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14話 聖剣
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「勇者と同じ光属性なら、聖剣を持てるのよ」
アンジェリクは天使の笑顔でリオネルに説明した。
「この剣を引き抜いて命を落とした人たちは属性が違ったの。異属性魔力の強い拒否反応が死因よ。聖剣は凡人には毒なの」
「そういうことだったのか!」
アンジェリクの言葉を、リオネルは素直に飲み込んだ。
「私は凡人ではないからな」
リオネルは不敵な笑みを浮かべた。
「最近は勇者の再来だなんて言われて、騒がれてしまい困っていたところだ。凡人には解らぬ悩みだろうが……」
「リオネルは特別だものね」
「うむ。類稀な光魔法の使い手にもなれてしまった。才能がありすぎてまいってしまうよ」
リオネルは少し照れ臭そうに言った。
「そうよ。リオネルには勇者と同じ特別な才能があるの。リオネルはこの聖剣を持てる特別な人なの」
「よし!」
リオネルは威勢の良い掛け声とともに持っていたランプを足元に置いた。
そして聖剣に近付き、盛り土に刺さっている聖剣の柄に手を置いた。
「これで良いか?」
「聖剣を引き抜いて。剣先を天に向けて、誓いを立てるときのポーズよ」
「よし!」
再び威勢の良い掛け声を上げると、リオネルは聖剣の握りを両手で掴み、思い切り引き上げようとした。
しかし聖剣はびくともしなかった。
「……おかしい。動かない。この聖剣、壊れてるんじゃないか?」
「光魔法を流すのよ」
「なるほど。そういうことか」
リオネルは光魔法を発動させた。
金色の光の粒がリオネルの両手に滲み出し、みるみる輝きを増していく。
「リオネル、もっと思いっきり光魔法を聖剣に流して!」
「まかせろ!」
リオネルの手から金色の粒が光の奔流となり溢れ出した。
その金色の光が、吸い込まれるように聖剣を伝って行く。
ランプの頼りない光で照らされていた祠の中の闇は、リオネルの光魔法の輝きに押され、今や昼のような明るさとなっていた。
「これでどうだ……っ!」
「良いと思うわ。引き抜いてみて」
「よし!」
リオネルは力いっぱい聖剣を引き抜いた。
するりと、聖剣が抜けた。
「やった!」
リオネルは快哉を叫んだ。
――その瞬間。
「……っ!!」
巨大な魔力が爆発するように弾けた。
(な、なんだ?!)
大雨で川の堤が決壊したかのように、突然暴発した巨大な魔力が激流となって渦巻いた。
魔力の激流がリオネルの体に重く伸し掛かる。
巨大な魔力の重みとその流れの激しさに、呼吸すら圧迫された。
聖剣を手にしたままリオネルは魔力の暴風に耐えた。
リオネルが光魔法の発動を停止したので、祠の中は再び闇に沈み、魔力の重圧に苦しんでいるかのように揺らめいているランプの光だけが光源だ。
魂が抜けたように茫洋とした眼差しで呆然と立っているままのシャミナード枢機卿の、その髪や緋色の僧衣が、魔力の強風にはためいている。
――パチン。
――パチ、パチン。
濃密な魔力の大渦の中で、小さな雷があちこちで弾けて音を立てた。
その瞬間の閃光たちが、祠の中の闇をちかちかと青白く照らす。
リオネルは身をかがめ、顔を庇うようにして魔力の激しい流れに耐えていた。
「……!」
雷のような閃光が明滅して、一瞬一瞬、周囲を照らし出す中で、目の前の何かが動いた気がしてリオネルは目を凝らした。
先ほど聖剣を引き抜いた盛り土が動いていた。
埋まっている何かが外へ出ようとしているかのように、下から突き上げられるようにして盛り土が蠢いていた。
未知の恐怖にリオネルは戦慄し、数歩後退った。
「な……!」
突然、蠢いていた盛り土を地中から突き破り、何かが飛び出した。
それは人間の手の形をしていた。
土塊で造ったような茶色の手だ。
「……!!!」
リオネルは声にならない悲鳴を上げ、地面から生えて来た不気味な手を反射的に避けて、後ろへ飛び退いた。
その拍子に足がもつれ後ろに転んだ。
次の瞬間、目の前の盛り土が噴水のように吹き上がり飛び散った。
リオネルは頭を庇うようにして防御の姿勢をとった。
「く……っ!」
盛り土の爆発をやり過ごしたリオネルは顔を上げ、周囲を素早く確認した。
「……っ?!」
リオネルの目の前に生き物のように蠢く物体があった。
聖剣が刺さっていた盛り土があった場所だ。
盛り土があった場所は、巨人の手でえぐられたかのように陥没していた。
そのくぼみの中に溶け崩れた泥の塊のようなものが蠢いている。
人間ほどの大きさの泥塊は、おぼろげに人の形をしていたが、急速に形を整えて泥人形になった。
泥人形からは暴風のように魔力の流れが噴き出している。
(この巨大な魔力は……奴のものか……?!)
リオネルがそう思考を巡らせている間に、泥人形の形と色が変化した。
泥人形は生きている人間の少女のようになった。
魔力の暴風にピンク髪をなびかせているそれは、金色の瞳の美少女。
「ア、アンジェリク……?!」
それはリオネルが愛する少女アンジェリクの姿であった。
だがそれは先ほどまで、溶けた泥の塊のような何かだったものだ。
リオネルの背中を冷たい汗が流れた。
「そうよ。私よ。アンジェリクよ。リオネル、やっと本当に会えたわね」
アンジェリクの形となった泥塊は、にっこりと微笑んだ。
アンジェリクは天使の笑顔でリオネルに説明した。
「この剣を引き抜いて命を落とした人たちは属性が違ったの。異属性魔力の強い拒否反応が死因よ。聖剣は凡人には毒なの」
「そういうことだったのか!」
アンジェリクの言葉を、リオネルは素直に飲み込んだ。
「私は凡人ではないからな」
リオネルは不敵な笑みを浮かべた。
「最近は勇者の再来だなんて言われて、騒がれてしまい困っていたところだ。凡人には解らぬ悩みだろうが……」
「リオネルは特別だものね」
「うむ。類稀な光魔法の使い手にもなれてしまった。才能がありすぎてまいってしまうよ」
リオネルは少し照れ臭そうに言った。
「そうよ。リオネルには勇者と同じ特別な才能があるの。リオネルはこの聖剣を持てる特別な人なの」
「よし!」
リオネルは威勢の良い掛け声とともに持っていたランプを足元に置いた。
そして聖剣に近付き、盛り土に刺さっている聖剣の柄に手を置いた。
「これで良いか?」
「聖剣を引き抜いて。剣先を天に向けて、誓いを立てるときのポーズよ」
「よし!」
再び威勢の良い掛け声を上げると、リオネルは聖剣の握りを両手で掴み、思い切り引き上げようとした。
しかし聖剣はびくともしなかった。
「……おかしい。動かない。この聖剣、壊れてるんじゃないか?」
「光魔法を流すのよ」
「なるほど。そういうことか」
リオネルは光魔法を発動させた。
金色の光の粒がリオネルの両手に滲み出し、みるみる輝きを増していく。
「リオネル、もっと思いっきり光魔法を聖剣に流して!」
「まかせろ!」
リオネルの手から金色の粒が光の奔流となり溢れ出した。
その金色の光が、吸い込まれるように聖剣を伝って行く。
ランプの頼りない光で照らされていた祠の中の闇は、リオネルの光魔法の輝きに押され、今や昼のような明るさとなっていた。
「これでどうだ……っ!」
「良いと思うわ。引き抜いてみて」
「よし!」
リオネルは力いっぱい聖剣を引き抜いた。
するりと、聖剣が抜けた。
「やった!」
リオネルは快哉を叫んだ。
――その瞬間。
「……っ!!」
巨大な魔力が爆発するように弾けた。
(な、なんだ?!)
大雨で川の堤が決壊したかのように、突然暴発した巨大な魔力が激流となって渦巻いた。
魔力の激流がリオネルの体に重く伸し掛かる。
巨大な魔力の重みとその流れの激しさに、呼吸すら圧迫された。
聖剣を手にしたままリオネルは魔力の暴風に耐えた。
リオネルが光魔法の発動を停止したので、祠の中は再び闇に沈み、魔力の重圧に苦しんでいるかのように揺らめいているランプの光だけが光源だ。
魂が抜けたように茫洋とした眼差しで呆然と立っているままのシャミナード枢機卿の、その髪や緋色の僧衣が、魔力の強風にはためいている。
――パチン。
――パチ、パチン。
濃密な魔力の大渦の中で、小さな雷があちこちで弾けて音を立てた。
その瞬間の閃光たちが、祠の中の闇をちかちかと青白く照らす。
リオネルは身をかがめ、顔を庇うようにして魔力の激しい流れに耐えていた。
「……!」
雷のような閃光が明滅して、一瞬一瞬、周囲を照らし出す中で、目の前の何かが動いた気がしてリオネルは目を凝らした。
先ほど聖剣を引き抜いた盛り土が動いていた。
埋まっている何かが外へ出ようとしているかのように、下から突き上げられるようにして盛り土が蠢いていた。
未知の恐怖にリオネルは戦慄し、数歩後退った。
「な……!」
突然、蠢いていた盛り土を地中から突き破り、何かが飛び出した。
それは人間の手の形をしていた。
土塊で造ったような茶色の手だ。
「……!!!」
リオネルは声にならない悲鳴を上げ、地面から生えて来た不気味な手を反射的に避けて、後ろへ飛び退いた。
その拍子に足がもつれ後ろに転んだ。
次の瞬間、目の前の盛り土が噴水のように吹き上がり飛び散った。
リオネルは頭を庇うようにして防御の姿勢をとった。
「く……っ!」
盛り土の爆発をやり過ごしたリオネルは顔を上げ、周囲を素早く確認した。
「……っ?!」
リオネルの目の前に生き物のように蠢く物体があった。
聖剣が刺さっていた盛り土があった場所だ。
盛り土があった場所は、巨人の手でえぐられたかのように陥没していた。
そのくぼみの中に溶け崩れた泥の塊のようなものが蠢いている。
人間ほどの大きさの泥塊は、おぼろげに人の形をしていたが、急速に形を整えて泥人形になった。
泥人形からは暴風のように魔力の流れが噴き出している。
(この巨大な魔力は……奴のものか……?!)
リオネルがそう思考を巡らせている間に、泥人形の形と色が変化した。
泥人形は生きている人間の少女のようになった。
魔力の暴風にピンク髪をなびかせているそれは、金色の瞳の美少女。
「ア、アンジェリク……?!」
それはリオネルが愛する少女アンジェリクの姿であった。
だがそれは先ほどまで、溶けた泥の塊のような何かだったものだ。
リオネルの背中を冷たい汗が流れた。
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アンジェリクの形となった泥塊は、にっこりと微笑んだ。
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