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最終話 大団円
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「あの猿楽師の鳶が、先帝の第十三皇子、鳶爾油揚皇子だったなんて。驚きました」
摩利子がそう言うと、得根須人皇子は顔を顰めた。
「いけ好かない男だ。あんな男が叔父だったなんて。こんなことになるなら摩利子の身分を言うのではなかった」
現在、摩利子には連日、猿楽師の鳶こと鳶爾油揚皇子から文と花が届いていた。
平たく言えば、結婚の申し込みだ。
猿楽師に扮していた鳶爾油揚皇子は、二蛭神社で摩利子を見染めたのだった。
摩利子の父である右大臣は、摩利子が好いたほうに嫁がせると、得根須人皇子と鳶爾油揚皇子の双方に伝えていた。
次代の帝となる可能性が高い得根須人皇子と、朝廷に強い影響力をもつ先帝に溺愛されている鳶爾油揚皇子は、右大臣にとってはどちらも良縁であったので、選択権を摩利子に与えたのだ。
右大臣の一門、文数取家には、摩利子の他にも娘がいるため、もし摩利子が鳶爾油揚皇子を選んだ場合、得根須人皇子には別の娘を入内させれば良い。
もちろん、摩利子がもし得根須人皇子を選んだら、右大臣は一門の別の娘を鳶爾油揚皇子に紹介する腹積もりだ。
「摩利子殿、今日こそ色好い返事を聞かせてほしい。私と結婚してくれ」
「得根須人皇子は、私の気持ちをすでにご存知なのではありませんか?」
「はっきりと聞かせて欲しい。思いつめた鳶が摩利子を攫いに来るかもしれない。毎日気が気ではない。私を安心させてくれ。結婚してくれ」
得根須人皇子の熱烈な求婚に、摩利子は扇で顔を隠した。
そして返事をした。
「はい。私は得根須人皇子と結婚いたします」
「やった!」
得根須人皇子は飛び上がり、勝鬨をあげた。
「鳶に勝った!」
天に向かってそう叫んだ得根須人皇子は、ぱっと摩利子を振り向き膝をついた。
そして摩利子の手を取った。
「摩利子殿、必ず幸せにするよ」
――良き日。
摩利子は得根須人皇子と結婚した。
二人は仲睦まじい夫婦となった。
時折、摩利子が参加した宴で鳶爾油揚皇子が何か仕掛けてきたり、先帝が政治力を使って得根須人皇子に難問を担わせることはあったが。
概ね平穏に暮らした。
そんなある日。
その知らせは届いた。
「璃王練皇子が海賊の討伐を?!」
「うん。兄者はお抱えの武士たちを率いて、海峡を荒らしていた海賊団を一網打尽にしたそうだ」
丁寧降江は貴人の流刑地だったが。
その海は、海路の要所であるため航行する船は多い。
そのため海賊も多く出没する地だった。
「人違いではないのですか?」
典型的な都の貴人だった璃王練皇子は、麗しく雅だったが、線が細く、戦闘には向かないタイプだった。
「兄者はあちらでは益荒男として名高いらしい」
「璃王練皇子が……益荒男?!」
「優秀な部下がいて、兄者に花を持たせてくれているんじゃないかな。神輿として担ぐには兄者は最適だと思うよ。帝の第一皇子で、あの見た目だから」
「そういうことですか」
摩利子は納得した。
「璃王練皇子は、あちらの皆様に愛されておいでなのですね」
「そういう考え方もあるね。……奔放な兄者には、堅苦しい朝廷よりも、自由な地方のほうが合っていたのかもしれない。兄者の元側近だった石徹と風呂蘭は、安笛流から丁寧降江への移動が認められて、今は兄者の武士団にいるらしいよ」
「安寿利休は息災でしょうか」
「息災だよ。兄者と安寿利休は、おしどり夫婦として丁寧降江では有名らしい」
「まあ!」
吉報に、摩利子は顔をほころばせた。
「さすがは真実の愛ですわ!」
――完――
摩利子がそう言うと、得根須人皇子は顔を顰めた。
「いけ好かない男だ。あんな男が叔父だったなんて。こんなことになるなら摩利子の身分を言うのではなかった」
現在、摩利子には連日、猿楽師の鳶こと鳶爾油揚皇子から文と花が届いていた。
平たく言えば、結婚の申し込みだ。
猿楽師に扮していた鳶爾油揚皇子は、二蛭神社で摩利子を見染めたのだった。
摩利子の父である右大臣は、摩利子が好いたほうに嫁がせると、得根須人皇子と鳶爾油揚皇子の双方に伝えていた。
次代の帝となる可能性が高い得根須人皇子と、朝廷に強い影響力をもつ先帝に溺愛されている鳶爾油揚皇子は、右大臣にとってはどちらも良縁であったので、選択権を摩利子に与えたのだ。
右大臣の一門、文数取家には、摩利子の他にも娘がいるため、もし摩利子が鳶爾油揚皇子を選んだ場合、得根須人皇子には別の娘を入内させれば良い。
もちろん、摩利子がもし得根須人皇子を選んだら、右大臣は一門の別の娘を鳶爾油揚皇子に紹介する腹積もりだ。
「摩利子殿、今日こそ色好い返事を聞かせてほしい。私と結婚してくれ」
「得根須人皇子は、私の気持ちをすでにご存知なのではありませんか?」
「はっきりと聞かせて欲しい。思いつめた鳶が摩利子を攫いに来るかもしれない。毎日気が気ではない。私を安心させてくれ。結婚してくれ」
得根須人皇子の熱烈な求婚に、摩利子は扇で顔を隠した。
そして返事をした。
「はい。私は得根須人皇子と結婚いたします」
「やった!」
得根須人皇子は飛び上がり、勝鬨をあげた。
「鳶に勝った!」
天に向かってそう叫んだ得根須人皇子は、ぱっと摩利子を振り向き膝をついた。
そして摩利子の手を取った。
「摩利子殿、必ず幸せにするよ」
――良き日。
摩利子は得根須人皇子と結婚した。
二人は仲睦まじい夫婦となった。
時折、摩利子が参加した宴で鳶爾油揚皇子が何か仕掛けてきたり、先帝が政治力を使って得根須人皇子に難問を担わせることはあったが。
概ね平穏に暮らした。
そんなある日。
その知らせは届いた。
「璃王練皇子が海賊の討伐を?!」
「うん。兄者はお抱えの武士たちを率いて、海峡を荒らしていた海賊団を一網打尽にしたそうだ」
丁寧降江は貴人の流刑地だったが。
その海は、海路の要所であるため航行する船は多い。
そのため海賊も多く出没する地だった。
「人違いではないのですか?」
典型的な都の貴人だった璃王練皇子は、麗しく雅だったが、線が細く、戦闘には向かないタイプだった。
「兄者はあちらでは益荒男として名高いらしい」
「璃王練皇子が……益荒男?!」
「優秀な部下がいて、兄者に花を持たせてくれているんじゃないかな。神輿として担ぐには兄者は最適だと思うよ。帝の第一皇子で、あの見た目だから」
「そういうことですか」
摩利子は納得した。
「璃王練皇子は、あちらの皆様に愛されておいでなのですね」
「そういう考え方もあるね。……奔放な兄者には、堅苦しい朝廷よりも、自由な地方のほうが合っていたのかもしれない。兄者の元側近だった石徹と風呂蘭は、安笛流から丁寧降江への移動が認められて、今は兄者の武士団にいるらしいよ」
「安寿利休は息災でしょうか」
「息災だよ。兄者と安寿利休は、おしどり夫婦として丁寧降江では有名らしい」
「まあ!」
吉報に、摩利子は顔をほころばせた。
「さすがは真実の愛ですわ!」
――完――
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