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第1章 獣の檻
第29話 冷静と情熱
しおりを挟む思っていたよりも順調にことが運んで、翠蓮はほっとしていた。琰単が想像よりもはるかに簡単に堕ちたこと、そして訓練の甲斐あって渓青にお墨付きを貰えたこと。
「本当にお疲れ様でした。今日は……そうですね、点数をつけるなら百点満点で九十五点くらいでしょうか」
渓青からの思わぬ高評価に翠蓮は喜んだが、ふとひっかかった。
「……残りの五点が引かれた理由は?」
「最後のほう、喘ぎ声がおざなりになってませんでした?」
「……うっ…………」
ひそかに思っていたことをずばり言い当てられて、翠蓮は言葉を詰まらせた。途中から翠蓮は、「適当にいく、いくと連呼していれば琰単は十分満足するのではないか」ということに気づいてしまい、後ろから貫かれて琰単からは顔が見えないのをいいことに、ある意味機械的に喘いでいた。
「お気持ちは十分分かりますが、最後まで気を抜かれませんように」
「はぁーい……」
まったく渓青の鋭さにはかなわない、と翠蓮は嘆息した。渓青は当の翠蓮よりも早く、翠蓮の変化に気づくのだ。
「渓青、遅い時間にすみませんが、湯浴みの用意をもう一度してもらえますか?」
「はい。すでに命じてあります。では……湯が届くまでに中を綺麗にしておきましょうか」
そういうと渓青はころんと翠蓮を寝台の上で四つん這いにさせた。翠蓮が抵抗する間もなく夜着は剥ぎとられ、ぐちょぐちょに乱れきった秘部が露わにされて翠蓮は息を飲む。
「ちょっ、渓青……っ」
「……避妊薬は予め服用されていましたが、念のために掻き出しておきませんと。今、万が一にも妊娠などされたら厄介なことになってしまいます」
「ん、んんっ……!」
つぷり、と渓青の指が挿しこまれ、言葉どおり翠蓮の中に溜まっていたものが藍月漿とともにこぼれ落ちる。渓青はそれを片手で受けながら冷静に告げた。
「……東宮殿下の精液はあまり状態が良くありませんね」
「……そんなことまで分かるのですか?」
「はい。まずは二回放ったのに対して量が非常に少ないです。それに色も薄く、粘度が低いですね」
体を起こし、渓青が差し出した手のひらを翠蓮もまじまじと見てみる。そこには無色透明な藍月漿に混じって、うっすらと白い線のようなものがわずかに混じっていた。
「通常はもっと量が多いのですね?」
「はい。個人差や色々な状況により変化しますが、一回で小匙で一、二杯程度は出ますね。東宮殿下は……まあ、有り体に言ってしまえば「出しすぎ」ですね」
「出しすぎ……」
「今、東宮殿下の後宮には有望視されている方だけでもすでに八名ほどいらっしゃいます。それにご存知のとおりかなりの早漏ですから、一晩の交わりで少なくとも二、三度は出されているのではないでしょうか」
翠蓮は思わず指を折って数えてしまった。毎晩八人のうちの一人ずつと交わったとしても、一週間で一周しない。まして渓青は「有望」な者だけで八人と言ったのだから、それ以外にもいるとみて間違いない。それを毎晩二、三回続けていれば、ひと月だけでもいったい何回……と思った。
「……結構、体力があるんですね……」
「ふっ、たしかにそうですね。さきほど拝見しましたが、東宮殿下は陰茎だけでなく睾丸も大きくありませんでした。あれでは精液はあまり作られていないでしょうね」
「つまり、もともと大してないものを無駄撃ちしている、と?」
「お言葉は悪いですがそのとおりです。加えて、東宮での生活はかなり乱れていると聞きます。東宮殿下は食べ物の好き嫌いが激しく、お食事はだいぶ偏っているそうですし、昼過ぎに起床されて申し訳程度の政務をされたあと、夜更けまで酒色に溺れていることも日常茶飯事とか。これでは心身ともに満足がいく状態とは程遠いです」
渓青のその言葉を聞いて、翠蓮は若干顔を引きつらせた。実は翠蓮の今の生活は、渓青によってかなりしっかりと管理されている。「師匠」であるところの渓青は、栄養価が高い三度の食事、規則正しい起床と就寝、適切な鍛錬こそが健康につながると常日頃から力説していた。
さらに最近はそこに典籍の勉強まで含まれていて、意外と翠蓮の一日は忙しい。後宮の妃嬪とはもっと優雅で怠惰なものだと翠蓮は思い描いていたのだが、そんな幻想はまったく打ち砕かれた。
後宮の女たちは、公務のある皇后や職務を受け持つ女官以外は、どんな生活をしようがある意味自由だ。彼女たちの仕事は「皇帝のそばにいつでも侍れるようにしておくこと」、ただその一点のみ。ゆえに美容や服飾に大枚をはたいて、あとは自堕落に過ごす者がほとんどだった。
元・武官の渓青が「師匠」となった翠蓮は、後宮の中でもかなりの異色だろう。もっとも、そうとは悟られないようにするため、すべては自室の中で行われていたので、周囲にはいまだに「婚約者を売って、色仕掛けで太子や皇帝に取り入ったもののすぐに飽きられた女」という烙印を押されているようだ。
なにはともあれ、そういった主義をもつ渓青には、琰単の行いは「堕落の極み」と映るのだろう、と翠蓮は苦笑した。
「皆、陛下にはばかって表立っては言いませんが、お世辞にも東宮殿下は肉体面でも精神面でも、それから男性機能的に見ても「ふさわしい」とは言えませんね。それでいてあの態度ですから、もはやこれは悲劇をとおりこして喜劇かと」
「そうですね……ああ、そういえば東宮殿下にお子が多くないのもそのせいですか?」
「おそらく、そうかと」
琰単はその妃嬪の数に反して子が少ない。たしか、翠蓮より十歳ほど年長だったと思うが、男児が二人いるだけだと渓青からは聞いていた。それを思い出して翠蓮は考え込む。
「そうすると……「手駒」を産むのもそう楽ではないかもしれませんね」
「はい。ですが、ある程度妊娠しやすくすることは可能です」
「そんなことができるのですか?」
「ええ。まずは今までどおり、規則正しい生活と食事を基本に、薬膳などで体を整え、東宮殿下にも「ご協力」いただければ。幸い、殿下はまったくの「種なし」というわけではなさそうですからね。まあ、いささか怪しい部分もありますが……」
翠蓮はごくり、と唾を飲み込んだ。妊娠さえもある程度は自分で制御できるならば、勝機はぐっと上がる。問題は、それをいつに見定めるかだった。
「……さ、もうほとんど残っていないとは思いますが、全部掻き出してしまいましょう」
渓青は再び寝台に翠蓮を押し倒し、そっと秘裂に指を挿しいれた。意図しているのかそうでないのか、中で曲げられた指が翠蓮の弱点を苛む。次第に息が上がってきて、翠蓮は渓青の袖を掴んで引き寄せた。
「渓青……」
「どうされました?」
「……分かっているのでしょう。あれでは到底足りません……」
翠蓮は渓青の首に手をかけ、自ら顔を寄せて口づけた。琰単の中途半端なものでは快楽など微塵も感じなかったが、それを寝台脇の隠し窓からすべて渓青に見られていると思うと、翠蓮の体の奥底には燠火が灯りつづけていた。
もはや琰単の指が入ってきたところでどうとも思わないが、渓青の指は違う。いともたやすく翠蓮の体に火を熾す。否、渓青に指を挿し入れられている、という事実そのものだけでも翠蓮を昂らせた。
「私の熱を奪い取ってください……」
「……御意に」
翠蓮はそのまま渓青に激しく抱かれ、その指で舌で、全身を何度も蕩けさせた。幾度口づけされても、翠蓮の体の熱はなくならない。体の中ではずっと灼熱の炎が暴れ狂っている。情欲という名の紅蓮の焔が。
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