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24話 数奇な運命
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「兄上のおかげで領土は増えたけど……」
エルネストはげっそりした顔でぼやいた。
リオネルが教皇に就任したことが原因で、アルカナ王国は西方同盟に加入せざるを得なくなった。
アルカナ王国が西方同盟に加入するや否や、リオネルの結婚が原因での大戦勃発。
そして西方同盟の盟約により、エルネストは援軍を率いて対アロガンティア帝国戦に参戦した。
リオネルの教皇就任以来、エルネストはずっと馬車馬のように走り続けていた。
「さんざんな目にあった……」
「戦争を起こしたの帝国ですわ。リオネル聖下のせいではありません」
「そうかな。兄上に挑発されて、アロガンティア帝国はまんまと戦を起こして、そして呆気なく滅んでしまった。作戦だったんじゃないかな」
「まさか……。だってリオネル聖下ですよ?」
「まあ、兄上には、そんな頭は無いけれど。でも優秀な参謀がいるんじゃないかな。戦争には勝てたから、こちらとしては良い結果だったけれど。騙されたような気分だよ……」
エルネストは眉間に皺を刻んで、考え込むようにしばし沈黙した。
そして、ふと、思い出したようにマリスに言った。
「イシドールとフロランを覚えているかい?」
「リオネル聖下の学生時代の側近だったお二方ですわね。婚約破棄騒動の後、アンフェール要塞の兵士になられた……」
「そう、あの二人。援軍に志願していてね。少し話をしたんだが……」
エルネストは微妙な表情で語った。
「彼らは、学生時代に兄上のアンジェリクの妄想に付き合ってた失態を、武勇伝として語っていた。当時と違って、今や聖女アンジェリクは存在していて、教皇軍の総司令官だったからね。彼らは鼻高々さ。学生時代の、兄上とアンジェリクの思い出話を兵士たちに披露して人気者になっていたよ」
「……祝賀会で婚約破棄された昔が、懐かしいですわ……」
マリスがしみじみとそう言うと、エルネストは感慨深そうにした。
「ああ、懐かしいね。あのころは平和だった。兄上が教皇になって大戦が起こるなんて夢にも知らず、平和に暮らしていた。とんでもない世の中になったものさ。……やっぱり、兄上を国外に出したのが失敗だったのかな……」
「でもあれは止められませんでした」
「そうだよね……。あのとき、甘やかしたりせず幽閉しておけば……こんなことには……」
エルネストは物騒なことを呟きながら、果実水を口に運んだ。
「兄上は王太子だったときは失態ばかりだったのに。聖都へ行ったら教皇に就任して、次々と偉業を成し遂げて、尊敬を集めている。……今の兄上には、私たちよりよほど優秀な側近が付いているのだろうね」
かつて王太子だったリオネルを支えていたエルネストは、甘い果実水を飲みながら苦い物を飲んでいるような顔をした。
「そうですね。私など、聖女アンジェリク猊下には到底及びませんもの」
リオネルの元婚約者だったマリスは、リオネルの妻となったアンジェリクに敗北を感じて苦笑した。
「聖女アンジェリク猊下の光魔法は規格外だよ。彼女の魔力には大抵の者が敗北する。マリスが自分を卑下する必要はないよ」
「いえ、光魔法のことではなく……覚悟といいますか……」
「覚悟?」
「はい」
マリスは少し自嘲気味に微笑んだ。
「アンジェリク猊下は、女性ながら司令官として参戦なさいました。いかに強大な光魔法の使い手とはいえ、女性の身で戦に赴くことは並大抵の覚悟ではありません。仮に私がアンジェリク猊下と同じ力を持っていたとしても、そこまでリオネル聖下に尽くせたかどうか……」
マリスは、ほうっと溜息を吐いた。
「アンジェリク猊下はそれほど、リオネル聖下を深く愛しておられるのですわ」
「美人で最強で愛情深い妻を娶って、兄上は果報者だね」
エルネストは小さく笑った。
「そのうえ兄上は今や教皇聖下だ。生まれながらの王太子で、廃太子されたら教皇になった。失敗したら位が上がったんだ。おかしい。神が依怙贔屓しているとしか思えない。あんな若い教皇は、最初で最後だと思う」
「リオネル聖下は、神に愛されているのでしょうか」
「神の特別な加護があるとしか思えない稀な幸運だ。兄上は、神に愛されるような無欲で清浄な人じゃないのに……。欲望に弱いあの俗物が、どうして……?」
エルネストは腑に落ちないとでも言うように顔を顰めた。
「もしかすると、リオネル聖下は……」
マリスは、ふと、思い至った。
神に愛されるような美点が全く思いあたらないリオネルだったが。
自分たちが知らない場所で、善行を積んでいたのかもしれないと。
「前世で善行を積んでいらしたのかも?」
マリスとエルネストはまだ知らない。
世界はこの後、リオネルを中心に更に大きく形を変えることを。
エルネストはげっそりした顔でぼやいた。
リオネルが教皇に就任したことが原因で、アルカナ王国は西方同盟に加入せざるを得なくなった。
アルカナ王国が西方同盟に加入するや否や、リオネルの結婚が原因での大戦勃発。
そして西方同盟の盟約により、エルネストは援軍を率いて対アロガンティア帝国戦に参戦した。
リオネルの教皇就任以来、エルネストはずっと馬車馬のように走り続けていた。
「さんざんな目にあった……」
「戦争を起こしたの帝国ですわ。リオネル聖下のせいではありません」
「そうかな。兄上に挑発されて、アロガンティア帝国はまんまと戦を起こして、そして呆気なく滅んでしまった。作戦だったんじゃないかな」
「まさか……。だってリオネル聖下ですよ?」
「まあ、兄上には、そんな頭は無いけれど。でも優秀な参謀がいるんじゃないかな。戦争には勝てたから、こちらとしては良い結果だったけれど。騙されたような気分だよ……」
エルネストは眉間に皺を刻んで、考え込むようにしばし沈黙した。
そして、ふと、思い出したようにマリスに言った。
「イシドールとフロランを覚えているかい?」
「リオネル聖下の学生時代の側近だったお二方ですわね。婚約破棄騒動の後、アンフェール要塞の兵士になられた……」
「そう、あの二人。援軍に志願していてね。少し話をしたんだが……」
エルネストは微妙な表情で語った。
「彼らは、学生時代に兄上のアンジェリクの妄想に付き合ってた失態を、武勇伝として語っていた。当時と違って、今や聖女アンジェリクは存在していて、教皇軍の総司令官だったからね。彼らは鼻高々さ。学生時代の、兄上とアンジェリクの思い出話を兵士たちに披露して人気者になっていたよ」
「……祝賀会で婚約破棄された昔が、懐かしいですわ……」
マリスがしみじみとそう言うと、エルネストは感慨深そうにした。
「ああ、懐かしいね。あのころは平和だった。兄上が教皇になって大戦が起こるなんて夢にも知らず、平和に暮らしていた。とんでもない世の中になったものさ。……やっぱり、兄上を国外に出したのが失敗だったのかな……」
「でもあれは止められませんでした」
「そうだよね……。あのとき、甘やかしたりせず幽閉しておけば……こんなことには……」
エルネストは物騒なことを呟きながら、果実水を口に運んだ。
「兄上は王太子だったときは失態ばかりだったのに。聖都へ行ったら教皇に就任して、次々と偉業を成し遂げて、尊敬を集めている。……今の兄上には、私たちよりよほど優秀な側近が付いているのだろうね」
かつて王太子だったリオネルを支えていたエルネストは、甘い果実水を飲みながら苦い物を飲んでいるような顔をした。
「そうですね。私など、聖女アンジェリク猊下には到底及びませんもの」
リオネルの元婚約者だったマリスは、リオネルの妻となったアンジェリクに敗北を感じて苦笑した。
「聖女アンジェリク猊下の光魔法は規格外だよ。彼女の魔力には大抵の者が敗北する。マリスが自分を卑下する必要はないよ」
「いえ、光魔法のことではなく……覚悟といいますか……」
「覚悟?」
「はい」
マリスは少し自嘲気味に微笑んだ。
「アンジェリク猊下は、女性ながら司令官として参戦なさいました。いかに強大な光魔法の使い手とはいえ、女性の身で戦に赴くことは並大抵の覚悟ではありません。仮に私がアンジェリク猊下と同じ力を持っていたとしても、そこまでリオネル聖下に尽くせたかどうか……」
マリスは、ほうっと溜息を吐いた。
「アンジェリク猊下はそれほど、リオネル聖下を深く愛しておられるのですわ」
「美人で最強で愛情深い妻を娶って、兄上は果報者だね」
エルネストは小さく笑った。
「そのうえ兄上は今や教皇聖下だ。生まれながらの王太子で、廃太子されたら教皇になった。失敗したら位が上がったんだ。おかしい。神が依怙贔屓しているとしか思えない。あんな若い教皇は、最初で最後だと思う」
「リオネル聖下は、神に愛されているのでしょうか」
「神の特別な加護があるとしか思えない稀な幸運だ。兄上は、神に愛されるような無欲で清浄な人じゃないのに……。欲望に弱いあの俗物が、どうして……?」
エルネストは腑に落ちないとでも言うように顔を顰めた。
「もしかすると、リオネル聖下は……」
マリスは、ふと、思い至った。
神に愛されるような美点が全く思いあたらないリオネルだったが。
自分たちが知らない場所で、善行を積んでいたのかもしれないと。
「前世で善行を積んでいらしたのかも?」
マリスとエルネストはまだ知らない。
世界はこの後、リオネルを中心に更に大きく形を変えることを。
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