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11話 緋の衣
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「リオネル枢機卿……!」
アルカナ王国出身のシャミナード枢機卿は、リオネルの目付け役をエルネスト王太子から密かに任されていた。
そのため可能な限りリオネルに同伴していた。
その日も教皇庁へ行くリオネルを迎えに行ったシャミナード枢機卿は、リオネルの姿を見るや否や崇拝の眼差しで感嘆を漏らした。
枢機卿となったリオネルは、司祭の黒の衣ではなく枢機卿の緋の衣を纏っていた。
「緋の衣がなんと良くお似合いであることか」
緋色は枢機卿のみに許されている僧衣の色だ。
緋の衣が似合うというのは、枢機卿にふさわしいという意味を含む。
シャミナード枢機卿はさらなる賛美の言葉を口にした。
「ああ、しかし、白の衣はもっと良くお似合いでしょう!」
白の衣を纏う聖職者は世界にただ一人しかいない。
ニール教信者の頂点、神の代理人たる教皇だ。
白の衣が似合うとは、教皇にふさわしいという意味だ。
「シャミナード、口を慎め」
リオネルはシャミナード枢機卿をやんわりと制した。
「さすがにそれは畏れ多いというものだ」
「なんと謙虚な……。しかし勇者こそがテネブラエの祠の守り人でございました。勇者の再来である猊下こそ、祠の守り人にふさわしく存じます」
「教皇ともなれば政治と無縁でいられまい。世俗の雑事に深くかかずらうことになる」
リオネルが苦笑混じりにそう言うと、シャミナード枢機卿は恭しく礼をとった。
「ご心配めさるるな。俗世の些事は不肖私めがお引き受けいたします」
「正直言うと、私は教皇の地位には興味がないのだ。私が欲していたのは『勇者の祠』に立ち入る権限だ。枢機卿となったことで望みのものは手に入った」
「おお! 勇者の祠にご帰還なさるのですね?!」
シャミナード枢機卿は目を輝かせたが、リオネルは生真面目な表情で答えた。
「シャミナード、おかしな妄想は止めろ」
リオネルの口から「妄想は止めろ」という言葉が出て来た。
「私は『勇者の祠』に学術的な興味があるのだ」
魔法学院の成績は下から数えたほうが早かったリオネルの口から、今度は「学術的な興味」という言葉が出て来た。
リオネルという人物を良く知る元婚約者マリスと実弟エルネストがこれらを聞いたら、即座に「どの口が……」と内心で呟き、リオネルの不審な言動の裏には何か理由があると推測してそれを探ろうとしただろう。
しかし聖都テネブラエにはマリスもエルネストもいなかった。
「おお、リオネル枢機卿だ……!」
美しき枢機卿リオネルの名は、その光魔法の奇跡とともに、またたくまに聖都テネブラエ中に広まった。
リオネル枢機卿が通れば人々は振り向き、口々に賞賛した。
「なんと華麗な若者だ」
「あのように美しい枢機卿は、修道士たちの目に毒であろう」
「猊下はアルカナ王国の王太子であらせられたが、その地位を捨て、神に仕える道を選ばれたとか」
「王冠を捨てるとは、何と欲の無い」
「尊いお方だ」
「まさに聖人」
「無欲で清らかな心ゆえ、神に愛されたのであろうな」
いつの間にか、問題児であるがゆえに廃太子となったリオネルの黒歴史すら、尊い物語に改竄されて広まり始めていた。
――アルカナ王国、王太子宮。
リオネルが枢機卿になったという速報が、王太子エルネストと王太子妃マリスの元に届いた。
「本当に兄上は枢機卿になれたのか?」
遠く聖都テネブラエから速報を持って来た腹心の部下に、エルネストは念入りに確認をした。
「間違いではないだろうな」
「真にございます。いずれシャミナード枢機卿からも報告が届くかと存じます。またリオネル枢機卿は聖人としても認定されました」
報告を終えた部下が下がり、マリスと二人きりになると、エルネストはほっと胸を撫でおろすようにして独り言を呟いた。
「ひとまずは良かった。我が国が恥をかかなくて本当に良かった」
「リオネル様は本物の光属性の魔力持ちですから聖人認定は心配していませんでしたが。枢機卿として認められたのは僥倖ですね」
マリスがそう言うと、エルネストは頷いた。
「我が国からの二人目の枢機卿だからね。他国に一歩先んじたのだから普通であれば幸運なことだ。普通であれば……。兄上は見た目だけは極上でカリスマ性があるから、口さえ閉じていてくれれば……」
「シャミナード枢機卿を信じましょう」
「そうだな。シャミナード枢機卿が兄上を上手く操縦してくれることを祈ろう」
アルカナ王国出身のシャミナード枢機卿は、リオネルの目付け役をエルネスト王太子から密かに任されていた。
そのため可能な限りリオネルに同伴していた。
その日も教皇庁へ行くリオネルを迎えに行ったシャミナード枢機卿は、リオネルの姿を見るや否や崇拝の眼差しで感嘆を漏らした。
枢機卿となったリオネルは、司祭の黒の衣ではなく枢機卿の緋の衣を纏っていた。
「緋の衣がなんと良くお似合いであることか」
緋色は枢機卿のみに許されている僧衣の色だ。
緋の衣が似合うというのは、枢機卿にふさわしいという意味を含む。
シャミナード枢機卿はさらなる賛美の言葉を口にした。
「ああ、しかし、白の衣はもっと良くお似合いでしょう!」
白の衣を纏う聖職者は世界にただ一人しかいない。
ニール教信者の頂点、神の代理人たる教皇だ。
白の衣が似合うとは、教皇にふさわしいという意味だ。
「シャミナード、口を慎め」
リオネルはシャミナード枢機卿をやんわりと制した。
「さすがにそれは畏れ多いというものだ」
「なんと謙虚な……。しかし勇者こそがテネブラエの祠の守り人でございました。勇者の再来である猊下こそ、祠の守り人にふさわしく存じます」
「教皇ともなれば政治と無縁でいられまい。世俗の雑事に深くかかずらうことになる」
リオネルが苦笑混じりにそう言うと、シャミナード枢機卿は恭しく礼をとった。
「ご心配めさるるな。俗世の些事は不肖私めがお引き受けいたします」
「正直言うと、私は教皇の地位には興味がないのだ。私が欲していたのは『勇者の祠』に立ち入る権限だ。枢機卿となったことで望みのものは手に入った」
「おお! 勇者の祠にご帰還なさるのですね?!」
シャミナード枢機卿は目を輝かせたが、リオネルは生真面目な表情で答えた。
「シャミナード、おかしな妄想は止めろ」
リオネルの口から「妄想は止めろ」という言葉が出て来た。
「私は『勇者の祠』に学術的な興味があるのだ」
魔法学院の成績は下から数えたほうが早かったリオネルの口から、今度は「学術的な興味」という言葉が出て来た。
リオネルという人物を良く知る元婚約者マリスと実弟エルネストがこれらを聞いたら、即座に「どの口が……」と内心で呟き、リオネルの不審な言動の裏には何か理由があると推測してそれを探ろうとしただろう。
しかし聖都テネブラエにはマリスもエルネストもいなかった。
「おお、リオネル枢機卿だ……!」
美しき枢機卿リオネルの名は、その光魔法の奇跡とともに、またたくまに聖都テネブラエ中に広まった。
リオネル枢機卿が通れば人々は振り向き、口々に賞賛した。
「なんと華麗な若者だ」
「あのように美しい枢機卿は、修道士たちの目に毒であろう」
「猊下はアルカナ王国の王太子であらせられたが、その地位を捨て、神に仕える道を選ばれたとか」
「王冠を捨てるとは、何と欲の無い」
「尊いお方だ」
「まさに聖人」
「無欲で清らかな心ゆえ、神に愛されたのであろうな」
いつの間にか、問題児であるがゆえに廃太子となったリオネルの黒歴史すら、尊い物語に改竄されて広まり始めていた。
――アルカナ王国、王太子宮。
リオネルが枢機卿になったという速報が、王太子エルネストと王太子妃マリスの元に届いた。
「本当に兄上は枢機卿になれたのか?」
遠く聖都テネブラエから速報を持って来た腹心の部下に、エルネストは念入りに確認をした。
「間違いではないだろうな」
「真にございます。いずれシャミナード枢機卿からも報告が届くかと存じます。またリオネル枢機卿は聖人としても認定されました」
報告を終えた部下が下がり、マリスと二人きりになると、エルネストはほっと胸を撫でおろすようにして独り言を呟いた。
「ひとまずは良かった。我が国が恥をかかなくて本当に良かった」
「リオネル様は本物の光属性の魔力持ちですから聖人認定は心配していませんでしたが。枢機卿として認められたのは僥倖ですね」
マリスがそう言うと、エルネストは頷いた。
「我が国からの二人目の枢機卿だからね。他国に一歩先んじたのだから普通であれば幸運なことだ。普通であれば……。兄上は見た目だけは極上でカリスマ性があるから、口さえ閉じていてくれれば……」
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