不忘探偵2 〜死神〜

あらんすみし

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顔を失くした女

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政臣は、探偵と小川に付き添われて警察署に向かった。
その車中、政臣はずっと落ち着かず、体は小刻みに震え呼吸も乱れていた。
誰も口を開かなかった。沈黙だけが3人を支配していた。
警察署に車が滑り込むと、政臣が真っ先に車から飛び降りた。そして、建物に駆け込んだ政臣を追うように、探偵と小川も建物の中に飛び込んだ。
政臣は、すぐに事情聴取のために取調室に通された。
浜村一の件も含めて、これから長い取り調べになるだろうと小川は思った。
「こういう時、警察であっても何もできないのは辛いな」
小川は無力感に苛まれてポツリと呟いた。
そこへ、探偵と小川の所へ鑑識の馬宮がやって来た。
「こっちへ」
馬宮はそっと囁いて、探偵と小川をカビ臭い会議室へ連れ込んだ。
「今の段階でわかっている資料を持って来てやったぞ」
馬宮が入口の方を警戒しながら小声で囁く。
「すまない、いつもこんな役目を押しつけてしまって」
「いいんだ、こんなことしか出来ないし、探偵さんにもいつもお世話になっているしな」
馬宮は人懐っこい笑みを浮かべて笑っている。馬宮には、いつもこうしてフォローしてもらって、事件の解決に貢献してもらっている。お世話になっているのはこっちの方かもしれないな、と探偵は思った。
事件の概要はおおまかに次のとおりだった。
事件の発生は、昨日の夜だった。
被害者である牧野ユミの検死の結果から分かったのは、死亡推定時刻は昨夜の20:30から21:00の間。
隣人の証言では、その時間に牧野ユミの部屋から、普段の生活音とは違う物音が数分聞こえて来たとのことで、かなり犯行時間は絞られているようだった。
死因は、頭部を殴打されたことによる外傷性ショック死。全身をめった打ちされていて複数の骨折が確認でき、特に牧野ユミの顔は、何度も繰り返し殴打されたことで、完全に顔を潰されて原型を留めていないとの報告だった。
狂気に使われたのは、現場に落ちていたワインの瓶。
第一発見者は、マンションの管理会社の職員で、今朝、牧野ユミの部屋のドアが僅かに開いていたままになっていたことで不審に思い、発見したとのことだった。
部屋の中はかなり物色されて荒らされていて、強盗事件と当初は思われていたものの、金目のものはあまり手をつけられておらず、そのまま残されていたことから、強盗に見せかけた殺人事件との見方が強まっている、とのことだった。
「たしかに、この現場写真を見る限り、高級なブランド物や貴金属はほとんど手付かずだな」
ひととおり写真を眺めた小川は呟いた。
「しかも、かなりのハイブランドばかりだぞ。エルメスのバーキンや、ダイヤやルビーなんかの貴金属も手付かずだ。それにしても、ただのOLがどうしてこんなに高級品ばかり持っているのだろうな?」
馬宮は不思議そうにしている。
「携帯電話は見つかったか?」
探偵が沈黙を破って馬宮に尋ねる。
「いえ、現場から携帯電話は発見されてないです。恐らく、犯人が持ち去ったと思われます」
「ということは、犯人は顔見知りの可能性もあるな。位置情報は?」
「電源が切られているせいか、追跡はできませんでした」
「どう思う?また政臣の知人が死んだわけだが、これは一連の案件と関係あると思うか?」
小川が探偵に助言を求める。
「恐らく、関連性は高いだろう。特に、浜村の死亡の件とはかなり関連性が疑われるな」
「浜村の件では、政臣のアリバイも崩れているし、かなり状況は悪いな。こうなったら、問題は昨夜の犯行時間の政臣のアリバイしだいか。まだ取調中だし、これ以上今は何もできないか」
と、その時、捜査本部の方で何かあったらしく、騒然としていた。
「何だ?何の騒ぎだ?」
小川と馬宮は、会議室に探偵を残して捜査本部の方へ向かった。
その近くで騒ぎを起こしているのは、松尾和利だった。
「離せ!私は責任者に用があるんだ!責任者に会わせろ!」
松尾はかなり取り乱していて、松尾の秘書の五木と警察官が4人がかりでどうにか抑えているほどだった。
「松尾さん!どうしたんですか!?」
見かねた小川が松尾に駆け寄り声をかける。
「あっ、この間の刑事さん!何とかしてください、責任者に会わせてください!政臣君はあんな女を殺すわけないじゃないですか!」
どうやら松尾も任意同行でやって来て、その際に政臣が事情聴取中だと知って取り乱しているらしかった。
「大丈夫です、松尾さん!政臣もただ任意で事情を聞かれているだけです、落ち着いて下さい!」
小川がたしなめて、ようやく松尾は落ち着いた。激しく抵抗したせいか、かなり息を乱している。
「それならいいのですが、もし政臣君が冤罪で投獄でもされたら私は・・・どうしたらいいのか」
さっきまでの力は失せ、松尾はその場に腰から崩れ落ちた。
「松尾さん、今はまだ強盗なのか怨恨なのかも分かっていません。ひととおり関係者から事情を聞いているだけです。ところで、松尾さんも呼ばれたのですか?松尾さんも、牧野ユミさんのお知り合いだったんですか?」
「えぇ、まぁ、政臣君を介しての知り合いというか、紹介されまして、かれこれ1年ちょっとの知り合いです」
「そうでしたか。それでは、私も立ち合わさせてもらいますので、牧野ユミさんの件で松尾さんからもお話を伺わせてもらえないでしょうか?」
「わかりました、政臣君の容疑が晴れるなら、どんな犠牲も厭いません」
松尾は大人しく小川の後に続いて取調室へ案内された。



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