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13話 勇者の祠
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「この教皇庁は『勇者の祠』の上に建っているのです」
リオネルは『勇者の祠』へと向かった。
シャミナード枢機卿が案内人だ。
リオネルにはアンジェリクが寄り添っているが、シャミナード枢機卿にアンジェリクは見えていない。
薄暗い石の廊下をランプの灯りで照らしながら、シャミナード枢機卿はリオネルの前を歩いていた。
そこは古い時代の建築のようで、廊下も壁も石材で造られている。
「古代人は、勇者の祠を保護するために頑丈な囲いを作りました。千年以上の時をかけて、囲いの増築が繰り返され、現在の教皇庁となったのです」
「なるほど」
迷路のように入り組んだ廊下を歩きながら、シャミナード枢機卿の説明にリオネルは相槌を打った。
「それゆえ、このように複雑な造りなのだな」
「はい。教皇庁で我々が普段使用している区画は、比較的新しい増築部分です。勇者の祠は教皇庁の最も古い部分にあります」
いくつもの角を曲がり、いくつかの階段を上り下りすると、やがて大きな鉄の扉の前に出た。
その扉には大きな錠前がついている。
「こちらが勇者の祠へ至る扉です」
シャミナード枢機卿はそう言うと、大ぶりの鍵を取り出し、錠前の鍵穴に差し込んで回した。
――ガチャ。
解錠すると、シャミナード枢機卿は扉を開いた。
――ギイイィ……。
軋むような音を立て、鉄の扉が開いた。
「真っ暗だな」
扉の中には闇があった。
ここまでリオネルを先導していたシャミナード枢機卿は、恭しく礼を取るとリオネルに道を譲った。
リオネルは手にしているランプをあちこちに向けて闇を照らし出した。
中は開けていた。
その中心に、小さな物置小屋ほどの大きさの石造りの建物がある。
小屋には金属製の古びた扉がついていて、その扉は開け放たれていた。
「これが『勇者の祠』です。扉は光魔法を流さねば開きませんので、開け放たれたままになっております」
勇者の祠の金属製の扉を指してシャミナード枢機卿は言った。
「光魔法が使えぬ者は、うっかりすると中に閉じ込められてしまいますのでご注意ください。類稀なる光魔法の使い手である猊下であれば恐れることはないと思われますが……」
「ボロボロだな」
「千五百年前の遺跡ですので……。聖遺物のほとんどは別の場所に移され保管されております。祠の中に残されている聖遺物は、聖剣のみです」
リオネルは祠の中へ入ると、手にしているランプで中を照らした。
その祠に床はなく、足元は土だった。
「……!」
祠の奥のほうに、少し土が盛り上がった部分があった。
その土の盛り上がりには剣のようなものが刺さっていた。
「これが聖剣なのか? 錆びているが……」
土が盛られた場所に、真っ直ぐ刺さっている錆びた剣は、墓標のようにも見えた。
「はい。神の力が宿るとされる聖剣でございます」
「触れれば命を落とすという、あれか?」
「左様でございます」
勇者の祠や、そこに祀られている聖剣の伝説は、ニール教徒たちの間に広く知れ渡っていた。
勇者の祠に祀られている聖剣を、邪な目的で持ち去ろうとした者たちが、聖剣に触れただけでことごとく命を落としたという伝説は子供でも知っている類の話だった。
「他の聖遺物は移動したのに聖剣だけは残したのは、伝説を恐れてのことか?」
「……」
それまで恭しく返答していたシャミナード枢機卿の反応がなかった。
「……シャミナード?」
リオネルは訝し気に眉を寄せてシャミナード枢機卿を振り返って呼び掛けたが、返事はなかった。
シャミナード枢機卿は茫洋とした眼差しで、その場に人形のように立っていた。
「リオネル、シャミナードには眠ってもらったわ」
リオネルの傍らにいたアンジェリクが、少し悪戯っぽい微笑を浮かべながら言った。
「邪魔されたくなくて……」
「ああ、アンジェリクがやったのか」
仕掛けが解ったとばかりにリオネルは笑うと、アンジェリクに問い掛けた。
「ここが世界の中心で間違いないかい?」
「世界の中心は……」
アンジェリクは言いながら、リオネルに絡めていた腕を解くと聖剣に歩み寄った。
「この聖剣なの」
「聖剣が世界の中心?」
リオネルは首を傾げた。
「そう。この聖剣が世界の中心だから、この聖剣を持って真実の愛を誓うの」
「え……」
リオネルは顔色を悪くした。
「この聖剣、触ったら死ぬんじゃ……?」
聖剣に触れた者が、神の怒りに触れて命を落とす童話は、大抵のニール教徒が子供のころに聞かされて知っている。
リオネルは聖剣が怖かった。
「光属性なら大丈夫なの。だって勇者は光属性だったのですもの」
リオネルは『勇者の祠』へと向かった。
シャミナード枢機卿が案内人だ。
リオネルにはアンジェリクが寄り添っているが、シャミナード枢機卿にアンジェリクは見えていない。
薄暗い石の廊下をランプの灯りで照らしながら、シャミナード枢機卿はリオネルの前を歩いていた。
そこは古い時代の建築のようで、廊下も壁も石材で造られている。
「古代人は、勇者の祠を保護するために頑丈な囲いを作りました。千年以上の時をかけて、囲いの増築が繰り返され、現在の教皇庁となったのです」
「なるほど」
迷路のように入り組んだ廊下を歩きながら、シャミナード枢機卿の説明にリオネルは相槌を打った。
「それゆえ、このように複雑な造りなのだな」
「はい。教皇庁で我々が普段使用している区画は、比較的新しい増築部分です。勇者の祠は教皇庁の最も古い部分にあります」
いくつもの角を曲がり、いくつかの階段を上り下りすると、やがて大きな鉄の扉の前に出た。
その扉には大きな錠前がついている。
「こちらが勇者の祠へ至る扉です」
シャミナード枢機卿はそう言うと、大ぶりの鍵を取り出し、錠前の鍵穴に差し込んで回した。
――ガチャ。
解錠すると、シャミナード枢機卿は扉を開いた。
――ギイイィ……。
軋むような音を立て、鉄の扉が開いた。
「真っ暗だな」
扉の中には闇があった。
ここまでリオネルを先導していたシャミナード枢機卿は、恭しく礼を取るとリオネルに道を譲った。
リオネルは手にしているランプをあちこちに向けて闇を照らし出した。
中は開けていた。
その中心に、小さな物置小屋ほどの大きさの石造りの建物がある。
小屋には金属製の古びた扉がついていて、その扉は開け放たれていた。
「これが『勇者の祠』です。扉は光魔法を流さねば開きませんので、開け放たれたままになっております」
勇者の祠の金属製の扉を指してシャミナード枢機卿は言った。
「光魔法が使えぬ者は、うっかりすると中に閉じ込められてしまいますのでご注意ください。類稀なる光魔法の使い手である猊下であれば恐れることはないと思われますが……」
「ボロボロだな」
「千五百年前の遺跡ですので……。聖遺物のほとんどは別の場所に移され保管されております。祠の中に残されている聖遺物は、聖剣のみです」
リオネルは祠の中へ入ると、手にしているランプで中を照らした。
その祠に床はなく、足元は土だった。
「……!」
祠の奥のほうに、少し土が盛り上がった部分があった。
その土の盛り上がりには剣のようなものが刺さっていた。
「これが聖剣なのか? 錆びているが……」
土が盛られた場所に、真っ直ぐ刺さっている錆びた剣は、墓標のようにも見えた。
「はい。神の力が宿るとされる聖剣でございます」
「触れれば命を落とすという、あれか?」
「左様でございます」
勇者の祠や、そこに祀られている聖剣の伝説は、ニール教徒たちの間に広く知れ渡っていた。
勇者の祠に祀られている聖剣を、邪な目的で持ち去ろうとした者たちが、聖剣に触れただけでことごとく命を落としたという伝説は子供でも知っている類の話だった。
「他の聖遺物は移動したのに聖剣だけは残したのは、伝説を恐れてのことか?」
「……」
それまで恭しく返答していたシャミナード枢機卿の反応がなかった。
「……シャミナード?」
リオネルは訝し気に眉を寄せてシャミナード枢機卿を振り返って呼び掛けたが、返事はなかった。
シャミナード枢機卿は茫洋とした眼差しで、その場に人形のように立っていた。
「リオネル、シャミナードには眠ってもらったわ」
リオネルの傍らにいたアンジェリクが、少し悪戯っぽい微笑を浮かべながら言った。
「邪魔されたくなくて……」
「ああ、アンジェリクがやったのか」
仕掛けが解ったとばかりにリオネルは笑うと、アンジェリクに問い掛けた。
「ここが世界の中心で間違いないかい?」
「世界の中心は……」
アンジェリクは言いながら、リオネルに絡めていた腕を解くと聖剣に歩み寄った。
「この聖剣なの」
「聖剣が世界の中心?」
リオネルは首を傾げた。
「そう。この聖剣が世界の中心だから、この聖剣を持って真実の愛を誓うの」
「え……」
リオネルは顔色を悪くした。
「この聖剣、触ったら死ぬんじゃ……?」
聖剣に触れた者が、神の怒りに触れて命を落とす童話は、大抵のニール教徒が子供のころに聞かされて知っている。
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