不忘探偵2 〜死神〜

あらんすみし

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田中政臣の証言

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政臣の事情聴取はまだ終わっていなかったため、探偵は警察署で小川と別れ、1人で自らの事務所に戻って帰った。
小川は、政臣が出てくるまでにこれまでの経過を検証してみることとした。まず、これまでにわかったことを整理しよう。
浜村一の死亡推定時刻と思われる時間の、政臣のアリバイは、九十九要の目撃証言によって崩れた。しかも、政臣の話しによれば、その時刻に政臣は浜村の住んでいるマンションまで行っている。
これは一連の流れで唯一かつ初めての出来事だ。
これにより、浜村の一件に関しては政臣が浜村の死に関わった可能性が濃厚になった。
これまでの事例でも、調べによっては政臣のアリバイが崩れる可能性も無きにしも有らずだが、それを証明するのは至難の業だろう。
牧野ユミが殺害されたのは、これまでの一連の政臣の周辺で起きている不審死とは無関係なのだろうか?
これまでは事故や自殺など多岐にわたっているが、牧野ユミの場合は明確な殺人だ。行きずりの強盗殺人に見せかけてはあるが、明らかに強い恨みを持った人物の怨恨による犯行だろう。
そんな恨みを持つであろう犯人の動機は、九十九の言っていた「愛」が何かわかれば。
ところで、牧野ユミの死亡推定時刻の政臣のアリバイをまだ確認していなかったな。あとで彼に確認せねばならない。
もし、政臣にアリバイが無かったら、ここまで全て事件性無く殺害してきた人物の手口が、いきなり雑になることなどあるのだろうか?
そうなると、牧野ユミの殺害は一連の流れとは別の単独の事件ということになるのか?
その牧野ユミだが、なかなかの食わせ者だったようだ。
恋人の政臣に対する裏切りや、人の弱みを握ってはそれを楽しんだり、果ては脅迫までする裏の顔が判明した。
牧野ユミ殺害時のアリバイは、松尾和利以外は誰も確かなアリバイが無い。
その松尾だが、九十九の証言では牧野ユミと接触した黒い車を所持しているとみられる。
これはまだ画像の解析待ちだが、そうなると松尾が牧野ユミとほとんど交流が無かった、と言っていたことが否定されることとなる。
しかし、松尾には牧野ユミ殺害時の完璧なアリバイがある。
まぁ、それも防犯カメラの映像で何が映っているか次第だろうか。
そうなると、確認するべきことは3つになる。
牧野ユミ殺害時の政臣のアリバイの立証だ。
目撃されている黒い車が誰のものなのか。
松尾のアリバイを証明する画像に何が映っているのか。

その時、警察の正面玄関で待っていた小川のところへから政臣がやって来た。
「正臣、お疲れ様。大変だったね」
小川は政臣をそっと労った。
「えぇ・・・まだ現実を受け止められない状況で、これからどうしたらいいのか途方に暮れています」
政臣は力無く答えた。
「仕方ないだろう、最愛の恋人があんな殺され方したら。昨日まで元気だったのに、突然その存在を奪われたのだからショックを受けて当然だ」
小川が政臣の心労を気遣ってフォローする。

その後を、2人は軽い食事をして探偵の事務所へと向かった。
「政臣君、今日はとても疲れただろう。今日は帰って、ゆっくり休んだ方がいい。詳しい話しはまた明日にでも聞かせてもらうよ」
「いいえ、こんなことに負けていられません。たしかにユミはもういない。突然彼女を失って今は辛いですが、今は一刻も早く犯人を捕まえたいです。だから、僕にできることを精一杯やりたいと思います」
探偵の言葉に、政臣は俯いていた顔を上げて気丈に応えた。
「わかった、政臣君の覚悟、しっかりと受け止めたよ」
「そうと決まれば善は急げだ。まず、何から調べればいい?」
小川も気を取り直して探偵に問いかけた。
「まずは政臣君に聞きたいことがある。牧野さん殺害の推定時刻のアリバイを教えてもらえないか?」
探偵の問いかけに、政臣は狼狽え、助けを求めるように小川を横目に見た。そして、軽く深呼吸して何かを決意したかのように口を開いた。
「無いんです。アリバイ。その時間は、家でずっとネトフリを観ていました」
「そうか・・・いや、そんなにおちこまなくてもいい。むしろ、今までアリバイが完璧だったことの方が運が良かったのだから。これは想定の範囲内だ」
「しかし、浜村一の件と言い、アリバイが無いとなるとこちらの旗色が悪いぞ」
小川が懸念を口にする。
「そうだな、これをきっかけに警察は過去のアリバイも含めて、全力で調べ直してくるだろう。しかしこちらも黙って手をこまねいているわけにもいかない。政臣君、松尾さんの車に乗ったことはあるか?」
「はい・・・それが何か?カズさん、何か関係あるんですか?」
政臣の目に、微かに暗い影が刺す。
「今はまだハッキリしたことは分からない。ただ、全ての可能性を排除することはできない。その車は何色だった?」
「グリーンのフィアットです。カリオストロの城でルパンが乗ってるやつ。その車で昔はよくドライブに行ってました」
「グリーンなのか!?」
「グリーンのフィアットか。他に松尾さんは車は持ってないのかな?」
「他にも持ってるとは聞いたことないです。あまり車には興味がないみたいで、フィアットもルパンが好きだから、という安直な理由だからみたいですよ」
政臣はクスッと笑った。
探偵と小川は互いの視線を交わした。
目撃された黒い車とは違う。昨日乗っていた黒い車ではないのか?どういうことだ?
探偵は誰かにメールを打っている。
「そういえば、一つ思い出したんですけど、松尾さんって都心は運転できないんですよね。怖いからって。だから僕の部屋の近くに駐車場を借りて、わざわざタクシーとか五木さんの車に乗せてもらって来たりしてたんですよ」
政臣は、当時のことを楽しそうに話した。
小川は期待するような証言を引き出せずに失望した。
「ありがとう、とても参考になったよ」
『どこがだよ・・・』
小川は探偵の言葉に疑問を感じて、内心でボヤいた。
「政臣君、今日はいろいろあって疲れただろう。帰ってゆっくり休むといいよ」
「そうですね、それでは帰らせていただきます。また何かありましたら、いつでもご連絡下さい」
政臣が事務所から出て行ったあと、小川は探偵に質問した。
「おい、さっきの会話で何が参考になったんだよ。何も進展してないどころか、後退してるじゃないか」
「急かすな。早ければ明日になればわかるから」
「さっきメールしてたのと何か関係あるのか?誰にメールしてたんだ?」
「さぁな、明日になればわかるさ」
探偵は小川の問いをはぐらかして、薄らと笑みを浮かべた。
こうなったら探偵はそれ以上何も教えてはくれないことを、小川は知っている。
「何だよ、ケチ」





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