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同級生
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同じ学年にカッコイイ男子がいた。背が高く、イケメンで、スポーツが得意で、勉強もできて、笑顔が爽やかで。
名前は創希。
創希とあたしとは同じクラスになったことはない。でも、注目される存在なので知ってはいた。多少の興味はあったけれども、ただそれだけ。
三年生になった直後、あたしは創希に好きだと告白された。
でも、あたしは断った。
創希には多くのファンがいて、お互いに牽制し合っており、その輪のなかに巻き込まれたくなかったから。
それに、このときは気付いていなかったけれども、母の黒い影がちらついて異性と距離を置きたいと、暗に思っていたから。母の黒い影とは、母が反面教師であることだった。
あたしには女子の友達がいれば充分だ。しかし、
「俺はいつでも好きだから」と、創希は言った。
それを何人かの女子が聞いていた。ドラマティックに響いたのかもしれない。
「何かのヒロイン気取り?」
いままで口もきいたことない女子に言われた。
最初、何のことか分からなかった。けれども、すぐに創希のことだと悟った。
「何の……」
こう言うしかなかった。
「自分のこと、綺麗だなんて勘違いしてない? ブスのくせに」
おかっぱ頭に平べったい頬。その四角い平面に配置されたスイカの種のような目が、射貫くようにあたしを睨み付けていた。
その横にいる二人の女子たちも、あたしを睨んでいた。
「あたしは……」
それきり、三対一で向かい合ったまま、廊下の真んなかで沈黙が流れた。
始業のチャイムでも鳴ってくれれば、それをきっかけに教室に戻ることができるかもしれない。けれども、昼休みで、時間はまだあった。
周囲は騒がしく、それぞれが話に夢中だった。庭球を投げ合っている男子もいた。あたしの状況を気にする生徒などいない。
しかたなしに、あたしは彼女たちの名札のうえに視線を送った。
おかっぱ頭の名札には『大谷』と書かれていた。残り二人の名前は記憶に残らなかった。一人は『白岩』だったかもしれない。
しばらくして、脇にいた女子が、急に何かに気付いたように大谷の袖を引っ張った。
促された大谷の小さな目は、あたしの背後に向けられた。その目は何かに焦点が合い、その途端、表情が変わった。
「えー、うそーっ」
大谷は、突然大きな声をあげた。驚いたような顔のなかに、あたしに向けて親しげな表情も作っていた。
あたしは彼女たちがいま何かの会話を交わしたのかと思った。しかし、記憶を再生してみても、脇の女子が袖を引っ張っただけで、言葉は発せられていないはずだった。
大谷は、あたしを見ながら、不自然に大きな声で続けた。
「北田君が好みなの? そーなんだー、意外だねー」
大谷は、とにかくあたしから目を離さない。
「え? どういう……」
あたしは困惑するだけだった。
「私、応援する。相沢さんと北田君がうまくいくように」
こう言いながら、大谷はあたしの腕を掌で軽く打って、さすった。
大谷の言う「北田君」とは、色白で小太りの背の低い男子だった。老けた顔をしていて、天然パーマ。無口で大人しい性格のせいか、よく揶揄われていた。『大仏』と渾名するクラスメイトもいた。
あたしは北田と去年同じクラスだったけれども、ほとんど話したことがない。なぜ大谷が北田の名前を持ち出すのか、さっぱり分からなかった。正直なところ、大谷は気でも狂ったのではないかと思った。
不意に、あたしの横を大きな影が通った。後から来たその影は、あたしの視界にすっぽり入った。創希だった。
なるほど、と、あたしは創希を見て、大谷が何をしたかったのか、合点がいった。
「え? 北田君? あたし話したこともないよ。北田君のことを好きなのは大谷さんじゃん。北田君に合わせて丸くなりたいって、めちゃくちゃ食べてるって聞いたよ」
あたしは、こう叫んでやろうかと思った。でも、そんな勇気はなかった。
あたしはその場を離れることにした。いまだったら、すんなりとそれができる。創希の前で、大谷も滅多な真似はできないだろう。大谷が無理を通せば、あたしは創希の前で大袈裟に被害者を演じることもできる。その機会に気付かない大谷ではないはずだ。
あたしは大谷の脇を通った。大谷は、一瞬、そうさせまいとした。それでも、あたしはやや強引に擦り抜けた。
創希の横を通った。
「相沢……」
創希はあたしに声をかけたけれども、あたしは聞こえないふりをして、そのまま素通りした。あたしの歩くのに合わせて、追うように、創希の顔がゆっくりと動くのが分かった。
大谷がしたようなことは、教室でも起こった。
あたしが女子の輪に近付くと、彼女たちは即座に会話を中断した。そして、「ほら、来ちゃったよ」と言わんばかりに顔を見合わせ、立ち去るのだった。
ときに話しかけてみると、
「空気読めよ」
「面倒なことさせないでくれる」
こういった不満の表情を、彼女たちはあからさまに浮かべた。
なかには、わざとらしくため息を吐く子もいた。
あたしは仲のよかった子を引っ張ってみた。
「ごめんね。怜佳と話できないから」
彼女は困惑した顔で、こう言った。
あたしは独りになった
名前は創希。
創希とあたしとは同じクラスになったことはない。でも、注目される存在なので知ってはいた。多少の興味はあったけれども、ただそれだけ。
三年生になった直後、あたしは創希に好きだと告白された。
でも、あたしは断った。
創希には多くのファンがいて、お互いに牽制し合っており、その輪のなかに巻き込まれたくなかったから。
それに、このときは気付いていなかったけれども、母の黒い影がちらついて異性と距離を置きたいと、暗に思っていたから。母の黒い影とは、母が反面教師であることだった。
あたしには女子の友達がいれば充分だ。しかし、
「俺はいつでも好きだから」と、創希は言った。
それを何人かの女子が聞いていた。ドラマティックに響いたのかもしれない。
「何かのヒロイン気取り?」
いままで口もきいたことない女子に言われた。
最初、何のことか分からなかった。けれども、すぐに創希のことだと悟った。
「何の……」
こう言うしかなかった。
「自分のこと、綺麗だなんて勘違いしてない? ブスのくせに」
おかっぱ頭に平べったい頬。その四角い平面に配置されたスイカの種のような目が、射貫くようにあたしを睨み付けていた。
その横にいる二人の女子たちも、あたしを睨んでいた。
「あたしは……」
それきり、三対一で向かい合ったまま、廊下の真んなかで沈黙が流れた。
始業のチャイムでも鳴ってくれれば、それをきっかけに教室に戻ることができるかもしれない。けれども、昼休みで、時間はまだあった。
周囲は騒がしく、それぞれが話に夢中だった。庭球を投げ合っている男子もいた。あたしの状況を気にする生徒などいない。
しかたなしに、あたしは彼女たちの名札のうえに視線を送った。
おかっぱ頭の名札には『大谷』と書かれていた。残り二人の名前は記憶に残らなかった。一人は『白岩』だったかもしれない。
しばらくして、脇にいた女子が、急に何かに気付いたように大谷の袖を引っ張った。
促された大谷の小さな目は、あたしの背後に向けられた。その目は何かに焦点が合い、その途端、表情が変わった。
「えー、うそーっ」
大谷は、突然大きな声をあげた。驚いたような顔のなかに、あたしに向けて親しげな表情も作っていた。
あたしは彼女たちがいま何かの会話を交わしたのかと思った。しかし、記憶を再生してみても、脇の女子が袖を引っ張っただけで、言葉は発せられていないはずだった。
大谷は、あたしを見ながら、不自然に大きな声で続けた。
「北田君が好みなの? そーなんだー、意外だねー」
大谷は、とにかくあたしから目を離さない。
「え? どういう……」
あたしは困惑するだけだった。
「私、応援する。相沢さんと北田君がうまくいくように」
こう言いながら、大谷はあたしの腕を掌で軽く打って、さすった。
大谷の言う「北田君」とは、色白で小太りの背の低い男子だった。老けた顔をしていて、天然パーマ。無口で大人しい性格のせいか、よく揶揄われていた。『大仏』と渾名するクラスメイトもいた。
あたしは北田と去年同じクラスだったけれども、ほとんど話したことがない。なぜ大谷が北田の名前を持ち出すのか、さっぱり分からなかった。正直なところ、大谷は気でも狂ったのではないかと思った。
不意に、あたしの横を大きな影が通った。後から来たその影は、あたしの視界にすっぽり入った。創希だった。
なるほど、と、あたしは創希を見て、大谷が何をしたかったのか、合点がいった。
「え? 北田君? あたし話したこともないよ。北田君のことを好きなのは大谷さんじゃん。北田君に合わせて丸くなりたいって、めちゃくちゃ食べてるって聞いたよ」
あたしは、こう叫んでやろうかと思った。でも、そんな勇気はなかった。
あたしはその場を離れることにした。いまだったら、すんなりとそれができる。創希の前で、大谷も滅多な真似はできないだろう。大谷が無理を通せば、あたしは創希の前で大袈裟に被害者を演じることもできる。その機会に気付かない大谷ではないはずだ。
あたしは大谷の脇を通った。大谷は、一瞬、そうさせまいとした。それでも、あたしはやや強引に擦り抜けた。
創希の横を通った。
「相沢……」
創希はあたしに声をかけたけれども、あたしは聞こえないふりをして、そのまま素通りした。あたしの歩くのに合わせて、追うように、創希の顔がゆっくりと動くのが分かった。
大谷がしたようなことは、教室でも起こった。
あたしが女子の輪に近付くと、彼女たちは即座に会話を中断した。そして、「ほら、来ちゃったよ」と言わんばかりに顔を見合わせ、立ち去るのだった。
ときに話しかけてみると、
「空気読めよ」
「面倒なことさせないでくれる」
こういった不満の表情を、彼女たちはあからさまに浮かべた。
なかには、わざとらしくため息を吐く子もいた。
あたしは仲のよかった子を引っ張ってみた。
「ごめんね。怜佳と話できないから」
彼女は困惑した顔で、こう言った。
あたしは独りになった
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