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楽園の嘘
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始業前の朝礼の時間。
3年1組はいつものように生徒達の笑い声で溢れていた。
教室の扉が開くと、担任の塚本と副担任の松丸、そしてもう1人、大人しそうな少年が入ってくる。
「はーい、皆んな静かに。今日から新しいお友達が加わります。大和翼君です。それじゃあ大和君、自己紹介をして下さい。」
塚本に促されて、大和は精一杯大きな声を出して自己紹介する。
「大和翼です。横浜から来ました。よろしくお願いします。」
「それじゃあ、大和君はあそこの空いている席に座ってね。」
席に座った翼を、クラスメイト達は興味津々で、あちらこちらから囁きが聞こえてくる。
そして、担任と副担任が立ち去ると、クラスメイト達がたちまち翼を取り囲んで質問攻めにする。
「横浜のどこから来たの?」
「前の学校ではクラブ活動してたの?」
「好きな女の子のタイプは?」
「朝は、ご飯派?パン派?」
さまざまな質問が飛び交う。
「みんな、静かに!」
女の子の声がすると、それまでの喧騒が嘘のように、ピタリと止んだ。
「もう、いきなりかわいそうでしょ。私は、生徒会副会長の片桐まどか。そして彼が生徒会長の高槻君。」
片桐が高槻翔を手招きする。
すると、いかにもリーダーのオーラを見にまとった少年が近づいて来た。
「よろしく。生徒会長の高槻です。」
高槻は、魅力的な笑顔を見せて、翼を魅了する。
「そして、こちらが書記の三田さんと、会計の小野田さん。」
そう言って、片桐は眼鏡をかけたおかっぱ頭の三田と、ショートカットで肌が日に焼けて、いかにも活発そうな小野田という2人の女子を紹介してくれた。
委員会のメンバーのおかげで、大人しい翼もすんなりとクラスメイトの仲間入りを果たすことができた。どちらかと言えば、これまで目立たない生徒だった翼は、転校先での生活が不安だったが、そんな不安はすぐに解消された。
新しい友人もできた。特に木下とは仲良くなり、いつも一緒に下校したり、お互いの家に遊びに行ったりする仲になった。
そんなある日、2人が一緒に下校していると、通りかかった公園の東屋に、1人少年が読書をしていた。
その少年は、クラスメイトの内山だった。
翼は内山に声をかけようとするが、そらを木下に制止される。
「内山君とは仲良くしない方がいい。」
木下は、これまでに見せたことのないような、深刻な表情をしていた。
まるで、何かに怯えているような。
翼には、それが何なのかその時はわからなかった。
考えてみれば、内山はいつも1人で読書をしていた。これまでは、単に読書が好きな大人しい少年だと思っていた。
しかし、観察してみると、クラスメイトは誰も何があっても、内山に積極的に話しかけはしなかった。
まるで存在しないかのように。
そして、内山も自ら周りに関わろうとはしなかった。翼は気がついた。内山がクラスメイト全員から無視されているのではないかと。
ある日、翼は1人で下校していた。その日は木下が風邪で学校を休んでいたからだ。
公園の前を通りかかると、東屋に内山がいて本を読んでいた。
翼は、思い切って内山に声をかけてみた。
内山は顔を上げて翼のことを見上げて、周りの様子を窺う。そして、その場を立ち去ろうとするが、翼は内山の手首を掴んで引き止める。
内山は翼の手を振り払う。
「僕に関わらない方がいい。次は君の番になる。」
そう言い残すと、内山は翼のことを振り返ることなく立ち去った。
翌朝、翼は高槻達に生徒会室へ呼び出された。
「どんなに些細な秘め事も、私達、生徒会には隠せませんよ。」
高槻は言った。
なぜバレたのか?翼はしどろもどろになりながら弁明しようとした。
「見苦しいわよ、大和君!あなたは自分が何をしたのかわかっているの!?」
片桐が一喝する。
「でも、どうして皆んな、彼を無視するんですか?」
翼は恐る恐る尋ねてみた。
「彼の存在が、3年1組の皆んなが楽しく学校生活を送るために必要だからだよ。」
高槻の言葉に、翼はますます訳がわからず混乱する。存在するのに存在しないことにするとは、いったいどういうことなんだ?
なぜ、そうなるんだ?
「彼を無視することで、1組は団結力で強く結ばれている。そして、そのおかげで他のクラスメイトは楽しい学校生活を満喫できる。彼もそれはよくわかっている。彼は皆んなが楽しく暮らすための、いわば人柱なんだよ。」
高槻の言い分に翼は唖然とする。
こんなことが許されていいわけない。翼は拳を握りしめて、怒りに震えて抗議する。
「そんなの酷い!このことを、副担に言ってやる!」
翼は精一杯の勇気を振り絞り、声を上擦らせて高槻達に言った。
「どうぞ。これは副担の松丸先生もご存知のこと。というか、松丸先生のご発案だ。言ったところでどうにもならない。」
「じゃ…じゃあ、塚本先生に言う!」
狼狽する翼。それに片桐が追い討ちをかける。
「塚本なんて、ただのお飾りよ。あの人は何も知らないし、理解できないし、何もできない。1組の実質的な支配者は松丸先生。塚本は、松丸先生の掌の上で踊らされてる、ただの猿よ。」
勝ち誇ったように、片桐は薄ら寒い笑みを浮かべ、翼を見下ろしている。
「君の目の前には3本の道が用意されている。内山の代わりに人柱となるか。君も皆んなと一緒に楽しく学校生活を送るか。学校を去るか。さあ、どの道を選ぶ?」
高槻の提案は、どれも承服困難なものだった。
翼は追い詰められた。松丸とこの4人は、学校を牛耳るモンスターだ。できることなら一矢報いたい。できる。自分だってできる。
扉が開き、翼は教室へ戻ってきた。
クラスメイト達は、何も変わっていない。
内山が何をしているのか、翼は見ない。見ないようにした。きっと、いつもと変わらず読書でもしているのだろう。
その日から、翼は内山を見ることは無かった。
内山のおかげで、翼は楽しい学校生活を満喫できることに満足していた。
そして、卒業後、翼は内山のことを完全に忘れて、翼の学校生活の思い出は、大人になってもいつまでも輝いて残った。
3年1組はいつものように生徒達の笑い声で溢れていた。
教室の扉が開くと、担任の塚本と副担任の松丸、そしてもう1人、大人しそうな少年が入ってくる。
「はーい、皆んな静かに。今日から新しいお友達が加わります。大和翼君です。それじゃあ大和君、自己紹介をして下さい。」
塚本に促されて、大和は精一杯大きな声を出して自己紹介する。
「大和翼です。横浜から来ました。よろしくお願いします。」
「それじゃあ、大和君はあそこの空いている席に座ってね。」
席に座った翼を、クラスメイト達は興味津々で、あちらこちらから囁きが聞こえてくる。
そして、担任と副担任が立ち去ると、クラスメイト達がたちまち翼を取り囲んで質問攻めにする。
「横浜のどこから来たの?」
「前の学校ではクラブ活動してたの?」
「好きな女の子のタイプは?」
「朝は、ご飯派?パン派?」
さまざまな質問が飛び交う。
「みんな、静かに!」
女の子の声がすると、それまでの喧騒が嘘のように、ピタリと止んだ。
「もう、いきなりかわいそうでしょ。私は、生徒会副会長の片桐まどか。そして彼が生徒会長の高槻君。」
片桐が高槻翔を手招きする。
すると、いかにもリーダーのオーラを見にまとった少年が近づいて来た。
「よろしく。生徒会長の高槻です。」
高槻は、魅力的な笑顔を見せて、翼を魅了する。
「そして、こちらが書記の三田さんと、会計の小野田さん。」
そう言って、片桐は眼鏡をかけたおかっぱ頭の三田と、ショートカットで肌が日に焼けて、いかにも活発そうな小野田という2人の女子を紹介してくれた。
委員会のメンバーのおかげで、大人しい翼もすんなりとクラスメイトの仲間入りを果たすことができた。どちらかと言えば、これまで目立たない生徒だった翼は、転校先での生活が不安だったが、そんな不安はすぐに解消された。
新しい友人もできた。特に木下とは仲良くなり、いつも一緒に下校したり、お互いの家に遊びに行ったりする仲になった。
そんなある日、2人が一緒に下校していると、通りかかった公園の東屋に、1人少年が読書をしていた。
その少年は、クラスメイトの内山だった。
翼は内山に声をかけようとするが、そらを木下に制止される。
「内山君とは仲良くしない方がいい。」
木下は、これまでに見せたことのないような、深刻な表情をしていた。
まるで、何かに怯えているような。
翼には、それが何なのかその時はわからなかった。
考えてみれば、内山はいつも1人で読書をしていた。これまでは、単に読書が好きな大人しい少年だと思っていた。
しかし、観察してみると、クラスメイトは誰も何があっても、内山に積極的に話しかけはしなかった。
まるで存在しないかのように。
そして、内山も自ら周りに関わろうとはしなかった。翼は気がついた。内山がクラスメイト全員から無視されているのではないかと。
ある日、翼は1人で下校していた。その日は木下が風邪で学校を休んでいたからだ。
公園の前を通りかかると、東屋に内山がいて本を読んでいた。
翼は、思い切って内山に声をかけてみた。
内山は顔を上げて翼のことを見上げて、周りの様子を窺う。そして、その場を立ち去ろうとするが、翼は内山の手首を掴んで引き止める。
内山は翼の手を振り払う。
「僕に関わらない方がいい。次は君の番になる。」
そう言い残すと、内山は翼のことを振り返ることなく立ち去った。
翌朝、翼は高槻達に生徒会室へ呼び出された。
「どんなに些細な秘め事も、私達、生徒会には隠せませんよ。」
高槻は言った。
なぜバレたのか?翼はしどろもどろになりながら弁明しようとした。
「見苦しいわよ、大和君!あなたは自分が何をしたのかわかっているの!?」
片桐が一喝する。
「でも、どうして皆んな、彼を無視するんですか?」
翼は恐る恐る尋ねてみた。
「彼の存在が、3年1組の皆んなが楽しく学校生活を送るために必要だからだよ。」
高槻の言葉に、翼はますます訳がわからず混乱する。存在するのに存在しないことにするとは、いったいどういうことなんだ?
なぜ、そうなるんだ?
「彼を無視することで、1組は団結力で強く結ばれている。そして、そのおかげで他のクラスメイトは楽しい学校生活を満喫できる。彼もそれはよくわかっている。彼は皆んなが楽しく暮らすための、いわば人柱なんだよ。」
高槻の言い分に翼は唖然とする。
こんなことが許されていいわけない。翼は拳を握りしめて、怒りに震えて抗議する。
「そんなの酷い!このことを、副担に言ってやる!」
翼は精一杯の勇気を振り絞り、声を上擦らせて高槻達に言った。
「どうぞ。これは副担の松丸先生もご存知のこと。というか、松丸先生のご発案だ。言ったところでどうにもならない。」
「じゃ…じゃあ、塚本先生に言う!」
狼狽する翼。それに片桐が追い討ちをかける。
「塚本なんて、ただのお飾りよ。あの人は何も知らないし、理解できないし、何もできない。1組の実質的な支配者は松丸先生。塚本は、松丸先生の掌の上で踊らされてる、ただの猿よ。」
勝ち誇ったように、片桐は薄ら寒い笑みを浮かべ、翼を見下ろしている。
「君の目の前には3本の道が用意されている。内山の代わりに人柱となるか。君も皆んなと一緒に楽しく学校生活を送るか。学校を去るか。さあ、どの道を選ぶ?」
高槻の提案は、どれも承服困難なものだった。
翼は追い詰められた。松丸とこの4人は、学校を牛耳るモンスターだ。できることなら一矢報いたい。できる。自分だってできる。
扉が開き、翼は教室へ戻ってきた。
クラスメイト達は、何も変わっていない。
内山が何をしているのか、翼は見ない。見ないようにした。きっと、いつもと変わらず読書でもしているのだろう。
その日から、翼は内山を見ることは無かった。
内山のおかげで、翼は楽しい学校生活を満喫できることに満足していた。
そして、卒業後、翼は内山のことを完全に忘れて、翼の学校生活の思い出は、大人になってもいつまでも輝いて残った。
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