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日常編3・転校生はテンプレ的な美少女? おまけのアッパー少女
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ガラガラガラガラ………ピシャリ。
「よっと、HR始めるから席に着きな。立ってる奴から学級委員にしていくからな。ほら、効率よく分担して課題提出しにきな。出席番号順で持って来てくれ」
勢い良く、ドアを開けて入ってきた長めのボブカットの眼鏡をした女性は去年と同じ我が担任、凪琴美。現国担当の容姿端麗、ナイスバディで黒のスーツが映えている。
だが、見かけに騙されてはいけない。この凪教諭は、悪いことをするとすぐに拳骨で殴ってくる暴力教師なのだ。そのボーイッシュな性格から生徒たちには慕われているがな。
昨年、俺と隼人は遅刻やその他諸々の件で拳骨やら罰掃除やら果ては生徒指導室でお説教と色々面倒を見てもらったのだ。
「おーい、浩之」
「あん? なんだよ?」
不意に横の方から呼ばれて振り向くと一列越しに隼人の姿があった。というか、このクラス俺の知っている奴があまりにも少なすぎるんだが。去年同じクラスだったような奴らはチラホラ居るが、はっきりと名前を思い出せない。
「優香ちゃん、隣のクラスだってよ。F組! くぅ…何故、神は我らを一緒のクラスにさせたまわれなかった!」
「…………」
俺はトリップしてる馬鹿を放って前に向き直る。こいつは多分二時間目の終わりぐらいまでそうやってるだろう。
「さて、課題も集め終わったな。あぁ、それで……五月蠅いぞ、隼人! ……っと、それでだな、この度うちのクラスに転校生が編入される運びとなった。喜べ男子、女の子だぞ……って、いい加減静かにしろ隼人!」
何度も注意されたため、いい加減隼人も落ち着き、クラス内に静寂が訪れる。
「……ん、じゃぁ、入ってきてもらおうか。柚繰、入ってきてくれ」
パン、パン、と手を叩いて転校生の入室を促す凪教諭。動物じゃあるまいし、名前だけ呼べば入ってくるだろうと思うのだが。
ガラガラガラガラ……ガタン。
呼ばれた女生徒は教室のドアを開けて颯爽と歩いてくる。その女生徒に俺は不覚にも目を奪われてしまった。
背は……多分、百六十前後と思わしき細身の身体にスラリとした手足。可愛いというよりは綺麗という形容が当てはまる彫りの深い凛々しい顔立ちに、肩より少し長めに切られた段違いでカットされているつやのある綺麗な髪。印象的なのは人を吸いよせるような光沢をもった目だ。深く切れ込んだ眦のため大きく見える瞳がそんな印象を与えるのかもしれない。その……何だかんだ言いつつも簡単に言えば物凄い美人でドキドキしちゃったよ、ということなのだが。
そこで俺は我に帰り一列飛ばして向こうの隼人を見やる。こいつは天が裂けようとも地が割れようとも優香一筋、という一昔前の漢ッ的な奴なのだがこんな美人を目の前にした感慨はどんなものか奴の表情を盗み見る。が、そこには机に突っ伏しながら悶えている馬鹿の姿があった。容易に想像できるが、奴の頭の中では今現在、隼人自身を中心とした大岡裁きが行われているに違いない。どちらが勝つのかは知らないが、苦悩の声を周囲に撒き散らすのは迷惑なので止めてもらいたいものだ。
カッカッカッカッ……
チョークが黒板を滑る音がして、板面に彼女の名前らしきものが書き込まれる。
柚繰藍。凪教諭によって黒板にはそう書かれていた。
「趣味や嗜好なんかは本人に聞け。男子ども、間違ってもセクハラなんかするんじゃないぞ? じゃ、柚繰軽く挨拶頼む」
凪教諭が柚繰という女性徒に続きを促す。それを受け柚繰が小さく首を動かして頷くとぎりぎり聞き取れるような小さな声で、
「柚繰藍です。……よろしく」
と、至極簡単に自己紹介した。一斉に周囲から野太い黄色い声があがる。柚繰の声は外見通り、玲瓏としていてとても綺麗な声だった。……若干冷たい感はあるが。
「うむ、仲良くしてやれよみんな。それで柚繰、席なんだが……あそこにいる社会に反抗するような目つきをした男の隣な」
凪教諭が指を差すので後ろを見やるが、生憎な事にその方向には男子生徒は俺しかいない。どうやらその反社会的な目の男とは俺自身のことらしい。いくらなんでもそれはひどい評価だ。
「自分の生徒をよくもまぁ……」
「五月蝿い、私の生徒とは善良な生徒のことを言うんだ。お前らはどう転んでも善良とは言えないだろう? お前ら二人は問題児というんだ」
にべもなく凪教諭は指を差してのたまう。何時の間に正気に戻ったのか、隼人はガハハハハ、と俺を指差して笑っていたが、寛大な俺は二人の内の片割れだということを心の中で忠告しておいた。
「あの人の……隣ですね?」
それまで黙っていた柚繰が再び言葉を発した。ていうか、納得しちゃったのか柚繰さんよ。
「あぁ、そうだ。……気をつけてな」
「……おいおい、気をつけてってどういう意味だい、琴セン?」
「言ったとおりの意味だよ、座ってくれ柚繰。じゃぁ、次は委員決めと係決めな」
凪教諭、通称琴センは俺の抗議を全く無視して次の議題に移る。
「くそぅ…言いたい放題言いやがって……」
琴センのあんまりな言い草に俺は地団駄を踏むが誰も気に止めてくれない。唯一、大笑いしている隼人が居るが、奴は同類だということにさえ気づいていないので却下だ。
ガタガタと隣で椅子を引く音が聞こえる。そこはHR開始時から空いていた窓際の空席で、現在そこには美少女転校生柚繰藍が腰を降ろしていた。
「む、よろしくな柚繰。巻坂浩之だ。分からないことがあったら何でも聞いてくれぃ」
「……ありがとう」
柚繰はさらりと前髪を揺らしながら振り向き、とても小さな声で返答すると前を向いてしまった。もう少しなんかあってもいいだろうとも思ったが、振り向き方が俺の心臓に直撃したので許してしまった。
それっきり柚繰はこちらを向かず、こちらとしても話題がないので話しかけることも無く一限のLHRは終了。まぁ、転校初日なんて緊張やら何やらでこんなもんなんだろうと変なところで納得してしまった。
HRから続けての一限が終わると、それまでガハハハ、と大笑いしていた隼人が寄ってくる。
「おぅ、浩之。転校生が隣なんて新学期早々ラッキーじゃねぇか。ったく、幸運オーラがドバドバと身体から溢れておるわい……」
近づいて来た隼人はイッヒッヒ、と笑いながら悪態を吐くという奇妙な芸を披露してきた。でかい図体で中々に器用な奴だ。そのまま俺の机に取り付き、机を前後左右に揺さぶる。小学生かこいつは……。
「……溢れてたらもったいないだろ」
溢れるほどの幸運は満喫していない。大体、今だって女子の大群に囲まれて騒々しい隣に割と辟易しているのだが。
「優香ちゃんと幼馴染というだけでそれ以上の幸運はありえまい。過ぎた幸福は身体に毒だぞ」
あくまでもこの男は優香至上主義らしい。脳内大岡裁きは優香に軍配があがったようだ。全く……世の男共といい隼人といい一体優香のどこを見れば恋に火が着くんだか……。
「……代わりたいならいつでも代わるぞ」
俺は軽く溜め息を吐きながらそう言った。そして思い知るがいい、貴様の妄想が幻想だったということを。
グフフフフ、と代打幼馴染の想像をして喜色の笑みを気色悪く浮かべる隼人。まぁ、こんな気持ち悪い奴は放置しておくが……次は、部活動紹介か。
「運動部ならまだしも……文化部なんてどうやって紹介しろっていうんだか……」
文化部でも調理部や吹奏楽部といった部なら実演すればそれなりに盛り上がるだろうに、文芸部って。……詩の朗読でもするのだろうか?
「参ったな……詩の用意なんかしていないんだが……」
「――……キミに詩は似合わないね」
コツンと頭を軽く小突かれる。な、何奴……!
「あはは、相変わらず不機嫌そうな顔しちゃってさ。春休み中何してたんだい? 二人とも来ないからアタシは寂しくて寂しくて……さめざめ……」
はらはらと泣きまねを披露しながらバシバシ隼人の背中を叩いているテンションの高い女生徒。ちなみに隼人は想像を逞しく妄想に変貌させながら夢を見る顔をしているので全く気付いていない。
唐突に現れたこのアッパーテンションな女子高生。背の高さはレッド総帥とタメを張るぐらい小さいがその分、反比例の如くちょこまかと元気だ。くりっとした目はまさに小動物を思わせる。この小動物もとい少女は学名を池澤春菜という我が校の文芸部が産んだリベラルガールだ。背が低いことにコンプレックスを抱いているようだが、お前が気にする所はそこじゃないだろ、と今日も眼下にあるつむじを押す毎日。
「……おぅ、久しぶりだな春菜。相変わらず、唐突に現れるな……悪い、春休み中顔出さなくてさ」
「ホントだよ、もう。どうせ怠惰な日々を謳歌してたんでしょ? これぞ、青春の無駄遣い。リサイクルしてやるからアタシに回してよ」
エコ、エコ、と隼人と一緒に机を揺らし始める春菜。……何時からここは託児所になったのだろう?
「そういえば春菜」
「ん? エコ?」
キラキラした目で俺を見上げてくる春菜。……そう、背が低い云々よりこいつは少々頭が弱い子なのだ。
「いや、エコはもういいから……文芸部は部活動紹介でどんなことやるんだ?」
「文芸部はって……他人事のように言って、キミ達も部員なんだよ?」
机から離れ背丈に比例して薄い胸を反らして上から俺たちを見下ろそうとするが、椅子に座った俺と目線に大差が無いのが残念なところだ。
「いやまぁ、事実他人なみに知らないからな。部活動紹介に参加するとして俺達は一体壇上で何をすればいいんだ?」
「事実も何も部活に出ないから……って、二人とも部活動紹介出てくれるの!?」
「その通ーーーりっ!!」
今まで妄想に溺れていたマイフレンドが突如真面目な顔して復活。春菜と並ぶとまるで親子のようだ。
「何故ならっ! 優香ちゃんにぃぃっ! 頑張ってと応援されたからだぁぁぁっ!!!」
「うっさいよ、片思い野郎! ……アタシはね、今猛烈に感動しているんだ! 春休みに一度も顔を見せないような淡泊メンが……かたや不良、かたや不機嫌面が自分から表舞台に立ちたいなんて……! 母さん諦めなかった甲斐があったわぁ」
ハラショー、ハラショーと万歳を繰り返す春菜。隼人も感極まったのか何故か一緒に万歳を繰り返している。ていうか、不機嫌面って割とショックだぞ。
「……ん?」
ふと、横合いから視線を感じて視線の主を探す。はて……どなたさんの視線?
「……あ」
「………………」
キョロキョロと辺りを見回していると、好奇心旺盛な学生に囲まれた柚繰の視線が、人垣の合間を通して気怠げな視線でジッとこちらを見ていた。
な、なんだ……? ていうか、やっぱりいいなぁ……転校生って……響きがいいよね、うん。などと、俺はしょうもないことを考えながら、ぼーっと柚繰を眺めていた。
その内、ふいっと柚繰の視線が俺から外れる。当然だ、柚繰が俺を見続けている理由が無い。
『ハラショー! ハラショー!』
我に返ると未だに素晴らしき事を叫び続けているバカ二人。
「…………ハァ」
俺は色んな意味で問題児二人を眺めながら並々ならぬ重い溜め息を吐くのだった。
「よっと、HR始めるから席に着きな。立ってる奴から学級委員にしていくからな。ほら、効率よく分担して課題提出しにきな。出席番号順で持って来てくれ」
勢い良く、ドアを開けて入ってきた長めのボブカットの眼鏡をした女性は去年と同じ我が担任、凪琴美。現国担当の容姿端麗、ナイスバディで黒のスーツが映えている。
だが、見かけに騙されてはいけない。この凪教諭は、悪いことをするとすぐに拳骨で殴ってくる暴力教師なのだ。そのボーイッシュな性格から生徒たちには慕われているがな。
昨年、俺と隼人は遅刻やその他諸々の件で拳骨やら罰掃除やら果ては生徒指導室でお説教と色々面倒を見てもらったのだ。
「おーい、浩之」
「あん? なんだよ?」
不意に横の方から呼ばれて振り向くと一列越しに隼人の姿があった。というか、このクラス俺の知っている奴があまりにも少なすぎるんだが。去年同じクラスだったような奴らはチラホラ居るが、はっきりと名前を思い出せない。
「優香ちゃん、隣のクラスだってよ。F組! くぅ…何故、神は我らを一緒のクラスにさせたまわれなかった!」
「…………」
俺はトリップしてる馬鹿を放って前に向き直る。こいつは多分二時間目の終わりぐらいまでそうやってるだろう。
「さて、課題も集め終わったな。あぁ、それで……五月蠅いぞ、隼人! ……っと、それでだな、この度うちのクラスに転校生が編入される運びとなった。喜べ男子、女の子だぞ……って、いい加減静かにしろ隼人!」
何度も注意されたため、いい加減隼人も落ち着き、クラス内に静寂が訪れる。
「……ん、じゃぁ、入ってきてもらおうか。柚繰、入ってきてくれ」
パン、パン、と手を叩いて転校生の入室を促す凪教諭。動物じゃあるまいし、名前だけ呼べば入ってくるだろうと思うのだが。
ガラガラガラガラ……ガタン。
呼ばれた女生徒は教室のドアを開けて颯爽と歩いてくる。その女生徒に俺は不覚にも目を奪われてしまった。
背は……多分、百六十前後と思わしき細身の身体にスラリとした手足。可愛いというよりは綺麗という形容が当てはまる彫りの深い凛々しい顔立ちに、肩より少し長めに切られた段違いでカットされているつやのある綺麗な髪。印象的なのは人を吸いよせるような光沢をもった目だ。深く切れ込んだ眦のため大きく見える瞳がそんな印象を与えるのかもしれない。その……何だかんだ言いつつも簡単に言えば物凄い美人でドキドキしちゃったよ、ということなのだが。
そこで俺は我に帰り一列飛ばして向こうの隼人を見やる。こいつは天が裂けようとも地が割れようとも優香一筋、という一昔前の漢ッ的な奴なのだがこんな美人を目の前にした感慨はどんなものか奴の表情を盗み見る。が、そこには机に突っ伏しながら悶えている馬鹿の姿があった。容易に想像できるが、奴の頭の中では今現在、隼人自身を中心とした大岡裁きが行われているに違いない。どちらが勝つのかは知らないが、苦悩の声を周囲に撒き散らすのは迷惑なので止めてもらいたいものだ。
カッカッカッカッ……
チョークが黒板を滑る音がして、板面に彼女の名前らしきものが書き込まれる。
柚繰藍。凪教諭によって黒板にはそう書かれていた。
「趣味や嗜好なんかは本人に聞け。男子ども、間違ってもセクハラなんかするんじゃないぞ? じゃ、柚繰軽く挨拶頼む」
凪教諭が柚繰という女性徒に続きを促す。それを受け柚繰が小さく首を動かして頷くとぎりぎり聞き取れるような小さな声で、
「柚繰藍です。……よろしく」
と、至極簡単に自己紹介した。一斉に周囲から野太い黄色い声があがる。柚繰の声は外見通り、玲瓏としていてとても綺麗な声だった。……若干冷たい感はあるが。
「うむ、仲良くしてやれよみんな。それで柚繰、席なんだが……あそこにいる社会に反抗するような目つきをした男の隣な」
凪教諭が指を差すので後ろを見やるが、生憎な事にその方向には男子生徒は俺しかいない。どうやらその反社会的な目の男とは俺自身のことらしい。いくらなんでもそれはひどい評価だ。
「自分の生徒をよくもまぁ……」
「五月蝿い、私の生徒とは善良な生徒のことを言うんだ。お前らはどう転んでも善良とは言えないだろう? お前ら二人は問題児というんだ」
にべもなく凪教諭は指を差してのたまう。何時の間に正気に戻ったのか、隼人はガハハハハ、と俺を指差して笑っていたが、寛大な俺は二人の内の片割れだということを心の中で忠告しておいた。
「あの人の……隣ですね?」
それまで黙っていた柚繰が再び言葉を発した。ていうか、納得しちゃったのか柚繰さんよ。
「あぁ、そうだ。……気をつけてな」
「……おいおい、気をつけてってどういう意味だい、琴セン?」
「言ったとおりの意味だよ、座ってくれ柚繰。じゃぁ、次は委員決めと係決めな」
凪教諭、通称琴センは俺の抗議を全く無視して次の議題に移る。
「くそぅ…言いたい放題言いやがって……」
琴センのあんまりな言い草に俺は地団駄を踏むが誰も気に止めてくれない。唯一、大笑いしている隼人が居るが、奴は同類だということにさえ気づいていないので却下だ。
ガタガタと隣で椅子を引く音が聞こえる。そこはHR開始時から空いていた窓際の空席で、現在そこには美少女転校生柚繰藍が腰を降ろしていた。
「む、よろしくな柚繰。巻坂浩之だ。分からないことがあったら何でも聞いてくれぃ」
「……ありがとう」
柚繰はさらりと前髪を揺らしながら振り向き、とても小さな声で返答すると前を向いてしまった。もう少しなんかあってもいいだろうとも思ったが、振り向き方が俺の心臓に直撃したので許してしまった。
それっきり柚繰はこちらを向かず、こちらとしても話題がないので話しかけることも無く一限のLHRは終了。まぁ、転校初日なんて緊張やら何やらでこんなもんなんだろうと変なところで納得してしまった。
HRから続けての一限が終わると、それまでガハハハ、と大笑いしていた隼人が寄ってくる。
「おぅ、浩之。転校生が隣なんて新学期早々ラッキーじゃねぇか。ったく、幸運オーラがドバドバと身体から溢れておるわい……」
近づいて来た隼人はイッヒッヒ、と笑いながら悪態を吐くという奇妙な芸を披露してきた。でかい図体で中々に器用な奴だ。そのまま俺の机に取り付き、机を前後左右に揺さぶる。小学生かこいつは……。
「……溢れてたらもったいないだろ」
溢れるほどの幸運は満喫していない。大体、今だって女子の大群に囲まれて騒々しい隣に割と辟易しているのだが。
「優香ちゃんと幼馴染というだけでそれ以上の幸運はありえまい。過ぎた幸福は身体に毒だぞ」
あくまでもこの男は優香至上主義らしい。脳内大岡裁きは優香に軍配があがったようだ。全く……世の男共といい隼人といい一体優香のどこを見れば恋に火が着くんだか……。
「……代わりたいならいつでも代わるぞ」
俺は軽く溜め息を吐きながらそう言った。そして思い知るがいい、貴様の妄想が幻想だったということを。
グフフフフ、と代打幼馴染の想像をして喜色の笑みを気色悪く浮かべる隼人。まぁ、こんな気持ち悪い奴は放置しておくが……次は、部活動紹介か。
「運動部ならまだしも……文化部なんてどうやって紹介しろっていうんだか……」
文化部でも調理部や吹奏楽部といった部なら実演すればそれなりに盛り上がるだろうに、文芸部って。……詩の朗読でもするのだろうか?
「参ったな……詩の用意なんかしていないんだが……」
「――……キミに詩は似合わないね」
コツンと頭を軽く小突かれる。な、何奴……!
「あはは、相変わらず不機嫌そうな顔しちゃってさ。春休み中何してたんだい? 二人とも来ないからアタシは寂しくて寂しくて……さめざめ……」
はらはらと泣きまねを披露しながらバシバシ隼人の背中を叩いているテンションの高い女生徒。ちなみに隼人は想像を逞しく妄想に変貌させながら夢を見る顔をしているので全く気付いていない。
唐突に現れたこのアッパーテンションな女子高生。背の高さはレッド総帥とタメを張るぐらい小さいがその分、反比例の如くちょこまかと元気だ。くりっとした目はまさに小動物を思わせる。この小動物もとい少女は学名を池澤春菜という我が校の文芸部が産んだリベラルガールだ。背が低いことにコンプレックスを抱いているようだが、お前が気にする所はそこじゃないだろ、と今日も眼下にあるつむじを押す毎日。
「……おぅ、久しぶりだな春菜。相変わらず、唐突に現れるな……悪い、春休み中顔出さなくてさ」
「ホントだよ、もう。どうせ怠惰な日々を謳歌してたんでしょ? これぞ、青春の無駄遣い。リサイクルしてやるからアタシに回してよ」
エコ、エコ、と隼人と一緒に机を揺らし始める春菜。……何時からここは託児所になったのだろう?
「そういえば春菜」
「ん? エコ?」
キラキラした目で俺を見上げてくる春菜。……そう、背が低い云々よりこいつは少々頭が弱い子なのだ。
「いや、エコはもういいから……文芸部は部活動紹介でどんなことやるんだ?」
「文芸部はって……他人事のように言って、キミ達も部員なんだよ?」
机から離れ背丈に比例して薄い胸を反らして上から俺たちを見下ろそうとするが、椅子に座った俺と目線に大差が無いのが残念なところだ。
「いやまぁ、事実他人なみに知らないからな。部活動紹介に参加するとして俺達は一体壇上で何をすればいいんだ?」
「事実も何も部活に出ないから……って、二人とも部活動紹介出てくれるの!?」
「その通ーーーりっ!!」
今まで妄想に溺れていたマイフレンドが突如真面目な顔して復活。春菜と並ぶとまるで親子のようだ。
「何故ならっ! 優香ちゃんにぃぃっ! 頑張ってと応援されたからだぁぁぁっ!!!」
「うっさいよ、片思い野郎! ……アタシはね、今猛烈に感動しているんだ! 春休みに一度も顔を見せないような淡泊メンが……かたや不良、かたや不機嫌面が自分から表舞台に立ちたいなんて……! 母さん諦めなかった甲斐があったわぁ」
ハラショー、ハラショーと万歳を繰り返す春菜。隼人も感極まったのか何故か一緒に万歳を繰り返している。ていうか、不機嫌面って割とショックだぞ。
「……ん?」
ふと、横合いから視線を感じて視線の主を探す。はて……どなたさんの視線?
「……あ」
「………………」
キョロキョロと辺りを見回していると、好奇心旺盛な学生に囲まれた柚繰の視線が、人垣の合間を通して気怠げな視線でジッとこちらを見ていた。
な、なんだ……? ていうか、やっぱりいいなぁ……転校生って……響きがいいよね、うん。などと、俺はしょうもないことを考えながら、ぼーっと柚繰を眺めていた。
その内、ふいっと柚繰の視線が俺から外れる。当然だ、柚繰が俺を見続けている理由が無い。
『ハラショー! ハラショー!』
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