オカルト結婚式 浮気した王子の末路が世界の支配者だった件

柚屋志宇

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07話 エルネストの譲歩

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「兄上、条件を三つ飲んでくださるなら、枢機卿に推薦します」

 しばし呆然としていたエルネストは、眉間に深い皺を刻んだ顔のまま、意を決したように言った。

(推薦してしまうの?!)

「エルネスト、待って。それはいくら何でも無謀じゃないかしら」

 教皇庁の枢機卿の人数は、各国平等になるよう暗黙に調整されている。
 一国だけに偏ることはない。
 一国につき枢機卿は一人、多くて二人だ。

 政治情勢によっては、自国の枢機卿を増やそうとしたり、敵国の枢機卿を排除しようとしたりする動きが教皇庁の中に生じることもある。
 だが神の御前に、信仰国は概ね平等であり、現在は一国につき一人ずつの枢機卿を立てている。

「シャミナード枢機卿が教皇庁にいらっしゃるわ。我が国から二人目の枢機卿を出すのは厳しいと思うの」

 自国アルカナ王国の国王に推薦され枢機卿となったアルカナ人枢機卿シャミナードの名をマリスは挙げた。

「陛下の推薦がなくても、兄上は枢機卿になる気だ……」

 エルネストが心労に顔を曇らせてそう言うと、リオネルは曇りない明るい笑顔で頷いた。

「その通り。父上の推薦がなくても私は枢機卿になる」

「廃嫡されたとはいえ兄上は陛下の息子。他国は当然、王家が関わっていると考える。国王の推薦もなく、アルカナ王国の二人目の枢機卿として教皇庁に行くのはおかしな事だから、何か企みがあるのかと変に勘繰られて他国に警戒される。無い腹を探られて要らぬ敵意を向けられるよりは、正面から正直に推薦して後腐れなく綺麗に砕けたほうが良い」

「エルネスト、心配するな。きっと枢機卿として認めてもらえる」

 リオネルはエルネストを励ますように言った。
 エルネストは表情の抜け落ちた顔で、リオネルの励ましに台本を適当に読みあげているかのような感情の無い平坦な声で応えた。

「そうですね。認められると良いですね」

「……」

(どちらを選んでも残念でしかない、嫌な選択ね……)

 マリスのその憂鬱を察したかのようにエルネストは補足した。

「厳しい状況だが、兄上に条件を飲んでもらえれば幾分マシだ」

 エルネストはリオネルに向き直った。

「兄上、人前では、アンジェリクのことを口にしないと誓ってください。これが一つ目の、一番大事な条件です!」

 エルネストは二階から飛び降りようとしているかのような悲愴な決意の表情で、リオネルに懇願するように言った。

「兄上ご自身のためでもあります。他の人にはアンジェリクは見えないのです。アンジェリクはいないものとして振舞ってください。お願いします! 我が国のために!」
「なんだ、そんなことか」

 リオネルはへらりと笑った。

「約束しよう。人前ではアンジェリクの話はしない」
「絶対ですよ!」

 エルネストは念を押すと、二つ目の条件を言った。

「聖都テネブラエへ行ったら、シャミナード枢機卿の言うことを、よーく聞いてください!」

(シャミナード枢機卿にリオネル様の手綱を握っていただくのね)

 マリスはエルネストの意を理解した。

(リオネル様がシャミナード枢機卿の指示に従ってくださるなら、何とか……なるかもしれない)

 絶望的な暗黒の中で、マリスは一条の希望の光を見た。

「シャミナード枢機卿は、教皇庁の情勢や慣習などについてよくご存知です。教皇庁ではシャミナード枢機卿の教えに必ず従ってください。勝手な行動は絶対にしないように!」
「解った、解った。猊下げいかの言うことを聞くよ」

 リオネルは安請け合いするかのように軽く了承した。

「最後の条件は光魔法のことです。光魔法の使い手だなんて嘘は、あちらでは絶対に言わないでください!」

「嘘じゃないぞ」
「兄上……。教皇庁は私たちほど優しくはないのです。教皇庁は、兄上のおふざけを笑って許してくれるような優しい場所ではないんです……」

 エルネストは真剣な表情で言ったが、リオネルはにこにこして言った。

「心配するな、エルネスト。私はふざけたりしていない。いつでも真剣だ」
「……」

(あの顔は、解ってないわね……)

 リオネルの笑顔に、マリスは不安しかなかった。
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