51才ゲイだって恋したい!

あらんすみし

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黒猫の呪い 後編

真っ直ぐと俺を見つめて告白してきたテディさんだが、その瞳はどこか不安げで、もしここで断るようなことがあれば、その場で泣き出しそうな表情であった。
俺の脳内は、瞬時に猛烈な思考能力でフル回転し始めた。
どうする?せっかく自分のタイプがこうして告白してきてくれているのだから、ここは断る理由なんてあるのか?
しかし、過去の経験から、ろくに相手のことを知りもしないで、勢いや成り行きですぐに交際をスタートさせてきて良い結果になった試しもない。
でも、自分ももう51才。11月には52才だ。これから先、こんなチャンスがあるのだろうか?こんなチャンス、みすみす逃す手もないかもしれない。
いや、逃したらそれこそ後悔するかもしれない。
付き合わずに後悔するより、付き合ってみて後悔する方がいいかもしれない。
結局俺は、足りない脳をフル回転させた結果、いつものように勢いで付き合ってみることにした。
「俺なんかでよければ」
「本当!?」
それまでの不安げな表情が一変して、テディさんはこれ以上できないくらいの明るい笑顔を見せて、小さくガッツポーズをした。
「それじゃあ、LIMEでも交換しようか」
俺たちはLIMEを交換して、互いにメッセージを送った。テディさんの顔が綻ぶ。そんなに嬉しいのか?
「ねぇ、俺の部屋、ここから歩いてすぐなんだけど、何もしないから来ない?」
えっ!いきなり部屋にお誘いですか?な、何もしないとか言いながら、これってば何かある展開じゃないの? 
だけど、何かあるのも悪くはない。
「じゃ、じゃあ、始発が動くまで」
こうして俺たちは午前2時に店の前で解散した。
ユータさんにはいちおうその場で報告というか、交際宣言をした。
体毛さんは、なんか不貞腐れてどこか二丁目の闇に消えて行った。
なんか、申し訳ないことした気もしないこともないけど、何かを手に入れるためには、何かを犠牲にしなければいけないのだ。体毛さんには、このまま俺が幸せになるための犠牲になってもらおう。
「ねぇ、今、何才なの?」
テディさんが今更そんなことを聞いてきた。今更?とは思いながら、そう言えばろくに話もしてなかったから仕方ないか。
「うち、猫がいるんだけど、アレルギーとか大丈夫?」
猫か。アレルギーは無いが、猫って懐かないからあんまり好きじゃないんだよなぁ。
「大丈夫、アレルギーは無いよ」
俺の言葉にテディさんはホッと胸を撫で下ろした。
「散らかってるけど」
そんな事を言って、実際に散らかっている部屋だったことは無いが、猫がいるから少しは匂いとか覚悟しておいた方がいいだろうか。
ドアを開けて部屋に入ると、コロコロとよく肥えた黒猫が俺たちを出迎えてくれた。
そして、その黒猫は俺の足元に擦り寄ってきて、体を擦り付けてきた。
「パンジャがこんなに懐くなんて珍しい」
どうやら俺は、このパンジャという黒猫に歓迎されたらしい。
それにしても人懐っこい猫だ。まるで犬みたいに擦り寄ってくる。最初から腹を見せるし、膝の上に乗っかってくる。 
俺も、パンジャのことが無性に可愛らしく感じられてきた。
「可愛いでしょ?俺が命より大切にしてる子なんだ。この子が死んだら、俺は生きていけないよ」
そんなに?こんなに大切に思われているなんて、この猫は幸せだろうな。自分も生まれ変わるなら、ここまで溺愛されている猫に生まれ変わりたい。
「とりあえず、もう遅いし寝ようか?」
キター!このまま食べられちゃうのか?
と、そんな期待は取り越し苦労で、テディさんはさっさとTシャツにハーパンになってベッドの中に入ってしまった。どうやら本当に何もする気は無いらしい。
俺も渡された部屋着に着替えて、一緒に寝ることにした。
しかし、枕が変わると目が冴えて眠れなくなってしまうのは昔からだ。このまま一睡もできないで朝を迎えそう。
テディさんはと言えば、隣でたまに鼻をほじりながらグッスリと眠っている。
俺は眠れないまま、枕元のスマホを手に取り時間を確認してみた。
もう午前4時半を過ぎてしまった。幸い日曜日だからのんびりと寝て過ごせるだろうけど、どうしよう、起きたらいきなり襲われたりして。ま、まぁ大人なのでそういうハプニングも歓迎ですけど。
その時、テディさんがおもむろに起き上がり、ベランダに面した窓を全開にした。
どうやら寝ぼけていて、暑いから窓を開けたみたいだ。
そして、テディさんは何かをゴニョゴニョ言って、再び深い眠りについた。
明け方の涼しい空気が入ってきて、部屋の中は一気に過ごしやすくなった。
しかし、パンジャは窓を開けたままにしていたら、ベランダに出たりしないのだろうか?
その時、俺は昔仲が良かった女友達のことを思い出した。
その女の飼っていた猫は、窓を開けていてもベランダに出ることは決して無かったなぁ。臆病だからというのもあるだろうが、パンジャもそういうものなのかもしれないな。
と、思っていたら全然違った。
パンジャは、何の躊躇いもなく、開いた窓からベランダへ出て行ってしまった。
えー!出ちゃったよ!?大丈夫なのか!?
俺は必死にパンジャの興味を惹いて、なんとかパンジャを部屋に引き戻そうとしたものの、パンジャはそんな俺の心が伝わるはずもなく、ベランダを闊歩していた。
「大変だよ!パンジャがベランダに出てるよ!」
俺は急いで寝ているテディさんを起こした。
驚いたことに、テディさんはこの事態を瞬時に理解したらしく、俺を払い除けてベランダに出てパンジャを部屋の中に連れ戻した。
そしてテディさんは、パンジャを大切に抱えてソファに腰を下ろした。
「ごめんな、もう誰とも付き合わないから、誰も部屋に入れないからねぇ」
テディさんは、パンジャに向かってずっと繰り返し話しかけている。
え?誰ともって、それは俺も含まれているの?
「それって、俺もってこと?」
「ごめん、やっぱり君とは付き合えない。俺にはこの子がいちばん大切なんだ。この子無しの人生なんて考えられない。だから、ごめん」
俺はそのまま、何も告げずに身支度を整えると、黙って部屋を出た。
何も告げずに出ることが、唯一できる俺にとっての抗議の意思表示だった。
マンションを出て、ふとスマホを開くと、時間は午前5時を少し過ぎたところだった。
夜明けを迎えて、昇ったばかりの太陽が空を照らしている。
そうか、俺はまたフラれたんだな。
そうか、俺は猫に負けたんだな。
俺のこれまでの恋愛で最速、僅か3時間でこの恋は終わりを告げた。
やっぱり猫なんて嫌いだー!!


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