「今日のご飯、期待していなさい。腕によりをかけて作ってあげるから」
「それは役得だな」
ナーナルは繋いでいた手をにぎにぎする。
すると、エレンは嬉しそうに口元を緩めた。だが、
※
「あ……やっちゃったわ」
買い物から暫く。
早速料理を始めたナーナルの瞳には、黒焦げの肉のかたまりが映っているのであった。
その結果、いくつか本を売るお店を見つけることができたが、店主の言葉通り価格が高く、とても手を出そうとは思えない。
エレンに頼めば喜んで買ってくれるだろうが、安くなるまでの辛抱だ、とナーナルは自分に言い聞かせることにした。
やがて今日の分のノルマを片付け、二人は夕食の買い物をすることに。
招待祭は終わったが、街の活気は変わらない。商売人はもちろんのこと、皇都に住む人たちの表情は明るく、生き生きしているように見えた。
「わたしたちも、この中に加わる……いえ、加わったのよね」
もう、ナーナルは立派なローマリア国民だ。
ルベニカ商会の善意で住む家を用意してもらった。ロニカからは貸本喫茶を開くための土地をプレゼントされた。街を歩けば誰もが気軽に声をかけてくれる。
王都にいた頃とは比べものにならない。
ナーナルは、ここでの暮らしが楽しくてたまらなかった。
だからこそ、みんなに恩返しをしなくてはならない。
当然のことながら、この国の人たちはナーナルがカロック商会と対決した件や、その後処理で奔走している姿を知っている。
ナーナルに対して何かしてあげたいと思う人が多く、先ほどの店主もそのうちの一人だ。
しかし、ナーナル的にはもらってばかりだと感じていた。
「わたしにできることと言ったら、理想の喫茶店を開いてみんなが心安らげる場所を提供することぐらいかしら」
ナーナルが充分すぎるほど頑張っている姿をすぐ傍で見ているから、エレンは否定することもできた。
だが、それでは歩みが止まってしまうかもしれない。
せっかくナーナルが夢に向かって前に進んでいるのだから、それを応援するのが元執事の役目だと考える。
「理想の喫茶店か……それなら今日のご飯はナーナルに作ってもらうとするか」
「ふうん、言ったわね? 後悔しても遅いわよ」
失敗しても文句を言わせない口調でナーナルが返事をするが、エレンは口角を上げる。
「言っただろ、ナーナルが作ったものなら喜んで食べるって」
「だからそれは反則だって言っているでしょう? ……まあ、できるだけ頑張って美味しくなるようには作ってみるけど」
目玉焼きから始まった料理の勉強は、今も続いている。
いつもはエレンと協力して作るが、今日は一人で作ってみよう、そして心から美味しいと言ってもらえるような料理を作ってみせよう、とナーナルは頷く。
理想の喫茶店を開くには、もっと勉強が必要だ。
お店に置く本を厳選して集めなければならないし、紅茶と珈琲にも詳しくなっておきたい。
他にもするべきことは山のようにある。のんびりしている暇はない。
「今日のご飯、期待していなさい。腕によりをかけて作ってあげるから」
「それは役得だな」
ナーナルは繋いでいた手をにぎにぎする。
すると、エレンは嬉しそうに口元を緩めた。だが、
※
「あ……やっちゃったわ」
買い物から暫く。
早速料理を始めたナーナルの瞳には、黒焦げの肉のかたまりが映っているのであった。
13
あなたにおすすめの小説
夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。
古森真朝
ファンタジー
「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。
俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」
新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは――
※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。
「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。
パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、
クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。
「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。
完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、
“何も持たずに”去ったその先にあったものとは。
これは誰かのために生きることをやめ、
「私自身の幸せ」を選びなおした、
ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」
王家も我が家を馬鹿にしてますわよね
章槻雅希
ファンタジー
よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。
『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。