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15話 魔王
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「リオネル、封印を解除してくれてありがとう。貴方ならきっと私を解放してくれると信じていたわ」
ピンク髪に金色の瞳の美少女アンジェリクの形となった泥塊は、幸福を噛みしめるような笑顔でそう言いながらリオネルに歩み寄った。
「本当に、アンジェリク……なのか?」
リオネルが問いかけるとアンジェリクの形をしたそれは、愛らしい天使の微笑で答えた。
「そうよ。今までは霊魂だったけれど、やっと体を取り戻せたわ。リオネル、貴方のおかげよ。骨まで溶かされてここに封印されていたのだけれど。貴方が封印を解いてくれたから体を再生できた」
(……)
リオネルは問題児ではあったが、一応、王子だった男だ。
劣等生ではあったが、魔法学院で学んだ魔法学士の端くれでもあった。
(……これは……非常に不味いのでは……?)
恋に盲目になったり、勉強をさぼったり、安いお世辞に乗せられたり、婚約破棄をしたり……。
数限りないバカをやらかして来たリオネルはまごうことなき愚物ではあったが。
さすがに冗談ではすまされない深刻な非常事態くらいは理解できた。
古文書に記されている失われた古代魔術の魔法泥人形のように、アンジェリクの形になり動き出し、しゃべり出した謎の泥塊。
そしてアンジェリクの形をしたそれから溢れ出している、有り得ない巨大な魔力。
そして……。
「君は、もしや……聖剣に封印されていたのか?」
アンジェリクはかつて、自分は聖女であり魔王に封印されたのだと、そうリオネルに語った。
だがこの状況は、どう見ても、アンジェリクを封印していたのは勇者の聖剣だ。
「そうよ。ニール教にとってはそれは聖剣。私にとっては魔剣だけれど」
「……」
生命の危機に直面したリオネルの本能は、知性を急速に回転させ、記憶から生き延びる術を探そうとしていた。
リオネルの頭の中に、雷光の速さで大量の情報が巡った。
勇者の武器である聖剣は、滅ぼされた側から見たら忌まわしい魔剣といえる。
では勇者の存在は、滅ぼされた側にとっては……。
「……君を封印した魔王というのは、もしや……勇者?」
「そう。ニール教徒には勇者と呼ばれている男よ」
「……っ!」
(アンジェリクが魔王ではないか!!)
此処、テネブラエの地で、勇者が戦った相手は魔王だ。
此処にアンジェリクを聖剣で封印したのが勇者なら、アンジェリクが魔王だ。
勇者が魔王に『勝利した』という聖戦については諸説があり、完全に滅ぼしたという説が主流となっているが、しかし魔王は封印されただけで魔王はまだ生きているという異説もあり、宗教界ではしばしば論争となっていた。
(魔王は封印された説が正解だったのか!)
期せずして、正解を知る術がないと言われていた聖戦の解釈論争の、その正解を知ることができたリオネルは不思議な感動に震えた。
(待て待て、そんなことより、魔王が復活したということは……)
聖戦解釈の正解が明らかになったことよりも、更に重大な事にリオネルは気付いた。
(もしや、世界の危機では……?)
世界の有事かもしれない非常事態に、リオネルは表情を強張らせた。
「リオネル、貴方は私の事を誤解しているわ」
顔色を悪くしているリオネルに、アンジェリクは優しく微笑みかけながら言った。
「私は魔王じゃないわ。聖女よ。私が光属性の魔法を使えることをリオネルは知っているでしょう?」
「……!」
(そういえば……魔王は闇属性だったはず。アンジェリクはどうして光魔法を使えたのだ?)
リオネルの疑問を見透かすようにアンジェリクは答えた。
「私は聖女だもの。光魔法が使えるのは当たり前でしょう。光魔法は勇者だけのものではなかったの。勇者が戦に勝ったから、勇者だけが神に光魔法を与えられたなんていう後付けが出来たのよ」
アンジェリクは皮肉っぽい笑みを口の端に浮かべた。
「私が勝っていたら、勇者が魔王として後世に伝えられていたわ。勝てば官軍って言うでしょう。勝者が敗者を悪者にして、戦いを正当化するために歴史を捏造したの。今の時代でもそれは行われているわ」
「そ、そうだったのか……。たしかにそうだな。勝てば官軍だ」
リオネルは保身のために、アンジェリクの意見を全肯定して相槌を打った。
そして探りを入れた。
「アンジェリク、ひとつ聞きたいんだが、君を封印していたのは聖剣と光魔法だったんだよね。アンジェリクも光魔法が使えるのに、どうして自分で封印の解除ができなかったんだ?」
(魔王を封印する方法を探らねば……!)
「それは体が失われていたからよ。魔力の根源は魂にあるけれど、発動させるには体の回路が必要よ。体が無ければ使えないの」
「アンジェリクは私に力を貸してくれていたのに?」
「リオネルの体の発動回路を借りていたのよ」
アンジェリクは嬉しそうな笑顔を浮かべながらも、照れているようにもじもじとしながら答えた。
「リオネルは私を愛してくれた。そして私を受け入れてくれた。だから憑依できたの……」
アンジェリクは金色の瞳をうるうると潤ませて、熱っぽい視線でリオネルを見つめた。
「リオネルが私に、真実の愛を捧げてくれたおかげよ」
「……」
(もしや私は、今まで、大変な間違いを犯していたのでは……?)
リオネルの顔から血の気が引いた。
ピンク髪に金色の瞳の美少女アンジェリクの形となった泥塊は、幸福を噛みしめるような笑顔でそう言いながらリオネルに歩み寄った。
「本当に、アンジェリク……なのか?」
リオネルが問いかけるとアンジェリクの形をしたそれは、愛らしい天使の微笑で答えた。
「そうよ。今までは霊魂だったけれど、やっと体を取り戻せたわ。リオネル、貴方のおかげよ。骨まで溶かされてここに封印されていたのだけれど。貴方が封印を解いてくれたから体を再生できた」
(……)
リオネルは問題児ではあったが、一応、王子だった男だ。
劣等生ではあったが、魔法学院で学んだ魔法学士の端くれでもあった。
(……これは……非常に不味いのでは……?)
恋に盲目になったり、勉強をさぼったり、安いお世辞に乗せられたり、婚約破棄をしたり……。
数限りないバカをやらかして来たリオネルはまごうことなき愚物ではあったが。
さすがに冗談ではすまされない深刻な非常事態くらいは理解できた。
古文書に記されている失われた古代魔術の魔法泥人形のように、アンジェリクの形になり動き出し、しゃべり出した謎の泥塊。
そしてアンジェリクの形をしたそれから溢れ出している、有り得ない巨大な魔力。
そして……。
「君は、もしや……聖剣に封印されていたのか?」
アンジェリクはかつて、自分は聖女であり魔王に封印されたのだと、そうリオネルに語った。
だがこの状況は、どう見ても、アンジェリクを封印していたのは勇者の聖剣だ。
「そうよ。ニール教にとってはそれは聖剣。私にとっては魔剣だけれど」
「……」
生命の危機に直面したリオネルの本能は、知性を急速に回転させ、記憶から生き延びる術を探そうとしていた。
リオネルの頭の中に、雷光の速さで大量の情報が巡った。
勇者の武器である聖剣は、滅ぼされた側から見たら忌まわしい魔剣といえる。
では勇者の存在は、滅ぼされた側にとっては……。
「……君を封印した魔王というのは、もしや……勇者?」
「そう。ニール教徒には勇者と呼ばれている男よ」
「……っ!」
(アンジェリクが魔王ではないか!!)
此処、テネブラエの地で、勇者が戦った相手は魔王だ。
此処にアンジェリクを聖剣で封印したのが勇者なら、アンジェリクが魔王だ。
勇者が魔王に『勝利した』という聖戦については諸説があり、完全に滅ぼしたという説が主流となっているが、しかし魔王は封印されただけで魔王はまだ生きているという異説もあり、宗教界ではしばしば論争となっていた。
(魔王は封印された説が正解だったのか!)
期せずして、正解を知る術がないと言われていた聖戦の解釈論争の、その正解を知ることができたリオネルは不思議な感動に震えた。
(待て待て、そんなことより、魔王が復活したということは……)
聖戦解釈の正解が明らかになったことよりも、更に重大な事にリオネルは気付いた。
(もしや、世界の危機では……?)
世界の有事かもしれない非常事態に、リオネルは表情を強張らせた。
「リオネル、貴方は私の事を誤解しているわ」
顔色を悪くしているリオネルに、アンジェリクは優しく微笑みかけながら言った。
「私は魔王じゃないわ。聖女よ。私が光属性の魔法を使えることをリオネルは知っているでしょう?」
「……!」
(そういえば……魔王は闇属性だったはず。アンジェリクはどうして光魔法を使えたのだ?)
リオネルの疑問を見透かすようにアンジェリクは答えた。
「私は聖女だもの。光魔法が使えるのは当たり前でしょう。光魔法は勇者だけのものではなかったの。勇者が戦に勝ったから、勇者だけが神に光魔法を与えられたなんていう後付けが出来たのよ」
アンジェリクは皮肉っぽい笑みを口の端に浮かべた。
「私が勝っていたら、勇者が魔王として後世に伝えられていたわ。勝てば官軍って言うでしょう。勝者が敗者を悪者にして、戦いを正当化するために歴史を捏造したの。今の時代でもそれは行われているわ」
「そ、そうだったのか……。たしかにそうだな。勝てば官軍だ」
リオネルは保身のために、アンジェリクの意見を全肯定して相槌を打った。
そして探りを入れた。
「アンジェリク、ひとつ聞きたいんだが、君を封印していたのは聖剣と光魔法だったんだよね。アンジェリクも光魔法が使えるのに、どうして自分で封印の解除ができなかったんだ?」
(魔王を封印する方法を探らねば……!)
「それは体が失われていたからよ。魔力の根源は魂にあるけれど、発動させるには体の回路が必要よ。体が無ければ使えないの」
「アンジェリクは私に力を貸してくれていたのに?」
「リオネルの体の発動回路を借りていたのよ」
アンジェリクは嬉しそうな笑顔を浮かべながらも、照れているようにもじもじとしながら答えた。
「リオネルは私を愛してくれた。そして私を受け入れてくれた。だから憑依できたの……」
アンジェリクは金色の瞳をうるうると潤ませて、熱っぽい視線でリオネルを見つめた。
「リオネルが私に、真実の愛を捧げてくれたおかげよ」
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