SHIN桃太郎

あらんすみし

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女の幸せ

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港町に着いた太郎達一行。
早速その脚で姫雉の輿入れした奈良屋へ向かう。
奈良屋は国中にその名を轟かす有名な豪商で、港の船は全て奈良屋の物だとも言われるくらいだった。
奈良屋の当主、奈良幸蔵の屋敷は皇居ほどの大きさがあるとまで言われている広大な敷地があった。
屋敷の門は、まるでそれだけで1つの屋敷かと見紛うほどの大きさと立派さで、そこから張り巡らされた塀は、3間(1間181.8cm)は悠にありそうだった。また、門の前には屈強な警護の者が6人いた。
「こりゃあ、そう簡単には姫雉に会えそうにも無いなぁ。」
犬吉は鉄壁の警護を見て嘆いた。
「しかし、せっかく来たからには何とか取り次いでもらわないと。とりあえず、直接交渉してみましょう。」
太郎は、門の警護の者に交渉をしに近づくも、すぐに行き先を阻まれてしまい、とりつく島もなかった。
「こりゃあ直接交渉は無理だな。他の手を考えよう。」
「他の手というと?」
太郎が猿山に尋ねる。
「決まってるだろ、忍び込むんだよ。」

そして日は暮れて子の刻になった頃、4人は厳重な警護の手が緩んだ頃に、比較的警護が手薄な西の通用口から鍵を破って忍び込んだ。
しかし、この広い屋敷の中で、どこに姫雉が住んでいるのかもわからない。
「おい、こんなに広いとどこから探したらいいのか、見当もつかないな。」
犬吉は、早くも弱音を吐く。
「分かれて探すか?」
猿空が提案する。
「いや、単独行動は危険だ。せめて2人ずつだ。俺に考えがある。ずばり、姫雉は北の方角にいる。」
猿山が断言する。
「それはまた何故?」
3人が口々に猿山に問いかける。
「実は、奈良屋がここまで莫大な富を築いたのには、風水の力があると代々伝えられているそうだ。そして、風水で愛情を得られる方角というのが、北の方角になる。だから、もし姫雉がいるのなら、姫雉の愛を得たい幸蔵なら北に住まわせている可能性が高い。」
「なんだ、そんな迷信みたいなことか。」
犬吉はあからさまに落胆する。
「しかし、この広い屋敷を闇雲に探すより、ちょっとした可能性でもいいから当たりをつけないと、夜が明けてしまう。今は、猿山の言った可能性に賭けてみませんか?」
太郎は犬吉を説得する。犬吉は、あまり乗り気では無かったが、渋々その提案を
受け入れた。
「しかし、もし北の住まいにいなかったら、どうするつもりなんだ?」
犬吉は太郎達に尋ねる。
「その時は仕方ない。東から順に、虱潰しに探していくしかない。」
「結局、そうなるのかあー。」

しかし、北の丸の一角も、相当な広さだった。そこで太郎達は、二手に分かれて姫雉を探すことにする。太郎達が東から。猿山達が西から探すことになった。
不思議なことに、北の丸は警護がほとんどいなかった。警護がいたとしても、それは男ではなく女であり、それは太郎達の期待を嫌がおうにも高めてくれた。
そして、太郎達が一際大きな棟に到達すると、そこには縁側で月を見上げている姫雉の姿があった。
太郎と犬吉は、日差しの上から姫雉に語りかけることにした。
「姫雉、久しぶり、太郎だよ。覚えてる?」
「太郎?…あの太郎なの?」
「犬吉も一緒だよ。」
「久しぶりだな、姫雉。おまえさんが輿入れしたなんて、少々驚いたぜ。」
犬吉が姫雉を茶化す。
「もう、久しぶりに会ったのに失礼ね。それで、今日は何しに来たの?」
姫雉は身じろぎもせず応える。
「姫雉、俺たちと一緒に鬼を退治に行かないか?君の力が必要なんだ。」
太郎が優しく問いかける。
どれくらいの沈黙があっただろう。長い思考の末に姫雉はぽつりと呟いた。
「それはできないわ。もう、あんな地獄に行くのはまっぴらよ。私は、ここで一生幸せに暮らすわ。」
「…俺には、今の姫雉が幸せには見えなかった。本当にこれが姫雉の望んでいた幸せなの?」
「えぇ、ここにいれば毎日の食べるものにも困ることは無い。贅の限りを尽くせるし、これほどの女にとっての幸せなんてあるかしら?」
しかし、そう応える姫雉の声は、どこか憂いを帯びていた。
「姫雉、俺だ、犬吉だ。こんな牢獄のような狭い世界で閉じこもっていていいのか?お前がその気になれば、もっと広い世界で楽しく生きられる。その方がお前らしい。」
「私らしさって何?私はここで暮らすことに満足してるわ。例え、ここから出られなくても、それは変わらないわ。」
姫雉の態度は固かった。
「姫雉…俺は君の生き方を尊重するよ。でも、これだけは言わせてほしい。女の人の幸せが、輿入れだけでは無いということを。本当の幸せって、自分に正直に生きることじゃないかと俺は思う。」
「………。」
「その気になったら、3日、この時刻に港で待っているから来てほしい。」
「行かないわよ。」
「それでも待つ。待たせてほしい。」
「太郎、そろそろ行こう。猿山達との待ち合わせの時間だ。」
太郎達は、後ろ髪を引かれる想いでその場をあとにした。


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