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犬吉2
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犬吉は、遥か北の地、白神の山深い村に生まれた。
その村は、龍野家という商家が治めていた。龍野家は、龍野庄之助という男が治めており、絶大な権勢を奮っていた。
庄之助には、妻との間に2人の息子と3人の娘がいた。
龍野家のもとで、多くの村人は炭を焼いたり、小作農として龍野家に税を納めていた。
犬吉の母、松は、龍野家の使用人として10歳の時に買われてきた。
松の仕事は主に子供達の身の周りの世話だった。
親に売られた松にとっては、龍野家だけが唯一の居場所であり、子供達の世話が生きる理由であった。
月日は流れて、松が14歳になったとき、松は身籠る。
父親は2歳年上の龍野家の長男である、晋作だった。
当然のことながら庄之助の妻、妙子は松の妊娠に激怒した。
松を屋敷の奥の座敷牢に軟禁し、日々暴言を浴びせたり暴行を加えたりする毎日。しかし、松は必死にお腹の子を守った。
そして、松は男の子を産む。それが犬吉だった。
妙子は、生まれてきた赤子を、人としてではなく、犬程度の命という意味を込めて、犬吉と名付けた。
犬吉は、表向き妙子の息子として育てられることとなった。
しかし、犬吉を疎ましく思っていた妙子の虐待は止まることを知らない。食事を与えなかったり、激しい折檻をしたり、使用人と同様に働かせて痛ぶり尽くした。
そんな母親の行動を見て、他の子供達も犬吉にひどくあたるのは当たり前だった。
犬吉が過酷な子供時代をすごし、松が買われてきたのと同じ10歳になった時、犬吉をさらなる悲劇が襲う。
座敷牢に軟禁され、我が子を奪われていた松は、犬吉を出産して間もなく精神を病んでいた。
そして、犬吉が10歳を迎えたその日の夜だった。松は首を吊り、その生涯を終わらせた。
と、表向きはされたが、実際のところはわからない。
使用人の間では、松は殺されたのではないかと、まことしなやかに噂されていた。
松が死んだことで、龍野家での犬吉の存在価値は完全に失われた。
犬吉はその後すぐ、街の金貸しの秦野家に奉公に出される。
犬吉は、そこでも冷遇されてはいたが、少なくとも龍野家よりは人間らしい扱いを受けていた。
しかし、ここでまた犬吉を悲劇が襲う。
今度は、秦野家が潰れてしまい一家離散となる。犬吉、15歳の時だった。
「それからの俺は、この腕一本で生きてきた。食うためなら何でもした。どれだけ過酷な仕事でも、どれだけ汚い仕事でも、龍野の家でされたことを思い出せば屁みたいなものだったし、何より自由になれたのは嬉しかった。」
犬吉の独白に、太郎はただ凍りつくように、身じろぎもせず聞き入るしかできなかった。
「自由って、いいよな。どこへでも行けるし、何でも自由に喋ることができる。だけど、それも命あってのことだ。だから太郎、お前はここから逃げるんだ。そして、行きたい所に行って、やりたいことを存分にして生きるんだ。いいな?」
犬吉の言葉に太郎は横に首を振る。
「それなら俺は今、やりたいことをやる。それは、犬吉をここから救うことだ。それが今、俺のやりたいことで、やるべきことだから。だから俺は逃げない。」
太郎が改めて決意を固くしたことに、犬吉は呆れるしかなかった。
「やれやれ、こんなクズのために命を賭けるなんてな。でも、約束してくれ。絶対に死なないってな。」
太郎は犬吉の言葉に、笑顔で応えた。
そして、次の日、決闘の朝を迎える。
その村は、龍野家という商家が治めていた。龍野家は、龍野庄之助という男が治めており、絶大な権勢を奮っていた。
庄之助には、妻との間に2人の息子と3人の娘がいた。
龍野家のもとで、多くの村人は炭を焼いたり、小作農として龍野家に税を納めていた。
犬吉の母、松は、龍野家の使用人として10歳の時に買われてきた。
松の仕事は主に子供達の身の周りの世話だった。
親に売られた松にとっては、龍野家だけが唯一の居場所であり、子供達の世話が生きる理由であった。
月日は流れて、松が14歳になったとき、松は身籠る。
父親は2歳年上の龍野家の長男である、晋作だった。
当然のことながら庄之助の妻、妙子は松の妊娠に激怒した。
松を屋敷の奥の座敷牢に軟禁し、日々暴言を浴びせたり暴行を加えたりする毎日。しかし、松は必死にお腹の子を守った。
そして、松は男の子を産む。それが犬吉だった。
妙子は、生まれてきた赤子を、人としてではなく、犬程度の命という意味を込めて、犬吉と名付けた。
犬吉は、表向き妙子の息子として育てられることとなった。
しかし、犬吉を疎ましく思っていた妙子の虐待は止まることを知らない。食事を与えなかったり、激しい折檻をしたり、使用人と同様に働かせて痛ぶり尽くした。
そんな母親の行動を見て、他の子供達も犬吉にひどくあたるのは当たり前だった。
犬吉が過酷な子供時代をすごし、松が買われてきたのと同じ10歳になった時、犬吉をさらなる悲劇が襲う。
座敷牢に軟禁され、我が子を奪われていた松は、犬吉を出産して間もなく精神を病んでいた。
そして、犬吉が10歳を迎えたその日の夜だった。松は首を吊り、その生涯を終わらせた。
と、表向きはされたが、実際のところはわからない。
使用人の間では、松は殺されたのではないかと、まことしなやかに噂されていた。
松が死んだことで、龍野家での犬吉の存在価値は完全に失われた。
犬吉はその後すぐ、街の金貸しの秦野家に奉公に出される。
犬吉は、そこでも冷遇されてはいたが、少なくとも龍野家よりは人間らしい扱いを受けていた。
しかし、ここでまた犬吉を悲劇が襲う。
今度は、秦野家が潰れてしまい一家離散となる。犬吉、15歳の時だった。
「それからの俺は、この腕一本で生きてきた。食うためなら何でもした。どれだけ過酷な仕事でも、どれだけ汚い仕事でも、龍野の家でされたことを思い出せば屁みたいなものだったし、何より自由になれたのは嬉しかった。」
犬吉の独白に、太郎はただ凍りつくように、身じろぎもせず聞き入るしかできなかった。
「自由って、いいよな。どこへでも行けるし、何でも自由に喋ることができる。だけど、それも命あってのことだ。だから太郎、お前はここから逃げるんだ。そして、行きたい所に行って、やりたいことを存分にして生きるんだ。いいな?」
犬吉の言葉に太郎は横に首を振る。
「それなら俺は今、やりたいことをやる。それは、犬吉をここから救うことだ。それが今、俺のやりたいことで、やるべきことだから。だから俺は逃げない。」
太郎が改めて決意を固くしたことに、犬吉は呆れるしかなかった。
「やれやれ、こんなクズのために命を賭けるなんてな。でも、約束してくれ。絶対に死なないってな。」
太郎は犬吉の言葉に、笑顔で応えた。
そして、次の日、決闘の朝を迎える。
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